第16話 一途なバカ!
『では歌います! あの有名曲のほぼパクリで、タイトルは――『終物語』!』
(すーっと大きく息を吸い込む音)
『え〜んだぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜♪』
『い〜やぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜♪』
それは、あまりにもホイットニーだった。
あまりの爆音と圧倒的な熱量に、空間がビキビキと振動する。
――パリィィィンッ!
唯一の出口であったエンダーゲートが粉々に砕け散った。
ゴォォォォォッ!
強烈な炎が一同を襲う。最終安置の外側は一瞬にして紅蓮の炎で焼き払われ、巨大な大仏の手のひらが、まるでステージのように赤々と照らし出された。
『—————————』
そのステージの中央で、ブワッと突如ツアーゼルの全身が光り輝いた。
「呪いが......解けた!?」
女神の力を取り戻したツアーゼルは強力なバリアを展開し、迫り来る炎を防ぎ切る。
「皆さんあまり見ないでください! この格好、恥ずかしいのです!」
田中は即座にサッと目を伏せる。
そのあまりに素直な態度に、ツアーゼルはふっと微笑んだ。
「先ほどのゲートを魔法で再構築しました。皆さん、そのゲートから脱出を」
光り輝く魔法の陣が、崩壊していく世界を眩しく照らし出す。
「俺たちのゲートより綺麗だな……」
一条がゲートを見上げながら感嘆の声を漏らす。
「そんなこと言ってる場合ですか! 急ぎましょう!」
一条、愛住、パンちゃんの3人が光の中に吸い込まれていく。
「田中さまも、お急ぎを!」
「ツアーゼルも行くんだよ!」
ツアーゼルは、田中にまっすぐな視線を向けたまま静かに首を振った。
「田中さまが先に行ってください。私はこの魔法を維持しなければならないのです」
そう言うと、ツアーゼルはあの日と同じ微笑みを田中に向けた。
違和感を覚えた田中が、彼女の足元へと目を落とす。
彼女の両足はすでに、この世界の――大仏の手のひらと同化していた。
「どうやらこの世界の消滅とともに、私も消える運命にあるようですね」
寂しげに笑みを浮かべるツアーゼル。
だが、田中は迷わない。
躊躇なく彼女の元へ駆け寄ると、その細い肩を力強く抱き寄せる。
「ツアーゼル! 俺が助ける! この命を懸けてでもだ!」
――その言葉が、崩壊する世界を激しく揺らした。
この世界の法則が、この瞬間から、書き換わっていく。
【スキル発動:『惚れた女に命を懸ける男』】
田中の全身から、爆発的な桃色のオーラが吹き荒れた!
理屈も。常識も。この世界のプロットすらも。
――全部、ねじ伏せる。
それは『一途なバカ』による、限界突破だった。
「ぬおおおおおおおおっ!!」
スポン!!!
田中は、大仏の手のひらと同化していたツアーゼルの身体を、桃色のオーラを纏った腕で強引に引き抜いた!
「田中さま……っ!?」
「行くぞツアーゼル! 俺たちの世界へ!」
驚愕するツアーゼルをそのまま『お姫様抱っこ』すると、迫り来る炎の波を蹴り飛ばし、光のゲートへと弾丸のように飛び込んだ。
「ゲートが……! 私の魔法が無効化されていきます……!」
ツアーゼルが焦りの声をあげる。
消えかけて光の粒子となっていくゲートに向かって、田中は吠えた。
「俺たちの邪魔をするなァッ!!」
【スキル発動:『初デート!!!』】
荒ぶる田中に応えるように、散りかけていたゲートが再び眩しく輝き出す!
「行くぞ!」
その声に、ツアーゼルはぎゅっと田中の胸元にしがみついた。
トンネルの中には、なぜか満開の桜が吹き荒れていた。田中は力強くそこを駆け抜けていく。 腕の中に、ツアーゼルをしっかりと抱きかかえたまま。
ひらり、と一片の桜が舞い降りた。
ツアーゼルは、胸を熱く震わせながら田中の横顔を見つめる。
「田中さま……」
「ん?」
「……これが、あの……『初デート』なのですね?」
「そうだ!」
「……ところで私たち、どこに向かっているのですか?」
「わからない……! だが一緒だ!!」




