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TOKYO PMC  作者: ヒロセカズヒ
ニューロン
24/24

あばよ

 事件から二週間後、浅草に行った。


 特に用事はなかった。ただ、一度行っておこうと思っていた。


 あの銭湯には営業中を示す暖簾は出ていなかった。

 ボイラーも止まっているのか、煙突から煙が出ていない。


 入口は施錠されていた。

 張り紙があった。

「諸事情により閉店いたします。長年のご愛顧ありがとうございました」

 日付は一週間前だった。


 俺はしばらく銭湯の前に立っていた。


---


 近所の煙草屋のおばあさんに聞いた。


「ああ、あそこね」とおばあさんは言った。「急だったわよ。夜逃げみたいにいなくなっちゃって。番台のおばちゃんとも仲良かったから、一言くれればよかったのにって思ってるんだけどね」


「いつ頃からいなくなりましたか」


「先週の頭よ。朝来たらもうしまってて。荷物も全部なくなってたって話」


「どこに行ったか分かりますか?」


「さあ」とおばあさんは言った。「あの人たち、そう言えば、あの人たちの素性、聞いてなかったわ。すごく感じはよかったんだけどねぇ」


---


 スマホを確認した。


 ケンとのLINEを開いた。


 最後のメッセージは事件の翌日だった。「あの子のこと、頼むわ」「分かりました」。それ以降、既読のマークもついていなかった。


 電話をかけた。


 繋がらなかった。


 もう一度かけた。


 繋がらなかった。


 番号が変わったか、端末を処分したか。どちらかだった。


---


 虎ノ門のオフィスに戻った。


 渋谷のデスクに郵便物が積んであった。渋谷が「お前に届いてたぞ」と言って一枚の郵便物を渡した。


 葉書だった。


 表は俺の名前と虎ノ門のオフィスの住所だけ。送り主の名前はなかった。消印が読めなかった。


 裏を見た。


 写真がプリントされていた。


 南国らしいビーチだった。青い海、白い砂浜、ヤシの木。その手前に、三ツ矢サイダーの瓶が一本、砂浜に刺さるように置かれていた。


 文字が一言だけ書いてあった。


「あばよ」


---


 俺はしばらく葉書を見ていた。


 渋谷が横から見た。


「知り合いか」と渋谷は言った。


「そうです」と俺は言った。


「元気そうじゃないか」


「そうですね」


 渋谷が、また仕事に戻った。


 俺はグラスのフレームに触れた。


 葉書をデスクの引き出しにしまった。


 三ツ矢サイダーの瓶が、青い海の前に立っていた。



―― 番外編4 了 ――


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