第二十章:懺悔
これぞ獅子道〜〜(?) 崖から這い上がってくる我が子を崖っぷちで黙って待つ親獅子の姿っ☆ でも、ちょっといたぶりすぎな呉羽氏(-_-;)汗汗
――本来の人間らしい感情は、敵が持っていたのかもしれない……
数秒間の短い静寂が執務室を包む。オレと呉羽管理部長はそれぞれ別の感情を抱きながら、互いを見詰めていた。
オレたちのチームをあの現場に配置することを呉羽管理部長が策略した――その事実が与えた心への衝撃はすでにどこかへと影を潜めている。
第三者の視点でオレは話を切り出した。
「あなたが試した“そのパイロット”は現場で銃激戦が始まった時、自我を失いました」
「自我を失った?」
呉羽管理部長の目に力が入る。
「はい。その時、残酷な別の人格が顔を出して自我を占拠し、銃を乱射して味方の一人が流れ弾を受けています。幸い彼女は装甲板で保護していたので大事には至らなかったのですが、その時敵味方をほとんど無差別に撃っていたことは確かです」
「……」
「これをどう評価されますか?」
まるで挑むようにそう問い掛けたのは開き直りからではない。
“あの影響”ではないかと勘ぐってほしかったからだった。そうでなくとも……
「問題を起こすかもしれない人間をパイロットとして残してもいいんですか?」
それは自分への非難。
相手への強要。
逃げ道を探していた。
この業界から排除されようとしていた。
「遠山響くん」
呉羽管理部長の次の言葉を待つ。
「合格だ」
「?……」
「君はテロの抑制に成功し、無事任務を果たした。君が残した結果は充分評価に値する」
「……!」
血が頭に逆流して行く。
何故だ……何故オレが犯した行為を賞賛する?
仲間に銃を向けたということはどうでもよかったというのか?
自制心を失ったことは問題ではなかったと言うのか!?
オレは異議を唱える眼で呉羽管理部長を見据えた。
「オレが遠山雄二の息子だからですか?」
「……」
「オレは父とは違う。いつまた自制心を失ってしまうか分からない。オレは……人口蓄積知能チルドレンの欠陥品なんだ!」
言い淀む呉羽管理部長に、オレは力いっぱいそう言い放つ。
吐き捨ててしまいたかった。自分では答えが出せなかったことを放棄してしまうかのように。
呉羽管理部長は何も返さず沈黙に落ちた。オレは肩を上下に揺らし、ゆっくりと深い呼吸を数回繰り返す。静寂の室内にその呼吸だけがはっきりと聞こえた。
「遠山くん」
呉羽管理部長の凛とした双眸がオレを正眼に見据えた。
「全部吐き出してしまえ」
穏やかだが、低く包み込むような声音で彼はそう促した。その堂々とした包容力がオレを安堵へと導き、心がほどけて行く。自分ですら心の奥底に沈めようとしていた思考が言葉に変換されて行った。
「分からないんです。どうすればいいのか……。自分自身のことも、政府の方針も、防衛組織のやり方も」
呉羽管理部長はテーブルの上で手を組み、黙って話を聞いていた。
「防衛組織はコロニー住民の安全を守るのが役目で、平和を維持するための機関だと思っていました。なのに実際は違っていた。――組織は任務を任せたオレまでも欺き、仮説地区の人間と不正な取り引きで交渉させようとした。そして真相も知らされぬまま銃撃戦になり、そこで無駄な血が流れ……」
思い出しただけで胸が締め付けられた。悲痛な心の叫びが表情にも反映する。
「真相を知らせなかったのは、知らせれば君がその任務を辞退すると思ったからだ」
「!?」
オレは目に力を入れて眉を潜めた。
「君にあらゆる経験を積んでもらいたかった。防衛組織の“守る”というのがどういうことなのか。世の中が“善”と“悪”、単純にその二つだけではないということを。そのことを早いうちに理解してもらうためにも」
「……」
その言葉が重くのしかかる。相楽臣に火星コロニー政府とその一部機関である防衛組織の実態を聞かされ、現実を突き付けられた時に似ていた。
「だとしても……組織のやり方には疑問を感じます! 組織は庶民の命を軽視し、反乱者だけでなく、味方の命までもぞんざいな扱いをし……」
もがくようにオレは反論した。呉羽管理部長は泰然としてそれを聞いていた。
「“ぞんざいな扱い”か。確かにその通りかもしれない。だが、その個人の声だけではどうすることもできない」
「……」
「納得できないかもしれないが、我々防衛組織の人間は、政府の方針に従うしかない。辛いだろいが黙って耐えるんだ」
「……」
『何もできない』
『無力だ』
そう言っているのがわかるが、それを否定したかった。だが――
反論したくても言葉が見付からない。オレは悔しさを噛み締め、焦がすような視線で一点を見詰めた。
「遠山くん」
オレの肩に呉羽管理部長の手が伸びた。
「失望させるようなことを言っておきながらこんなことを言うのもおかしいが……どうか、希望を捨てないでくれ」
「?」
哀しい色が映った目を細めて微笑する呉羽管理部長をオレは不思議そうに見詰めた。
「君のような考えを持つ人間がいなくなってしまったら、この社会から“正義”という概念がなくなってしまう。それだけでは無力だが、強い意志はやがて力となるはずだ」
「……」
「先程述べたことは事実だが、可能性まで全否定したわけじゃない。自分なりに焦らず、信じる道をゆっくり進めばいい」
「呉羽管理部長」
何か救われた気がした。呉羽管理部長は、オレに僅かでも救いが残るよう配慮してくれたのだ。
「お心遣いありがとうございます」
オレは感謝と敬意を込めて呉羽管理部長に頭を下げた。
「頭を上げてくれ、遠山くん」
少し間があってから呉羽管理部長が照れたように言い、オレは頭を上げた。
「時間はかかるかもしれないが、いずれ君もこの現状に順応できるようになるだろう」
呉羽管理部長の口からそう呟くような声が洩れた。静寂な室内でその声をオレの聴覚が拾った。
「順応できるようになる、とはどういう意味ですか?」
訝しげな眼差しを向けるオレに呉羽管理部長は苦笑した。
「ああ……勘違いしないでくれ。それは君がこの状況に慣れて感覚が麻痺してしまうという意味ではない。現状を見据えた上での判断ができるようになるという意味だ」
なんだ。そういうことか……
危うく、話が違うじゃないかと糾弾しないまでも、呉羽管理部長のことを疑ってしまうところだった。
ふと呉羽管理部長が呟いた。
「最初はあの子もそうだったからな」
「“あの子”?」
「臣のことだ」
「相楽さん?……ですか」
きょとんとした表情のオレに呉羽管理部長は頷いた。
「過去に人権問題テロと接触して、同僚を失ってからあの子の考え方は変わった。この社会においての防衛パイロットの在り方を“理解”し」
『理解し』……
反駁にオレは目を血走らせた。
理解などできるわけがない。
できてたまるか――!
「その教訓があの判断に繋がったというんですか!? テロを起こした相手に話し合う余地も与えず……」
椅子から立ち上がり、込み上げる怒りにオレは奥歯を噛み締めた。
「確かに彼はオレよりも経験を積んでいるのかもしれない。でも、だからと言って……!」
「遠山くん、座って話をしよう」
呉羽管理部長に宥められ、不平を表情に浮かべながらオレは着席した。
「その経緯は臣から聞いた。テロ集団が人質を取ったことで臣が取り引きを無効にし、刺激された相手の爆破宣言――銃撃戦に発展したと」
呉羽管理部長は抑揚のない声で言うと、テーブルの上で組んでいた手を顎へ移動させた。
気が治まらないオレは主張を続けた。
「相手が人質を取り、脅迫的だったことは確かです。しかし、もっと慎重にあの場で話し合っていたら、あの惨事を回避できたかもしれない。なのに彼は判断するのが早すぎた……」
声を張り上げて主張を述べるが、その意見に自身が持てなかった。沈んだ語尾に苦悶の色が滲む。自分の判断で行動していたとして、良い結果が得られたという確信はない。
それでも何か救いの言葉が欲しかった。
この社会にも何か救いがあると思わせて欲しかった。
一度は諦めという形で政府に従う道を選んだものの、やはりまだ納得できていない。
もっと良い方法があったはずだ、そう思えてならなかった。その解決策となる意見を委ね、オレは呉羽管理部長を見詰めた。彼からその一声が紡がれる――
「臣が取った行動はとても危険だったと言える。決して手本になるようなものではなかった。だが……」
彼はそこで言葉を溜め込んだ。その含ませるような間が嫌な緊張感を与えた。身動きすらしなくなっ二人きりの室内は完全な静寂に包まれ、心臓の音すら聞こえてきそうだった。
やがて彼が開口して言った。
「結果として――正しかった、とも言える」
「?」
オレは唖然として目を見開いた。予期せぬ言葉を受け取る準備がまだできていない。
呉羽管理部長は続けた。
「この組織は結果を出すことが全てと言っても過言ではない。その中で防衛パイロットが属するのは、死ぬか生きるかの世界だ。その世界で臣は常に結果を出してきた。……あのテロを除いては」
「……」
「君には臣が取った行動が無謀に思えるかもしれないが、臣は戦場で学んだ知識に基づいて動いている。人質に取られた仲間のことも考慮していなかったわけではない。戦場にいる時は常に頭の中で戦法を描いているんだ」
オレは訝しげに眉を潜めて問い質す。攻撃的に言葉を投げ掛けた。
「一体どんな戦法なんですか!? 相手は人質に銃口を突き付け、その場にいる人間もろと爆破させようとしていたんですよ? こっちは経験の浅い少年が一人と相楽さんだけだったのに向こうは倍以上いて、皆武器を所持していた。そんな状況で銃撃戦が始まったら、勝てるわけがない! 彼女は即自分を捕らえていた男に射殺されるか、そうでなくとも敵の誰かに撃たれていたかもしれない!」
「遠山くん」
言い放つオレの声の間隙をその声が真っ直ぐに横切った。オレはその声の主を見据え、その答えに耳を傾けた。
呉羽管理部長は答えた。
「彼らは殺人鬼じゃない」
「?」
「無抵抗の相手には攻撃しないんだ」
「……」
「彼らが望むことは殺し合うことでも、傷付け合うことでもない。だからむやみな殺戮は行わない」
あの時、相楽臣が言っていたことと同じだ。オレは愕然として目を見張った。
やはりそのことは確かなんだろうか。オレと相楽臣の間にそんな信頼関係はない。彼と呉羽管理部長との間には確かなものがあるのだろう。
だが、この見解が真実であれば哀しい。
だが、そうでなくても事実は哀しい。
涙が下瞼に溜まっていった。じわじわと視界が歪んでいく。
「敵から学ぶこともある」
呉羽管理部長は静かにそう告げた。その言葉が重たい言魂の波動となって、オレの胸の奥まで振動させる。
「……オレはなんてことをしてしまったんだ! 知っていたら、あんな残酷なこと……あんな自分なんて現れなかったはずなのに! わかっていたら、そんな人たちを救うために、嘘でも取り引きしていたのに……っっ」
オレは無意味な言い訳を言い放ち、懺悔した。
「遠山くん」
泣き崩れ嗚咽を漏らすオレの横に来て、呉羽管理部長はその手と声でオレの心を包み込んだ。
「こうなったのは君のせいじゃない。君が一人で背負うことはないんだ。この組織や社会を変えようとするなら政治家にでもなるしかない。本気でそうしたい気があるなら、その道に進むことを考えてもいいだろう」
「……」
その言葉の意味する現状に押し潰されそうだった。
何故、人の世はこんなにも複雑なんだろう。
永久にその答えに辿り着けない気がした……
ちょっとだけ、ぷち話★『顔』を変換して『(-_-;)』と出たのを危うくそのまま投稿してしまいそうになりました(失笑) 真面目な場面でだったので、オモロ〜〜ぉ! でした。
6.27 日アクがまた奇跡の200超え(>_<) 萌え〜〜(?)




