検問
横田基地の検問ゲートは夜でも明るかった。
俺とケイは正面から入った。Lynceus Japanの車には米軍との契約に基づく通行証があった。警備員が確認して、ゲートが開いた。
ゲートを超えた駐車スペースに車を止める。
芙由は後部座席にいた。まだ眠っていた。
ケンの部下の車は、基地の直前で横道に逸れた。打ち合わせの通りだった。
「ケンさんは予定の位置ですか」とケイは言った。
「そうです」と俺は言った。「あれを遠隔操作で動かしています」
ケイが頷いた。
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基地の中に入って五分後、ケンの部下から連絡が来た。
「三台が検問で止められています。あれがターゲットです」
俺はスマートグラスをモニターにして監視カメラに接続した。
ゲートの外に三台の車が止まっていた。警備員が対応していた。通行証がない。ターゲットが英語で何かを言っていた。
「止まっています」と松田は言った。「ただし、諦めていない様子です」
俺はケンに連絡した。
「目標は検問前の自動車三台」
「分かった」とケンは言った。「動かす」
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ゲートの外、インフェクターの実行部隊は困っていた。
通行証がなかった。米軍基地に強行突破する度胸もなかった。引き返すべきか——迷っていた。
その時、暗闇の中から何かが現れた。
巨大ロボットだった。
高さ四メートル。ダイヤの付いた脚が四本もあり自在に動いていた。二本のアームが腕の様に自在に動く。
スピーカーから声が流れた。
「コーラしか飲まん奴らが、日本の町工場なめるな!」
三台の車のドライバーが固まった。
巨大ロボットは日本の町工場で生まれた乗用ロボット『クラタス』。その発展型だった。ゆっくり進み、三台の車を検問に追い込み始めた。
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俺はゲート付近のカメラ映像を見ていた。
インフェクターの部下たちが車から出で巨大ロボから逃げようと検問を超えた。
逃げた先は横田基地の中。
警備員が無線を取り、侵入者アリと告げた。
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控えていたMP(憲兵)の車が二台、検問に向かってきた。
俺はケイに「MPが来ます。降りましょう」と告げ二人でゲートの方向に歩いた。
ゲートの外は騒然としていた。巨大ロボットが検問の三台の車を威嚇するように腕を振り回している。インフェクターの部下七人がゲート付近で立ち往生していた。MPが銃を構えていた。
MPの一人が俺に近づいた。
「あなたがLynceus Japanの方ですか」と英語で言った。
「はい」と俺は言った。「Lynceus Japanの佐藤澄です。事前に連絡したとおり、この者たちは私たちを追跡してきた武装した集団です。通行証なしで基地への侵入しました」
MPが七人を見た。
「身体検査を行います」
七人が壁際に並ばされた。
一人目から拳銃が出た。二人目も、三人目も。全員が武装していた。
「全員を逮捕します」とMPは言った。
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処理が終わった後、俺はケンに連絡した。
「片付きました」
「そうか」とケンは言った。「俺は戻る」
「クラタスを戻してください。MPが気にしています」
「分かった」とケンは言った。少し間があった。「いいだろう。巨大ロボットは」
「そうですね」
巨大ロボットが暗闇の中に消えていった。
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基地の中に戻った。
芙由がちょうど目を覚ましていた。
「着きましたか」と芙由は言った。
「着きました」と俺は言った。「少し騒がしかったですが、終わりました」
「そうですか」と芙由は言った。「外で何かありましたか」
「クラタスが出ました」
「クラタス」と芙由は言った。「ケンさんのロボットですね」と芙由は言った。
俺は少し間を置いて聞いた。
「なぜ分かりますか」
「なんとなくです」と芙由は言った。
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ニコールから短いメッセージが来た。
「アスクレピオスに乗りました。インフェクターと話しています」
俺は返信した。
「こちらは片付きました。大丈夫です」
俺は基地の外を見た。
やはり夜の横田は静かだった。
ゲートの中では、MPがインフェクターの部下七人を逮捕拘束していた。アメリカの法律の下で、アメリカの憲兵が逮捕した。Lynceus Japanは引き渡しただけだった。
渋谷に電話した。
「横田側は片付きました」と俺は言った。「MPが処理しています。アスクレピオスはニコールが対応中です」
「けが人は」
「こちらはいません」
「分かった」と渋谷は言った。「後処理は俺がやる」
電話を切った。
芙由が窓の外を向いていた。
「佐藤さん」と芙由は言った。
「はい」
「よかったですね」と芙由は言った。
俺はグラスのフレームに触れた。
「そうですね」と俺は言った。
―― 第18話 了 ――




