奇縁のように
商業国家ヱビス、東西を森に挟まれ、北は山脈、南は海に面した他国と比べて国土といえる土地の少ない国家である。それが何故、商業国家等という在り方なのかと言えば、その位置にこそある。
東の森を抜けた先には超大国であるフィガロス王国と、武力において王国に並び立つと言われるオルカ帝国。西の森を抜けた先には亜人達の数多く住まうシーラ共和国、海を越えた南方には海人達の国マキュリス、北のプリズムバレーを越えた先には魔族達の住まう鬼国カンがあり、ヱビスはそれらを結ぶ巨大なハブ国家として物流を担う事に成功した国家である。
その陰には物流を支えるべく発達した造船技術があり、高性能な空艇の生産によって、過酷な環境の魔族領や海洋国家に対する貿易網を築き、希少な資源を確保できた事が更なる発展を支えていった。故にその国力も高く、他国間で戦争が起きてもその国がお互いに自国の輸入品に大打撃を受ける為ヱビスは不可侵であるといった状況も、国の安全性を高め、更なる発展を遂げている一因となっていた。
まさに、世界有数の貿易大国。故にフィガロス王国の惨状は、どこよりも大きな衝撃となって伝わっていた。
「おい、知ってるか?王国の話」
「ああ、とんでもねぇ数の黒獣が押し寄せたって話だ」
「無事だった町の人間は結構逃げてるんだろ?復興なんてできるのかよ」
「教会が介入して、王都はひでぇ事になってるって聞いたぞ」
「国王が死んだってのは本当なのか?」
「教会が声明を出してる以上そうなんだろ」
商業組合本部のロビーでは、組合員達の情報交換が常日頃から起きているが、今は王国の話で持ち切りだった。
当然の話だ。彼らはその大勢が王国の町を行き来する商人であり、王国に顧客を多く抱えている。取引先の安否確認が取れないまま、身動きが取れなくなって何日もヱビスに滞在している者も多く居た。
「ぇえ!?買い取りできない?」
商品の買取り依頼を出しに組合所へ訪れたモズは出鼻を挫かれた。
「申し訳ございません。情勢の為、現在魔核は追加での買い取りを一旦停止しております」
モズは急いで宿へ戻ると、一階の食堂で皿を磨いていたルクレツィアが出迎えた。
「あらモズちゃんおかえりなさい。早かったって事はもしかして?」
「はい、ユーズさん、もう買取りが止まっていました」
カウンターに腰かけていた男にモズは話しかける。
「分かった」
ユーズと呼ばれた男はそう応えると振り返り、食堂に座っている男達に声を呼び掛ける。
「皆聞いてくれ。商業組合が魔核の買取りを止めた。恐らく王国の調査依頼が今後増えて来るだろうから、我々はそれを請けていく」
「「「はっ!」」」
「ウィッツ殿も、それで良いですか」
「異論はありません。空艇の整備も終わっている事ですし」
隣に腰掛けていた真っ白な面を着けた男、ウィッツは頷く。
万能戦士、白面のウィッツ。
傭兵達の中で知らぬ者は居ない程の知名度を誇る1級傭兵だ。何故モズがそんな男と知り合っているのかといえば、ルクレツィアと共にヱビスへやって来た折、彼らは戦利品の買取りで非常に困っていた。
ヱビスにも傭兵組合は存在するが、例外的にヱビスでの素材買取りは直接商業組合が管理している。そして大型の魔物や魔核といった値の張る素材の取引は、傭兵としての実績が積まれた者のみ許可されていた。要するに信用の低い者では駄目なのである。
ユーズとその仲間達は戦闘経験のある新人。登録したての4級傭兵だ。ウィッツは紛れもなく1級の傭兵であるが、しばらく資格を失効していた為、実績の起算日を再登録の日とされていた為、同じく信用度が無かった。
"そういう事でしたら、僕がお手伝いします!"
モズは商業組合員であり、取引実績もある為、買取り依頼人の保証人となる事ができたのだ。当初はモズも、ウィッツを騙る偽物ではないかと勘繰ったが、ルクレツィアに彼らは大丈夫と促されて、協力する事にした。
正直に言って限界だったユーズ達は、資金繰りに余裕が出来た為、拠点となる宿をモズと共同で借りる事になった。いつの間にか食堂でコックとして働く事になっていたルクレツィアと共に。
「王国だけでなく、他国の反応も気に掛けておくように。空艇を使った輸送も今後は増やしていくぞ」
そう、彼らは新人でありながら、空艇と妖精機を保有する"船持ち"なのである。没落した貴族やその関係者が払下げとして手放した品を以て傭兵稼業を始めるという者も居る。ユーズ達もその人数や保有している規模からそういった類の身の上だと説明していた。
「念の為、この国で輸送依頼を受け持つ傭兵団を調べておきました」
モズが2級紙に記録していた内容をユーズに手渡す。
「モズさんは本当に気が利きますね」
「えぇ!?いやいやそんなの、商人として当たり前というか――」
ウィッツの賞賛にモズは顔を赤くして慌てる。
「謙遜する事は無い。よく纏められている――ふむ、我々と競合しそうな船持ちは、これだな」
他国との大量輸送を行う大船団とは無縁だ。高速船である空艇を持つユーズ達にとって競合するのは、少数精鋭且つ高速な空艇を持ち、近隣諸国への輸送を長く受け持つ傭兵団である。
「疾風の足か、一度話をつけておいた方がよさそうだ」




