第八話 村へ到着
三人は額から汗を流しながら歩いていた。
どうやら野営地からかなり距離を進み、村の近くまで来たようだ。
「あっちぃ……まだ着かねえのかよ、村」
気怠そうにソウが言う。
彼はターバンのような布を頭に巻いて髪を後ろへ流していたが、暑さに耐えきれず、今はそれを手に持って歩いている。逆立っていた蜥蜴のような髪も、汗に負けてぺたりと額に張り付いていた。
「ゲンさん、あとどれくらいかわかりますか?」
ラルクは汗を拭いながら、状況を確かめるように年長者のゲンへ尋ねた。
「さあな。だが……ほら、あそこだ」
ゲンは顎で前方を示す。
「村の周囲に咲く苦花が見える。あれが確認できるってことは……おそらく、あと数キロってところだろう」
「おお、あと少しか。早く村に着いて身体を休ませたいな」
ラルクは空を見上げ、期待を込めて軽く伸びをした。
だが、空から降り注ぐ日差しは容赦なく、湿った熱気が肌にまとわりつく。三人は不快感と疲労に苛立ちを募らせながら、それでも「もうすぐ休める」というイメージだけを支えに歩き続けた。
やがて――道が開けた。
これまでは、蔦や地表に張り出した根が行く手を阻む、道とも呼べない悪路だった。だが今、三人は村へと続く、はっきりとした道へと踏み出していた。
「かあ……やっと、着いたか」
ラルクは安堵の息を吐く。同時に、これから村長たちに伝えねばならない事柄を、頭の中で整理し始めていた。
(ヤンのこと……それに、狩りに出た食糧調達の狩猟班が、俺たち三人を残して全滅したこと……言わなきゃならない。
ヤンは、村長にとって大事な孫だ。孫が先に逝ったなんて……どう説明しても、村長の心に深い傷を残す。老体なのに……くそっ。俺があの時、もっと全力でヤンを掴んでいれば……)
「おーい、ラルク? ぼさっとするなよ。老け顔が、さらに老けて見えるぞー」
ソウの声に、ラルクははっとして顔を上げた。
「ああ、悪い。考え事してた」
ソウは目をぱちぱちと瞬かせる。
(……なんか、いつもと反応が違うな。
やっぱり、みんなのこと……特にヤンのこと、考えてたのか。
そうだよな。俺も、ヤンのこと尊敬してたし。猟の策略とか、すげえ丁寧に教えてくれた。親父は戦い方ばっかだったけど……頭使うのも、意外と楽しかったんだよな)
――そのとき、村の門に立つ門番が声を張り上げた。
「おーい! 狩りは上手くいったかー!!」
ゲンは即座に両腕で大きくバツ印を作る。
「全然ダメだ!」
門番はその仕草を見て、両手を頭に当て、がくりと項垂れた。
三人が近づくと、門番の姿がはっきり見えた。
黒の短パンに、黒地へ白と茶の紋様が入った長袖の羽織。中央には、血脈のようにも木の枝のようにも見える一族特有の紋章が大きく描かれている。それは、ソウやゲン、ラルクの衣にも共通する印だった。
「……おめぇら、だけだべ?」
門番は眉間に皺を寄せる。獲物が無いことは理解したが、それ以上に――狩人の数があまりにも少なすぎた。
「なんで、おめぇら三人が一緒なんだ?」
ゲンは一歩前へ出て、低く、だが素早く答える。
「怪物に襲われた。落ち合う予定だった三つの班は……全滅だ」
「……だ、だべ!?」
あまりにも想定外の報告に、門番の思考は完全に停止した。
「と、と、とりあえず……む、村長に報告してくるアルヨ……」
ソウは思わず吹き出す。
「おっさん、キャラ分からなくなって、語尾までブレブレじゃん」
「ソウ! バカ! それだけ緊急事態ってことだろ!」
「ゲンさん、そこズレてますよ。想定外でも、本来の役割は果たさないと、門番失格です」
「……まあ、そうだな。ほら、さっさと行くぞ。村長のところだ」
こうして三人は、重い空気を背負いながら、村の奥――村長の家へと向かった。




