第八章:無責任な零号士(ゼロ)の誘惑
知られざる過去が今、明かされる……
※相楽臣の過去の歳の計算が間違っていたので訂正しました。
パイロットになってから一月が経つ。オレのランクは最下位のFのままだった。
「まだ一ヶ月だろ? 最低半年は経たないとランクは上がんないぜ。まぁ、地道にがんばれよ」
先輩パイロットにはそう言われたが、オレにはもどかしかった。零号士になってしまえば早いことだが、この地上を守るパイロットの仕事に嫌気がさしてるわけでもない。かと言って父のような熱い正義感に満ちているわけでもなかったが、この火星に尊さを感じていた。
テロ集団が使う兵器やそれらに対抗する政府の兵器がぶつかり合いが、この星を傷付ける。この星もあの地球のように破滅の一途を辿るのだろうか。テロ集団は政府の格差問題に対する不満を武力行為で示し、政府は受け入れることなくそれを阻止しようとする。その争いは耐えなかった。いつになれば分かり合えるのだろう……
「遠山響!」
養成施設内の通路を歩いていると声をかけられた。振り向くと“相楽臣”がいた。またあの不敵な笑みを浮かべながら、水色の髪を掻き上げ。
「どうも」
オレは無愛想に言った。
「クスッ……オレのこと嫌ってるでしょ?」
「別に」
「この前言ったこと考えてくれた?」
「……」
零号士になれって話だなとオレはすぐにぴんと来たが
「一緒に飛ばない?」
「?」
一緒に? どういうことだ、と困惑した。
「この前、汐名に聞いたんだけどランクFのパイロットでも、ランクC以上のパイロットと同伴なら宇宙を巡回可なんだって」
「はぁ……でも、それは仕事の依頼があってのことですよね?」
オレは冷たくそう返す。すると相楽臣はニヤリとした。
「見て?」
と自分の携帯端末のディスプレイをオレに見せる。
『××××巡回の仕事あり。希望者は管理部宛てにメールを送信してください』
そこにはそう書かれていていた。
「どう、やらない?」
相楽臣はけしかけるが
「高藤さんに聞いてみないと……」
とオレは曖昧な反応を示す。
「あの子は絶対嫌って言わないよ」
「……」
確かに高藤樹羅は断らないだろう。あの子は寡黙で極端に自己主張が少ない。
「“オレ達”のチームって、リーダー誰なの?」
そう言えば誰なんだろう。オレも知らなかった。
「あれ? もしかして、決まってない?」
「……?」
嫌な予感がした。
「じゃあ、オレがリーダーになるよ」
予感は的中した。
「年上だし、零号士だから宇宙に慣れてるし」
「……」
ああ、なんて言って断ろう。とオレは悩む。
「この前みたいなピンチの時にも役立つし」
こいつがリーダーなんかになったら、余計危険にさらされるような気がする――そうだ!
「あなたは零号士ですよね? いつも同行できるわけじゃないから、オレ達のどちらかに決めるので大丈夫です」
「……」
すると一瞬、相楽臣は少し寂しそうな顔をしたが
「ま、別にリーダーなんかいらないしねっ」
と軽い言葉を吐いた。
なんだそれ? なんて軽い奴なんだ、とオレはすっかりしらけてしまった。
「じゃあ、これ送信しちゃっていい? 早くしないと定員オーバーになっちゃうから」
ああ、もう勝手にしろ! と言ってやりたい。
「巡回するだけなんですか?」
「うん、多分」
「多分?」
「危険な時は零号士のオレに任せて」
「……」
「嘘嘘! 危険じゃないから大丈夫。何回かやったことあるし」
「ならいいです」
オレは承諾した。なんだか悪徳詐欺師に騙されたような気分だ。もしオレ達に危険が及んだら絶対に……
メンバーから外してやる
オレは心にそう決めた。
次話に続きます。




