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第六話 鬼の剣士2

 彼らの存在に反応したのは、直人だけではなかった。彼が今戦っている怪獣=鷹丸も、その声のした方向に顔を向けている。

 直人に対して行われていた踏みつけ攻撃は一旦止み、戦闘は一時中断状態になっていた。


(天者? それって勇者のことか? 判りにくい表現だな、俺の夢の中なのに・・・・・・)


 そんな思考を張り巡らせている一瞬の隙を、直人は見逃さなかった。彼の持つ刀の刀身が、今までになく強い光を放ち始めた。

 大量のエネルギーを注入し、最大限の必殺の一撃の準備をしているのだ。そして未だにこっちに顔を背けた敵に、一気に駆けだした。


「喰らえぇええええっ! 大斬撃!」


 彼の刀が、鷹丸の足に向かって振られる瞬間に、彼の刀の刀身が如意棒のように一気に伸びた。

 元の三倍ぐらいの長さになった光の刀身が、勢いよく鷹丸の足を、これまでにない威力で斬り付けた。


 ザシュ!


 刃が鱗を貫き、鷹丸の足の肉を切り裂く。直人の手に、これまでに無い確か手応えを感じ取った。光の刃によってつけられた大きな切り傷からは、これまでに多くの血が飛び出した。

 突進して彼の足を切りつけた直人は、鷹丸の足下から後ろ四十五度の方角へと飛び出す。攻撃を加えると同時に、敵の背後をとった感じだ。直人の視界に、鷹丸の背中から右側面の姿が見える。


「おっしゃもう一発だ!」


 今の一撃は、奴にかなりの深手だったはず。倒れはしなかったものの、しばらく奴はダメージで、足をバランスよく動かせないはず。

 その隙にさっきと同じ威力の必殺の一撃を加えようと、刀身に渾身の力を注ぎ込む。再び強い輝きを放ち始めた刀を構え、再度突進する直人。敵はこっちに振り向く様子はない。この調子で何度も攻撃を続ければ、確実に敵は倒れると確信した。


 だが・・・・・・


 バキッ!


「ぐげぇ!?」


 鈍い音と共に、直人の身体に凄まじい衝撃が走る。その衝撃の痛みで、潰れた蛙のような声を発する直人。


 いったい何が起こったのか? 鷹丸には後ろを取られても、敵を攻撃する手段を持っていた。背後から突進する直人を、尻から伸びる、太くて長い尻尾で、思いっきり叩きつけたのである。

 直人は一つ勘違いしていた。確かに鷹丸は、彼の攻撃で傷を負い、確実にダメージを与えていた。だがそれは、彼が思っている程、大きなものではなかったのだ。


 彼が斬り付けた足からの出血は、人間の視点からすれば、かなりの量だった。だが大怪獣の体格からすれば、小さな切り傷からの軽い出血である。人間の感覚ならば、舐めて唾つけて、絆創膏貼れば済む程度の傷だ。

 勿論痛みは感じるから、多少身体のバランスを崩しただろうが、直人が再突撃したときには、それはもう終わっており、既にいつでも反撃できる状態だったのである。


 鞭のように勢いよく振るわれた巨大な尻尾に、見事受けてしまった直人。彼の身体から、ビキリと、骨が軋む音が聞こえ、彼の口からは血が吐き出された。

 鷹丸は尻尾を上向きに振り上げ、直人の小さな身体を、直角の地面から三十度の方角に吹き飛ばした。直人の身体と、鷹丸の尻尾が、まるで野球のボールとバットの関係のように、警戒に打ち出された。


 何百トンあるかも判らない体重から放たれた一撃で、数十キロ程度の直人の身体は、ボールのように高らかに飛ぶ。その様子は野球で例えるならば、見事なサヨナラホームランボール。

 尻尾に弾かれた直人は、遙か彼方の空へと吹き飛ばされ、あっとうまに見えなくなった。


 彼の姿が見えないほどの距離まで飛ばされたとき、空にキラリと☆のような光が見えた気がした。


「何てこと!? 天者様が、お空のお星様になってしまったわ!」

「大変だ、逃げろ!」

「何カメラ背負ってんだ、お前! そんなもん捨てて、速く逃げろ!」


 野次馬をしていたはた迷惑な者達も、さすがにこの状況のやばさに逃げ出した。この世界での初戦闘に勝利した鷹丸は、両手を挙げてガッツポーズをとる。


(うっしゃ、気分良し! 次はもっとでかいのと戦いたいな。俺と同じぐらいの怪獣みたいなのと。何ならロボットでもいいけど)


 天者が打ち倒された山村に、怪獣の勝利の雄叫びが、遙か彼方にまで鳴り響いた。






 ガルゴの襲撃から数時間後、あの少女と巨漢の男が、あの巨大鳥に乗って現場まで来ていた。だが二人は驚きと困惑に満ちあふれていた。


「湖からは何も出てきていないんだよ! それなのに、突然森の中に姿を出てきたって言うの!? 瞬間移動でも出来るわけ!?」

「意外とそうかもしれんぞ? 転移の魔法というのも、無いわけではないらしいからな」

「そんな!? ガルゴにそんな反則的な力、無いはずだよ!?」

「現実と映画を混同してないか?」


 幸いガルゴは、直人を倒した後、さっさと森の方へと引き返していった。その後の奴の消息は不明だ。


 ガルゴの踏みつけ攻撃のせいで、村の一カ所に、いくつもの深い足跡が出来ている。水を流せば溜め池に使えそうだ。

 それと戦闘の際に巻き込まれて半壊した家が一軒。そして戦闘によって起こった地震のような揺れで、各地の家の器物が壊される被害が多数。死傷者はゼロ。


 魔物の襲撃の被害としては、実に小さな被害である。だからといって、小事として流せるようなことではない。

 まもなくして百和田の方に集中させていた兵力の一部が、こっちの方に回されてくる筈だ。今自分たちがこの村でできることはないと判断した少女は、村の端の戦闘跡に集まっている人々に問いかける。


「それで剣崎君はどうしたの? 連絡はある?」

「判りません。随分遠くまで吹き飛ばされてるので、方角は判りますが・・・・・・」

「そう・・・・・・まあ別に探す必要もないよね。どうせ死なないだろうし」

「ええ・・・・・・まあ・・・・・・」


 少女の返答に、何故か納得する村人。倒された仲間のことを、微塵も心配せず、それを誰も気にとめない姿は、何やら妙なやりとりである。


「先生、ここお願い。私はガルゴを探しに行くわ!」

「うむ。そうだな、村のことは任せろ」


 村の中央で待機させていた巨大鳥に、少女は今度は一人で乗りこんだ。


「行くよ! タカ丸!」


 少女が手綱を引いてそう叫ぶ。どうやらこの巨大鳥は、タカ丸という名前らしい。


 何故かガルゴの正体の少年と、同じ名前である。更に言えば、これだけ大きなワシタカ目だと、鷹ではなく鷲と呼んだ方がいい筈だが・・・・・・


 タカ丸が一声鳴いて羽ばたくと、突風と共に、彼の身体が騎乗する少女共々浮き上がった。あれほど大きな身体を、羽ばたきだけで浮かすなど不可能だろうが、タカ丸は特殊な力で自分の身体を軽くしていた。

 空へと舞い上がる少女とタカ丸。村人から聞いた、ガルゴが向かっていた方角へと飛ぶ。

 別に方角を気にしなくても、ガルゴの足跡を辿ることは容易だ。何せ奴の通った後には、1本の林道が、蛇のようにずっと伸びているからだ。


(奴は村には興味も示さず、剣崎君を倒してすぐに去った・・・・・・。もしかして奴の狙いは、最初から剣崎君だった?)


 何もかも判らない中、少女の中にそのような推測が生まれた。その後彼女は、ガルゴを見つけることは出来なかった。

 ガルゴの通った跡の林道は、不自然なぐらいとぷっつりと、途中で止まっていたのだ。






 昨日と同じように、何事もなく鷹丸は自室のベッドの上で目が覚めた。起き上がると昨日とほとんど変わらない風景。

 床に読んだ後放って置いた、ガルゴ3のパンフレットが粗末に放置されている。それを見て、鷹丸は一息吐いた。


(またあの夢を見たよ。まさか自分がここまで、あの怪獣映画にはまるとはな・・・・・・)


 怪獣は今でも好きだが、幼かった頃と比べれば、大分熱が冷めたと思っていた。だがそれは自分でそう思っていただけで、心の底ではかなり重傷なぐらいはまっていたのかも知れない。


(うん?)


 布団をめくって、ベッドから起き上がろうとしたとき、鷹丸は自分の身体の一部に違和感を覚えた。そこは右足の足首の付け根の部分である。滲むような痛みが、軽く感じられる。

 ベッドから足を出し、その部分に目をつけた。そこには横向きに走る、線上の小さな痣がついていた。特に出血は無く、痛みも大したこともない。


(いつの間についたんだ? この傷・・・・・・知らないうちに、どっか引っ掻けたのか?)


 そこで鷹丸は、その細い痣がついた部分が、夢の中であの直人という鬼少年に斬られた部分と、同じ部位であることに気がついた。


(こんな傷がついたから、あんな夢を見たのか? 潜在意識ってのは恐ろしいな・・・・・・)


 本来考えるべき発想が、全く逆な気がするが、あれが夢だと思っている鷹丸は、そんなこと微塵も気にしない。

 階下に降りると、父方の叔父夫婦が朝食の準備をしていた。挨拶を済ますと、今日はいつもより早めに起きたので、居間に置いてあるパソコンに座り、しばらくネットサーフィンをしてみる。

 最初は最近ハマリ気味らしい、ガルゴの名を検索して、色々見て回っていた。


(・・・・・・そういえば?)


 だが途中で、あることが気に掛かって、別の単語を書き込んで検索した。

 その単語は“弘後市立北小学校”。鷹丸の母校であり、ある理由で卒業出来なかった小学校の名前だ。


 検索したところ、その名前はかなりの量、検索に引っかかった。

 その名前を掲載しているページの多くには、“弘後市立北小学校 六年二組 集団失踪事件”と記した文があった。



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