ヘンドリック、S級冒険者と出会う
人垣を掻き分けレギンとヘンドリックが広場の人だかりが出来ている中心に向かうと、長机が一つ人だかりの中心に置かれており、そこに椅子が四つ。四人の人物が座っていた。
机の上にはなぜかウサギが一匹。そして彼らと対面に居るのは二頭の魔物。
しかもその内一匹は先程見掛けたペガサスと瓜二つだ。
流石に同一生物だとはヘンドリックは思わなかったが、二頭が人の言葉を脳裏に届けて来るのに驚き思わず声が漏れる。
レギンも流石に初めてのことらしく驚きに目を見開いていた。
魔物は普通喋らないらしい。
まぁ、当然だろう。意思を持つ魔物など今まで居なかった筈なのだ。もしも居ると分かればそれ相応の交渉が生まれている筈である。
話を聞いているに、二頭の魔物はドルアグス、アウレリスという森の名前と一致することが分かった。
さらに、彼らがココに来た理由は北のオークとゴブリンの軍団を人間と協力して撃破するためなのだそうだ。
既に話し合いは決まっているらしく、事実確認をしている場面だった。
ヘンドリックは顎に手を当て考える。
これからココでは北の森を抜けた先に居るらしいオークとゴブリンの大討伐が始まるのだ。
その間自分たちはどうするべきか。
一先ず確定なのは、その間に森の魔物を殺すことは止めた方がいいということだ。
下手に倒せばドルアグスとアウレリスが本気で村を滅ぼしに来かねない。
自分たち勇者の一存で村一つを滅ぼさせるのは流石に後味が悪い。
つまり、城に戻るか、ここで元の日常になるまで待つか、それとも討伐に参加するか。
一番いいのは情報だけ持ち帰ることだ。危険なことに首を突っ込む必要なく城に情報を持ち帰れる。
ここで待つのは暇を持て余すだろうが二日もあれば落ち付くだろう。ただし、もしもオークやゴブリン達が勝ってしまったら? ここを襲われる可能性がある。
下手に居残るよりは逃げた方が無難だろう。
もしくは、一緒に闘うか?
闘うのはレベル的にきついかもしれない。だが、大幅なレベルアップ貢献にはなる筈だ。
「持ち帰って皆と相談、かな」
「それがいいでしょう」
そうこうしているうちに女性が一人、囲いから飛び出すように現れ、そのまま人族代表五人目として座席に座る。
話を聞くに、今この場で話をしているのは、冒険者ギルド長、神官、元冒険者の老人、S級冒険者が二人の五人らしい。
神官の護衛位なら自分たちも出来るかもしれない。
ただ、S級冒険者と顔を合わせる機会などめったにないだろう。今のうちに渡りを繋いでおくのは良いアイディアかもしれない。
思ったヘンドリックは話し合いが終わるまでしばし話を聞き続けるのだった。
話し合いが終わると、見学者たちが徐々に減っていく。
その中で、レギンも帰ろうとしたのだが、場を動こうとしていないヘンドリックに気付いて立ち止まる。
「どうかしましたか?」
「うん。もうしばらく待ってS級冒険者と話して来る。顔見せはしといた方が後に有利に働きそうだ」
包囲用の柵が取り除かれ、アウレリスとドルアグスが去っていく。アウレリスの背中に乗せられたウサギも北の森へと去って行ってしまった。
ギルド職員たちが机や椅子を撤去し始め、立ち話を始めたS級冒険者二人を残し、顔の青いギルド長とライゼンさんが去っていく。
神官はやることは終わったとさっさと教会に向かってしまっていたので、残っている二人に向かい、ヘンドリックは歩を進める。
二人して話し合っていたS級冒険者は、ヘンドリックの接近に気付き、会話を止めて視線を向けて来た。
怪訝な顔をしているが、二人とも警戒は怠っていない。
もしもヘンドリックが攻撃動作でもしようものなら一瞬で斬り殺されるだろう。
そんなプレッシャーにも似た雰囲気に飲まれないよう気を引き締めて近づく。
「初めまして、話を聞いているとS級冒険者の方だとかお聞きしたのですが」
「ああ、まぁ、そうだけど……」
「貴方は?」
「まずは自己紹介させていただきます。私はヘンドリック・ワイズマン。ロスタリス王国に勇者として召喚された者です」
ヘンドリックは言ってから勇者等と名乗って良かったのかと不安になったが、後から追い付いて来たレギンを見た二人が納得したような顔をしたのでほっと安堵する。
「勇者さんか。初めて見るな」
「何のために呼ばれたか知らんが難儀なことだ。だが、まずは初めまして、ストナ=エルレインという」
「なーにがエルレインという。だよ、無理に昔居た軍隊風に格式ばってんじゃねーよストナ」
「ふん。締める所は締めねば示しが付くまい。貴様はちゃらんぽらん過ぎるんだ」
「へいへい。あー、俺はクロウだ。よろしくな勇者様」
「すいません、勇者とは名乗りましたが名ばかりなので出来ればそういう呼び方は。それに、仲間も皆勇者として呼ばれたのでややこしくなりますし」
「ほぅ。複数居るのか」
感心しながらストナが手を差し出す。どうやら握手を求められているらしい。ヘンドリックはにこやかな笑みを浮かべ、これに応えるのだった。
 




