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第三十四話 穴の中にて

 全ての人間が石化し、無人となった世界。その世界で、何故か大がかりな山道工事が行われている場所があった。

 広い山林を幾筋もの広い山道が、急ピッチで作られている。大量の木々がもの凄い勢いで、メキメキと倒れていき、そしてとても大きく重い物体に地面ごと潰されていき、大地が平らになっていく。それも一筋ではなく、その場六本もの線が引かれて、山林の木々が薙ぎ倒されている。

 それを行っているのは、人間が乗る工事車両ではない。それはとてつもなく大きな生き物。あの七首石眼達が、群れを成して山林を移動しているのだ。


 彼らのあまりにもの巨大な身体であるため、その身が動くだけで、大規模な破壊が行われてしまう。

 七首石眼達の、長く太い胴体が通り抜けた後には、多くの潰された木々が倒れている、立派な林道が出来上がっているのだ。

 そしてその林道を通って、七首石眼達の後を追う者達がいる。それはカルガモ親子のように、七首石眼の後ろを通る、大量の大型の石眼達である。

 その身体は、この世界に新たな七首石眼達が現れたときよりも、更に大きくなっている。その巨体故に、障害物の多い森林の中よりも、先頭を進む七首石眼の通った後についていっているようだ。彼らが通ったことで、更に地面が慣らされ、山道が踏み固められていく。


 今この山林を通っている七首石眼達は、全部で六匹いた。最初に二匹が出た後も、しばらくして次々と後続がこの世界に出てきたのだ。

 大量の石眼達を後ろに引き連れて、軍隊の行進のように突き進む、七つの頭を持つ巨大怪獣達。彼は何にも気をとられずに、真っ直ぐに進む。

 途中で村に遭遇しても、全く躊躇せず、家屋や畑を踏みつぶして、前進していく。その行き先は、天者達が今いるあのヤキソバ像のある廃町である。

 その獲物を追うような姿は、明らかに友好的な目的で、彼らに迫っているようには見えない。そして彼ら石眼達の戦力は、前に鷹丸が戦ったときよりも、遥かに勢力を高めていた。


「ジャアッ!?」


 だがどうしたことか、六匹の怪獣達は、唐突に動きを止めた。今まで驀進していた巨体が、急に立ち止まったため、その後ろを追っていた石眼達が、次々と彼の尻尾に激突し、隊列が前から後ろへと乱れ始める。

 何がどうなったのか、七首石眼達は、そのいくつもの首を、キョロキョロと騒がしく動かしながら、何やら混迷しているようだ。







 三日目の朝になって。天者達は今どうしているのかというと、地面の下にいた。どこかの山の下にて。


 そこは東京ドームのような巨大な空間が空けられていた。その地下空洞は、壁がコンクリートのように固くなっており、天井から下にかけて、幾つもの長くて太い柱が立っている。

 以前犬神達が立て籠もった、あの洞穴に似た感じだ。


 中心の天井の所には、魔法で生み出したと思われる太陽のような光球が浮かんでおり、それが電灯の役目を果たして、地下空洞を明るく照らしている。

 その洞穴の中で、天者達が全員いた。戦いの準備をしているわけでもなく、皆何もやることがなくて、ダラダラしている感じだ。

 ある者はぼんやりと天井を眺めながら、寝そべっている。

 ある者は地面に変な落書きをして、暇つぶしをしている。

 ある者は瞑想のようなポーズで精神を高めながら、そのまま寝息を立てている。

 ある者達は、相撲のような取っ組み合いをして、力比べをしている。地盤崩壊を招く恐れがあるために、ここではあまり激しい戦闘訓練は出来ない。


「うわ~~~暇だ~~~~何かないか~~~~」

「ねえ・・・・・・ちょっと外出ていいかしら? 町に何かおいしい物が残っているかも・・・・・・」


 何もやることがなくて、直人が悲鳴を上げる。梅子が食べ物に不満があって、そう提言するが・・・・・・


「駄目! 一階でも外に出たら、それでもうばれちゃうだろ!」


 そう翔子が一喝して終わる。


「俺たちの桃と蜜柑は不満か?」

「不満だ」

「ていうか気持ち悪い。人の体内から出てきたもんなんて・・・・・・」

「傷つくな、おい・・・・・・」


 こんな密閉空間でも、食糧と水には困らない。水は、水系統の魔法でいくらでも出せる。

 食糧に関しては、葉人の出番だ。葉人は頭から植物を無限に生やす力がある。それは頭から果物を成らすこともできる。

 現在、雉本 武の頭から、一本角の鬼のように太い茎植物が生えてきており、そこから伸びる何本もの枝からは、新鮮な桃がなっている。

 武の身体から生えてきて、プラプラと揺れているその果実。武は自信の身体の一部であるそれを、手でもぎ取っていた。

 人の頭から生えてきた物を食べるというのは、皆が生理的に嫌悪を覚えていたが。一応食糧には困っていないが、皆がこの何もない空間で牢獄に閉じ込められたかのようなストレスを感じている。

 最初は天者同士で、別れていた間の出来事などで、皆盛り上がっていた。だが二日ぐらい経つと、話題もあらかたなくなり、今はこの有様である。


「うう~~~退屈で死にそう~~~」

「我慢して! 私も結構つらいんだから・・・・・・」

「ていうかさ・・・・・・こんな所に隠れて、本当に意味あんの?」

「意味ならあるわよ。あの蛇共、私達が見つけられなくて、あちらこちら動き回ってるわ」


 最後に答えたのは葉子である。彼女は数時間おきに、占いで石眼達の動向を探っていた。ある意味レーダーの役割を背負っている。


「鷹丸の言うとおりだな・・・・・・本当に地下に潜れば、奴らをまけるのか・・・・・・。これにもっと早く気づいてればな・・・・・・あのアジトは地下にあったのに」


 そう嘆く犬神に後悔の念が感じられた。


「そんで私らは、後どのぐらいここにいればいいわけ?」

「そのぐらい自分の力具合で判らない? このペースだと、あと一週間ぐらいかかるわよ」

「一週間? うお~~~なげえぜぇ~~~」


 また直人が騒がしく叫ぶ。そもそも何故彼らは、こんな所に隠れているのか? それは石眼達の戦いに備えて、自分たちの力が完全に戻るのを待つためである。


 突如この世界に大量に出没した石眼達。彼らと決着をつける前に、一つ大きな問題があった。それは翔子と清司郎以外の天者全員が、石化解除の際に一度死んでいることであった。

 天者達はまさに不死身で、死んでもまた生き返れる。だがその代わり、復活してからしばらくの間は、健常状態の時よりも、力が弱体化してしまうのだ。

 力が完全に戻るまでの時間には、死に方によって、かなりの差がある。そして石化復活した彼らの力が、完全に戻る気管は、おおよそ十日前後なのである。



 その間今まで皆で情報共有したのだが、その時に有益なのかどうか微妙な情報ももたらされていた。それはこことは別大陸にいるらしい、ヤキソバとは別個の麒麟の存在だった。


『前に城で暇つぶしに、世界の魔物図鑑とか見たときなんだけどさ・・・・・・』


 こんな風に情報提供したのは齋藤恵真。話しに寄れば、ここから遥か西の大陸に、“タンタンメン”という名の麒麟の存在が伝わっているという。麒麟という種族の他に、名前の部分でもヤキソバと何か繋がりそうな名前だ。

 そしてそいつは火山の火口で溶岩に浸かりながら、千年以上も眠っているという話しだ。

 溶岩中に下半身を浸けても、その身は全く焼ける様子はなく、銃で撃っても傷一つつかず目を覚まさない。

 そんな奇怪な生き物が、その地方ではあまりに不可解な謎の生物として、名が知れているのだ。ちなみに何故名前がタンタンメンかというと、そいつは首輪がついており、それに名前が書かれていたかららしい。

 だがそれがヤキソバと何か関係あるのか、石化病解決の糸口になるのかは、現時点では全く判らないのだが・・・・・・



「ところで今さらなんだが・・・・・・」


 話すことがなくなった鷹丸が、何かを思い出したかのように口を開く。声をかけているのは翔子である。


「何でこいつ、俺と同じ名前なんだ?」


 鷹丸が指さしたのは、この空間の隅っこに座っている、一羽の大型猛禽類=タカ丸であった。

 このタカ丸はさっきまで葉人の天者達が創り出した果物を、迷わず食べていた。猛禽類なのに、雑食であるらしい。そして現在はおとなしく羽を畳み、巣で物を暖めているかのように、じっとしている。


「初めて翔子がこいつの名前を呼んだとき、俺結構混乱したぞ。何だか自分の名前を呼ばれたみたいでさ・・・・・・」

「ああ・・・・・・ええと・・・・・・」


 鷹丸とタカ丸。確かに紛らわしい名前である。この問いに、翔子は口を歪ませて、何やら言いづらそうだ。その様子に、他の仲間達は何やら冷めた視線だ。


「ちったあ、別れよ馬鹿が。こいつはお前がいなくて寂しかったんだよ・・・・・・」

「でも確かに呼びづらい名前よね。今さらだけど改名しない?」

「じゃあタカ丸二号とでも呼んでみるか?」


 新しい話題で皆が暇を潰している間、翔子は何も言えず口ごもり続けていた。



次回更新、いつもよりも遅れます。

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