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第二十六話 ガルゴ、再び

 かつて拓也達三人の天者が拠点にしていた、城壁の街=山辺地町。あのガルゴの騒動がしばらく時間が経ち、内部の町並みも大分復旧していた。

 町を守る城壁も、特に問題なく使われている。というか、以前の戦闘で城壁に大きな損傷を受けることはなかったのだが。


 だが現在この街は、ガルゴとは別の敵との戦いで、騒がしくなっていた。


「なるべく奴の目を見るな! 光り始めたら石にされるぞ!」

「見もせずにどうやって倒すんですか!?」

「勘で狙え!」

「そんな無茶な!?」


 一帯に無数の砲声が、耳がいかれそうになるほどに鳴り響く。大量の砲弾が周辺の山林に着弾し、木々が倒れ、大地が抉れていく。

 以前ガルゴによって、森の一部が破壊されたが、今回のこれは、以前の比ではない。自然破壊などと論議している暇はない。この城壁都市は、現在石眼の大群によって包囲されているのだ。


「「ジャジャジャッ!」」


 城壁をグルリと囲んで、数百匹の石眼が、森の中から姿を現す。どれもかなり大きい。向こうの世界や、初期の段階に出てきた、普通の蛇サイズとは比べものにならない。

 かといって、以前ガルゴが倒した大怪獣よりはずっと小さい。牛ぐらいの者から、象ぐらいまで、大きさはまちまちであった。


 ある時期から、小型の石眼は姿を現さなくなり、このような大型の石眼が出現するようになっていた。


 城壁から次々と発射される砲弾が、周囲にいる石眼達がいる付近へと発砲される。だが中々弾は当たらない。

 それもそのはず、砲撃主達は皆、あの光る目を恐れて、敵の位置を丹念に見ることが出来ない。チラチラと、細目で敵を見ながら撃っているのだ。

 何発か当たるものの、敵の身体が頑丈なせいか、一撃で致命傷に出来ない。


 何匹かの石眼達が、砲弾が飛んでくる城壁目掛けて、石化眼を放った。赤い光がいくつか城壁を襲う。

 狙撃手の大部分は、石眼の不審な動きに気づいて、目を閉じて何を防いだが、一部の間に合わなかった者が、砲口照準装置に手をかけた状態で石化していた。

 これを見て、別の憲兵が代わろうとしたが、ハンドルを握った状態で固まった仲間が邪魔で、交代が不可能である。


 そうこうしている内に、石眼達は城壁の壁際にまで接近していた。何匹もの石眼が、壁に身体をくっつけて、上半身の胴体を伸ばして、壁に昇ろうとする。

 だがさすがに垂直の壁を昇るのは無理があるのか、身体を伸ばしながら右往左往していた。やがて無駄と気づいたのか、石眼達は壁から少し離れ、一斉に壁際を伝いながら、別方向へと動き出す。


「何だ? 逃げるのか?」

「違う! 門の方に集まってるぞ!」


 石眼達は、東西南北の4カ所にある。城壁の門に集合していった。この間憲兵達も、進行を防ごうと試みるが、垂直の壁のすぐ近くを動く者達に、大砲は向けられない。

 城壁の屋上から、真下に向けて、銃弾や魔法を撃ち始める。多勢の兵士の遠距離攻撃が、石眼達の群れを襲う。それに多少怯みはしたが、石眼達を倒す決定打にはならず、門への集結を防げなかった。


 やがて石眼達の群れが、各門に集まった。当然鉄の門は、どれも固く閉ざされている。先に到着した石眼から先に、その門への攻撃が始まった。生物ではない者に、石化の光も毒も通じない。

 どうしたのかというと上半身の胴体を、空中に持ち上げて、身体を曲げて、ピッケルのように動いて、門に頭突きをしたのだ。

 ゴン!と鈍い音が、門から太鼓のように鳴らされる。後から到着した石眼達も、それに習って、同様の攻撃を次々と喰らわしていった。


 ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン! 


 石眼達の頭突きの音が、何重にも重なって鳴り響く。祭り囃子でも、ここまで騒々しい音は立てないだろう。


 頭突きを繰り返す石眼達の頭は、少し鱗が禿げて、血が滲め始めている。このまま自滅かと思われたが、傷ついているのは石眼だけではなかった。

 魔法結界で強化された、金属の大門が、少しずつ凹み始めているのだ。それは最初は小さな窪みだったが、頭突きを繰り返す度に、どんどん門の形が変形していく。

 この蛇たちは、石化能力だけでなく、結構な石頭であったようだ。


「まずいぞ! このままだと、門を破られる!」

「くそっ! だったらここから爆弾を落として・・・・・・うわっ!」


 門の櫓から下の様子を見ていた憲兵が、思わず目をつむった。たった今、この櫓から外側に、上から下へと、目が焼けそうな程の、強い光が落ちたのだ。


 ドォオオオン!


 それは一発の雷だった。今日は快晴。空には雷を落とすような雲などないのに、この門の手前に落雷が起きたのである。


 強烈な電撃が、門の前にいた石眼達の群れに直撃する。雷はただ落ちただけでなく、大地に落ちる直前に、何筋にも分裂して、広範囲に落雷する。

 そしてそれらが、石眼達を一匹も逃さず、彼らを感電させた。目がチカチカさせながらも、憲兵達が下を見る。

 そこには石眼達はまだ健在だった。だが彼らの全身が、少し焦げて、薄黒くなっている。苦しんでいるのか、動きがぎこちなく、門への攻撃を続けているの者はいなかった。

 あの雷撃は、石眼達を即死させることは出来なかったが、相当なダメージを与えることが出来たようだ。


 憲兵達はその様子を見ると、今度は雷が落ちてきた上空を見る。勿論空には、落雷を起こすような雷雲などない。だが大きな鳥の影があった。


「あれはタカ丸? ということは翔子様か?」


 空を飛ぶ大きな鳥=タカ丸から、勢いよく誰かが飛び降りてきた。勿論翔子である。いつものように地上からの距離など考えず、迷わず高所から飛び降りて、余裕で着地する。


 着地した先は、色に少し黒くなった、石眼達の群れのど真ん中であった。これを見た石眼達は、落雷で弱りながらも、目の前の翔子を敵と見定めて、一斉に襲いかかる。

 翔子は刀を抜き、その刀身に紫色の雷を宿させる。そして自分を取り囲みながら、牙を向けてきた石眼達を一斉に斬り伏せた。


 雷撃の刃が、石眼達の首や胴体を次々と斬り落とす。電熱で焼かれた切断面は炭化して、流血は一切出ない。

 最初の雷撃で弱った石眼達に無双する翔子。何匹かが、翔子に向けて石化眼を放つが、翔子は平然として斬り伏せた。


 この石眼達には、以前恵真と一樹を石化させた、あの城にいた石眼より大型の者もいる。だが後の戦闘で気づいたのだが、やはりあの城にいた石眼は特別な存在だったようで、あれ以降天者を眼で石化させるほどの者は出現していない。

 ただし毒の牙で噛みつかれれば、やはり危ないようで、翔子は敵の牙に気をつけながら、石眼達を捌いていく。


「つっ、つええ・・・・・・」


 この様子に、櫓から見下ろす憲兵達が感嘆の声を上げる。やがて門の前にいた、全ての石眼が斬り倒された。ただしこれで戦いが終わったわけではない。

 周りに生き残りがいないのを確認すると、翔子は次の門へと向けて走り出した。まもなくして、東西南北の門を破壊しようとしていた石眼達は、無事に町に侵入されることなく、翔子一人によって殲滅された。


「大変だ! とんでもなくでかいのが、こっちに来てるぞ!」


 だがそれでもまだ戦闘終了とはいかなかったようだ。守備をしていた憲兵の一人が、そう声を発する前に、翔子は既にその気配を察知して、その付近まで走り込んでいた。

 ある方角の門の、ずっと向こう側の森の奥から、何かが接近してきている。森の奥から大量の土煙が上がり、いくつもの大木がドミノのように倒れていく。

 そんな破壊の足跡が、どんどんこの街に近づいてきているのだ。


「何だ!? 何が来るんだ!? まさかガルゴか!?」


 その何か進行してくるのは見えるが、その姿はまだこちらからは見えない。木々の下にいるだろうか? 怯えた憲兵達からそんな声が届く。


(違う! 変身した鷹丸なら、背が高いから遠くからでも見える。あれは多分・・・・・・)


 それが何なのか、翔子は即座に理解する。先程の砲撃で、森が壊された城壁近辺に達したとき、遮るもののないその土地で、接近者の姿が露わになる。

 それはさっきまで彼らが相手をしていたのと同じ、巨大な白い蛇=石眼だった。ただし巨大さは半端じゃない。前にガルゴが倒した者よりも、一回り小さいが、それでもとてつもない巨体だ。


(まさかこんなボスキャラが出るなんて! 私も戦えかな? でもやるしかない!)


 大石眼が突撃してくる真正面に、翔子が立ちふさがる。雷撃を纏った刀に、必殺の一撃のためのエネルギーを溜め込み始める。

 敵の牙がこちらを捕らえる前に、敵の顔を真っ二つにしてしまおうという考えだ。あまりに単純で、力任せな手段である。

 だが後ろには城門がある。あの巨体が激突すれば、間違いなくあの門は破壊され、大石眼は街の中に侵入する。故に逃げるという選択肢はない。


(負けたとしても、なるべく石化されないようにしなきゃ。普通に殺されただけなら、後で復活できる)


 最初から諦めがちな思考で、大石眼と激突しようとする翔子。だが両者がぶつかり合うことはなかった。

 暴走列車のように突撃していた大石眼が、今まさに翔子に噛みつこうとし、翔子もまた刀を振るおうとした瞬間、大石眼が急停止したのだ。


「ギシャァ!?」

「えっ!?」


 これには両者が唖然とした。猛烈な速度を出していた巨大で長い身体が、一本の棒のように真っ直ぐになる。そしてバンジーの紐のように、反動で身体が曲がって後退した。

 この停止が、石眼自身の意思でないことは、すぐに判った。何故ならば、大石眼の背後の、無惨に破壊された森の中に、あのガルゴの巨体が居座っていたからだ。


 大石眼のいる地点の真後ろ。蛇の尻尾の先っちょがある地点に、いつのまに出現したのか、ガルゴがいる。そして奴は今、大石眼の尻尾の先端を、その大きな腕で鷲掴みにしていた。

 大石眼の急停止の原因は、これを見れば言うまでもない。ガルゴが奴の尻尾を掴んで、後ろから引っ張って、力技で止めさせたのだ。


 ガルゴはただ奴を止めただけではない。両腕で大石眼の尻尾を掴み、綱引きの縄を引っ張り戻すようにその長い身体を引っ張り戻した。

 力技ではガルゴには勝てず、大石眼はズルズルと引き摺られて後退していく。ガルゴの掴み上げる部位が、尻尾の先から身体の胴体の方に移り、やがて大石眼の胴体の中央部分にまで到達する。

 そこで一旦引くのをやめると、渾身の力を込めて、両手で左右に引いた。


「ギシャァアアアアアアアアッ!?」


 自分の身体が引き裂ける痛みに、大石眼は苦悶の悲鳴を上げる。

 引っ張り戻されて、ガルゴの後ろまで伸びた尻尾を、鞭のように振って、ガルゴの身体を叩くが、あまり効果がない。


 ブチッ!


 やがて大石眼の肉体にも限界が訪れた。ガルゴの豪腕は、大石眼の胴体を、見事に引き千切った。

 長い胴体の、上半身と下半身が、見事に二つに両断される。血しぶきがガルゴの両手を濡らし、引きちぎられた断面から、内臓が露出する。

 ガルゴはその胴体から手を離すと、長い胴体が大地に落ちる。さっきまで活発に動いていた身体が、ヒクヒクと軽い痙攣をする。


 ガルゴの攻撃はそれだけでは終わらない。そのまま前に歩みで、大石眼の頭を踏みつぶした。

 何度も何度も、大石眼の頭部ごと大地に足の裏を叩きつける。やがて卵が潰れるような音が聞こえて、ガルゴは踏みつけをやめた。


「ガルゴが石眼を倒したぞ!」

「くそっ!? またこの街に、奴が現れるなんて!」


 櫓から一部始終を見ていた憲兵達が、そう騒ぎ立てている。だが翔子は、彼らと違って、恐れることはなく、あの巨体の立っている地面へと走り出した。

 だがその時に、ガルゴの身体がまだ透け始めた。以前と同様にこの世界から消える予兆である。


(そんな、また!? 早すぎるよ!)


 以前のように、最後まで話しをできないままに、また別れてしまうのか? 翔子がガルゴの足下にまで到達したとき、ガルゴの姿が完全に消えた。


「えっ!?」


 ガルゴの姿が消えたところまではいつも通り。だが今回は、そこから先が違っていた。ガルゴが消えた同時に、奴が立っていた足下に地面に、何かが残されていた。

 倒壊した木々と、すぐ側に動かなくなった大石眼の巨体が転がっているその場所に、人が立っているのだ。


 服装は靴とGパンだけの半裸。ボサボサのショートヘアの黒髪で、垂れ目の少年だった。その少年は、翔子に向けて親指を立てて、笑顔でこう言った。


「おおし! 妹尾 鷹丸、本格的に異世界デビューだぜ。宜しくな!」


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