表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

第一話 命の鎖

 これは、遥か昔の話だという。

気候は温暖で、大地には多種多様な生き物が生息していた。草木は高く伸び、ビルのような巨木が林立し、弱肉強食――自然摂理に忠実な世界が、そこにはあったらしい。その地域に寒冷な時期は訪れず、いや、私の見立てでは星そのものが熱帯だったのではないかとさえ思う。


 そしてその世界には、今では到底考えられない生命体が存在していたという。それが真実かどうかは疑わしい。だが、情報を無限に記憶し続ける生命体がいた――そんな話が、まことしやかに語り継がれている。


 私は、それを信じたい。

たとえ科学で証明できなくとも、今とは異なる技術体系、いや、自然摂理そのものによって発展した世界があったのだとしても、私は信じたい。


 それこそが、我々を救う()なのだから。



◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆



「おい、ソウ!!」

「ソウ!!! 起きろ! 狩りに行くぞ!!」


 そう叫んでいるのは、銀髪で筋肉隆々の男だった。黒いTシャツに黒のズボン、その上から黒と茶色の紋様が施されたローブを羽織っている。


(なんだよ親父……一昨日まで明日にするって言ってたじゃねえか。眠いんだよ、クソ……)


 悪態をつきながらも、ソウは目を開ける。

 彼は中学生くらいの年頃で、黒髪を緑と茶色の紋様が入ったターバンで後ろに流していた。服装は、黒地に茶色の紋様が入ったTシャツと黒の短パン。


「わかったよ、起きた起きた。はいはい、起きましたよー」


 地面に木の板と葉を敷いただけの簡易的なベッドから、よいしょと身体を起こす。

 それを仁王立ちで睨んでいるのが、ソウの親父――ゲンだった。


「おっせぇわ、たわけが!!」

「昨日言ったこと、もう忘れたのか? 今日は他の狩人と共同戦線を張って、バガールを仕留めるんだぞ!」


 眉間に皺を寄せ、ゲンが詰め寄る。


「え? そうだっけ? 昨日言ったかな~。ははは」


 ソウは肩をすくめ、しらばっくれる。


「はぁ……もういいわ。どうせそんなこったろうと思ったがな。ほらっ!」


 ゲンの手から投げられたのは、三つ目で六枚羽のハエだった。

 テニスボールほどの大きさで、すでに息絶えている。


「ひっぎゃぎゃっ! きょおおおおえええええええ!!」


 ソウはそれを見た瞬間、先ほどまでの鈍さが嘘のように跳び退いた。


「何しとんじゃボケ親父ぃ!!」


 鬼のような形相で怒鳴るソウに、ゲンも声を荒らげる。


「ああ!? お前が何しとんじゃボケ!!

 俺がどんな思いでそのフライバエを捕まえたと思っとる!」


 ゲンの身体が怒りで小刻みに震えるのも無理はない。

 狩りが決まってから数日間、必死に追い回して、ようやく仕留めた獲物だったのだから。


「だってよ親父! そいつウンコ食うんだぜ!?

 しかも色んな奴の! それ食うってことは、ウンコ食ってるのと同義だろ!!」


 断固拒否の意思を示すソウ。

 だが、ゲンは聞く耳を持たない。


 拾い上げたフライバエを手に、ゲンはソウへと歩み寄る。


「待ってくれ親父! 俺が悪かった! 今回は本当に俺が――」


 言い訳の途中、ゲンは容赦なくソウの口をこじ開け、フライバエを押し込んだ。


「んぐっ!? がばっ、あああっ……!」


 強引に咀嚼させられ、ソウは涙目になる。


「ああ、本当に世話の焼ける奴だ。

 だがな、今回は俺がいても、お前を守りきれるか分からん」


(もごもご……今、足動いたんだけど……最悪だ、クソ親父……)


 飲み込んだソウを見下ろし、ゲンは真剣な顔で言った。


「ソウ。我ら一族には“宿る力”がある。

 この頭の中にだ。

 喰らったものは力となる。願え、宿らせろ。この身体に、湧き上がらせよ」


 ゲンは一歩踏み出し、構える。


 ーー宿れ、フライバエ。


 すると、ゲンの身体から無数の靄が立ち昇り、肩からフライバエのような羽が二本生え、額には新たな目が浮かび上がった。


 ゲンは宙へと舞い上がり、叫ぶ。


「ソウ! そのアホな脳みそでも早く形態変化しろ! 狩りに遅れるぞ!」


(うぜぇ……マジでだりぃ。でも、いつかはやらなきゃいけないとは思ってたけど……よりによってフライバエかよ)


 ソウは修行で学んだ思念法を思い出す。


(脳内で対話、喰らったもののイメージ、成った姿のイメージ……だったよな)


(今まで呼応したことなんてないのに、こんな土壇場で……)


 それでも、やるしかない。


 ソウは脳内で、強く念じた。


(俺と共鳴しろ)


 すると、声が反響し、別の声が混ざったような感覚が走る。

 一瞬、視界が揺れ、すぐに元に戻った。


(……成功、か?)


 休む間もなく、次の段階へ。


(フライバエのイメージ。俺と共鳴し、成った姿を――)


 身体が強張り、頭の中を光が駆け巡る。


 ソウは構え、宣言した。


 ――宿れ、フライバエ!!!


 靄が立ち昇り、肩から異質な羽が生え出す。


「うおおおおお!! できたじゃねえか!!」


 羽を生やしたソウを見て、ゲンはわずかに微笑み、狩場の方角を見据えた。


「ソウ、行くぞ。今日は長くなりそうだ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その狩場から、ただならぬ轟音が響き渡っていた。

 赤い閃光。黒い巨槌のような脚が、大地を叩きつけている――。



いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになっています。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ