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第八話 青い炎

 高原の中を一匹の巨大な生物が歩く。その巨大な生物を目掛けて、設置された砲台が、それを目掛けて次々と発射される。

 その足音・砲声、そして砲弾が目標物に当たったときの衝撃音が、高山地帯を轟音の嵐で包み込んだ。あまりに凄まじい音に、ネズミ・ウサギ・テンなどの、高地に生息していた動物達が、一斉にその気絶しそうな轟音から逃れようと、懸命に遠くへと駆けてゆく。

 巨大怪獣と砲撃部隊との戦闘は、怪獣映画では定番のシーンである。だが怪獣=鷹丸は、いまいち面白いとは思えなかった。


(何だよ、この攻撃? 痛くも痒くもないぞ。あの砲台、安物使ってんな)


 十門近い砲塔から発射される砲弾は、そのほとんどが鷹丸の身体に命中している。あれだけ大きな的、外す方が難しい。

 だがいくら命中しても、鷹丸の身体には傷一つつけられなかった。鷹丸は安物と評していたが、実はあの大砲は、向こうの世界の最新型兵器と、変わらない性能を持っている。

 だがそれでも、鷹丸の屈強すぎる肉体と、その肉体を覆う鋼よりも固い鱗には、何の効果ももたらさなかった。これを見ると、この怪獣の身体に傷をつけた、直人の戦闘力が、どれほど強大であるのかが、よく判る。


 無数に放たれる砲撃の嵐など、何の妨げにもならず、鷹丸はどんどん前進していった。やがて一つの砲台が、彼のすぐ足下にまで近づいた。

 そこから放たれる、砲台を操作する葉魔達は、例えすぐ目の前に怪獣の巨体が現れても、全く恐れずに攻撃を続けた。


(うわっ!? さすがこれはちょっと痛いな)


 至近距離からの威力最大限の砲撃は、彼に多少の痛みを与えたが、所詮はその程度であった。

 鷹丸は右足を持ち上げて、それを砲台に向かって振り下ろした。その一撃で終わった。全金属製の砲台は、操作している葉魔もろとも、紙の玩具のように、簡単にグシャリと潰してしまう。

 その途端、内部の火薬が暴発したのか、足の裏で大爆発が起き、砲台は跡形もなく吹き飛んだ。


 砲台はまだまだ残っている。両脇から残りの砲台が、休まず続けざまに砲撃を続けている。鷹丸はそこに向かって、高原を歩き回り、砲台を潰し回った。

 全てを潰し終える前に、何台かの砲台が攻撃を停止している。鷹丸には判るはずもないが、発砲を休まず無理に続けたせいで、機械がいかれたらしい。


(後はあの城だな・・・・・・)


 ちょうど城の周りを、グルリと一周する形で、全ての砲台を破壊した鷹丸は、最後の標的である城に目をつけた。

 今の彼の身体ならば、あれをお菓子の城のように、簡単に崩してしまえるだろう。だがそこで鷹丸は、あることを試してみることになった。


(これは俺の夢だ。だったら俺の記憶にあるガルゴと、同じ事ができるはず・・・・・・)


 鷹丸は映画に出ているガルゴの動作を真似て、口を閉じて身体をやや前屈みにする。そして頭の中に、巨大な炎が燃え上がる光景をイメージし、全身の筋肉に振るわせて力み始めた。

 これらの動作に意味があったのかは不明だが、鷹丸の望んだ変化が現れた。鷹丸の身体の奥から、とてつもなく熱いエネルギーが発生し溜め込まれる。

 そのエネルギーは一部体内から漏れ出し、彼は青い炎の鼻息を吹いた。そして視線の向こう側にある城に向けて、口を思いっきり開け放つ。


 ズゴォオオオオオオオッ!


 口から放たれたのは、青い熱線だった。放射される膨大なエネルギーが、大河の激流のように空中を一筋に流れ出す。

 あっちの世界では、怪獣という概念が生まれるよりも遙か前、ドラゴンの説話などでも描かれる姿。巨大生物が口から炎を吐く光景である。


 熱線はもの凄い速度で城に迫り、ついにそこに直撃した。城のある一カ所に、青い光の爆発が放たれた。

 核爆発にも匹敵するエネルギーが、強烈は熱と衝撃波で、その城を消し飛ばす。光は一瞬で収まった。


 鷹丸の口から放たれた熱線は数秒で止まり、彼の口からは水をかけた直後の焚き火のように、大量の白い煙が湧き出ている。

 そして彼の目の前にある光景に、あの城の姿はなかった。代わりにあるのは、直径1キロメートル以上はある、巨大なクレーターであった。周辺の縁から大量の煙が吹き出ている。

 よく見るとそのクレーターと、無傷の大地の境界にあった雑草が、あまりの高熱で発火しているのが判る。その穴は深さも相当で、大地に半球状の凹みを作っていた。まるで巨大なくり抜き器で、大地を削ったようだ。


 広大な大地に、ぽっかり空いた綺麗な穴。雨水が溜まれば、立派な湖となるだろう。






 城の焼失か数十分後。その場所に鷹丸に乗った、あの少女が来訪した。


「何てこと・・・・・・」


 そこに形作られた、あまりに巨大な穴を見て驚愕しながら、少女はそこに降り立つ。穴の周辺には、火が燃え広がり、山火事が起こりつつある。


(まずは火を消さなきゃね)


 少女は背中に差した刀を引き抜いた。何を斬るのかと思ったら、そうではない。

 刀を炎が拡大する大地に向けて、突き刺すように真っ直ぐ向けると、その刀身が青く広がり出す。刀身を、竜巻のような不思議な渦が生まれたと思ったら、刀から大量の水が放出された。

 いったいどこから、これほどの水を捻りだしているのか不明だが、刀からまるで消防ホースのように、大量の水が激流のように放水される。その量と勢いは、本物の消防車にも劣らない。その水がシャワーのように拡散し、草原に広がる炎に降り注いだ。


 この世界は、外見は江戸時代風でありながら、多くの機械器物が見受けられてきた。だがこれはさすがに、機械技術の力では説明しきれない、超常現象である。だ

 がこれを見て、その威力に驚く者はいても、何もないところから水が出てくる怪奇現象を、不思議に思う者はいないだろう。この力は魔法といって、機械技術以上に、この世界に浸透している力である。


 炎は見る見るうちに勢いを弱めて、草原の火災は1時間も持たずに鎮火された。消防活動が終わった少女は、ずぶ濡れになった地面を歩きながら、あの巨大な穴に向かう。

 すぐ足下に広がる、広大な穴を見て、少女は悲嘆に暮れながら思った。


(若松さん、この辺りにいたのかな? てことは、あと四時間ぐらい待たないと行けないか・・・・・・)


 その後、時間を潰しがてら、少女は辺りを飛び回ってガルゴの行方を追ったが、結局前回同様に見つけることはできなかった。

 ガルゴの足跡を追ったものの、やはり今回も、不自然にも途中で途絶えていたのだ。






 時間が昼頃に入り始めた時間。その穴の一点に、不思議な光が発生していた。穴内部の坂の一カ所に、緑色の光の粒が無数に、まるで星々のように空中に浮きながら輝き始める。


(来た!)


 それを上の方から見ていた少女が、待ち構えていたかのように、穴の中を降りていった。坂を駆け下り、走りながら、その光の方へと向かっていく。


 その数十の光の粒はどんどん大きくなり、やがて光同士が結合し始めた。光の球が次々と一個の巨大な光へと巨大化していく。それは大きくなるだけでなく、まるでアメーバのように形を変え始めた。最初は球の形をしていた物が、どんどんに人に近い形になっていく。手足・胴体・頭などの主要部分だけでなく、髪型などの特徴も鮮明になっていく。

 やがてその光が消えた。いや、正確には消えたのではなく、その人の形をしていた何かが、光が消えて、本物の人へと変じたのである。

 巨大な穴内部で、呆然と座り込むその人物は、素っ裸のあの葉っぱ少女であった。


「若松さん!」


 既にすぐ側まで寄っていた少女が、放心状態の葉っぱ少女=若松にそう呼びかける。それに呆然とした表情をしながらも、座り込む自分を見る隣の少女を見上げた。


「佐藤さん? ・・・・・・私はいったい・・・・・・うわっ、何で裸!? 嘘っ、服は!?」

「大丈夫、ここには私しかいないから。それより若松さん、こうなる前の最後の記憶は?」


 自分が裸なのに気づいて、初めて我に返って慌てる若松を、少女=佐藤は落ち着いた口調で問いかけた。


「そうだ、思い出した! 私の城にあの怪獣が攻めてきたのよ! 私は窓の方から、それを見てたんだけど・・・・・・確かにこっちに向かって、あいつが口を開けて、そこが何か光ったと思ったら・・・・・・あとどうなったか判らないわね・・・・・・」

「そうなんだ・・・・・・うん。ちゃんと生き返れるかどうか不安だったんだけど、大丈夫そうで良かった」


 安堵の表情を浮かべる佐藤に、若松は事態が呑み込めず、首を傾げる。


「生き返る? 私って一回死んじゃったの? というか、ここどこよ? 私のお城は?」


 この言葉に佐藤は、何故か気まずそうに目を反らしながら応える。


「・・・・・・ここがそのお城があった所よ。・・・・・・私はその場を見たわけじゃないし、はっきりとは言えないんだけど・・・・・・。多分ガルゴの青炎光線を受けて・・・・・・上見てみる?」


 不思議そうな顔をしながらも、若松は佐藤に手を引っ張られて立ち上がり、共に坂を上っていく。そして真上から一帯に広がる巨大な穴を見て、少女は愕然としていた。


「・・・・・・ほえ?」


 若松は口を大きく開いて固まっていた。今まで谷底のどこかかと思っていた場所が、自分の居住していた場所の成れの果てだったことを理解した故に。

 穴の周辺を取り囲むように、あの破壊された砲台の数々が存在するのだから、疑う余地がない。自分が苦労をかけて建設した城が、欠片も残さず消えている事実に、若松はあまりのショックで固まってしまった。


「若松さん?」


 佐藤が彼女を揺さぶってみるが、若松は石像のように動かず、眼前の受け入れがたい光景を凝視し続けている。この様子だと、しばらくは動かないだろうと、佐藤は気の毒そうな目を向けながら嘆息する。

 とりあえず服は着せるべきかと思ったが、生憎この場所に身体にかけるような布など無い。彼女の消えた城にならあっただろうが、今は城ごとこの世から消えた。このまま引っ張ってでも外に連れて行くのも何だろうと、しばらくの間若松をその場で放置することにした。


「決めたわ! 私、あんた達に協力して上げる?」

「えっ? 何を?」


 しばし面白いぐらいにあの場で硬直し続けた若松が、唐突に動き出して、隣で居眠りしかけていた佐藤に声をかけた。

 今まで微塵も動かなかった者が、何の前触れもなく突然動き出して声をかけたことに、佐藤はやや驚く。どうやら無心で穴を眺めているように見えて、実は色々と考え込んでいたらしい。


「何って、あの怪獣をぶっ殺すのよ! あんにゃろ、私の城をこんなにしやがって! 滅茶苦茶にして、全身の鱗を引っ剥がして、新しいお城に飾り付けてやるわ!」

「お城作りはやめないんだ・・・・・・」


 たった一人で城を作り、そこでたった一人で住んでお姫様気取りをすることの、何が楽しいのか佐藤には未だに理解できなかった。

 だが意外と速く再起できたことに、心配していた佐藤は素直に喜んだ。このまま立ち上がれずに、自殺でもするのではと危惧していたぐらいだったのだ。

 まあ、ある理由で、死んでも死ぬことはないだろうが・・・・・・


「ていうか先生は、ただ危ないから皆で集まって、色々考えようって言っただけで・・・・・・別にガルゴと戦うとまだ決めたわけじゃ・・・・・・」

「最終的にそうなるでしょうか? それともそれ以外の対策でもあるの?」

「まあ、そうだろうけど・・・・・・」

「とりあえずあんた達の拠点に連れていきなさいよ! そんであちこちに好き勝手やってる奴を呼び集めるわよ! 私の電話は無くなっちゃったから、あんた達のを借りるわよ!」

「・・・・・・うん。でもそのままで町に入るのは駄目だから。私が服を取りに来るまで、待っててちょうだい」


 裸のままで鷹丸に乗りこもうとする若松を、佐藤はそうやさしく宥めながら止めた。



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