ファナの手がかり
島国である観光国家ナナザールは元々、他国からの観光客が盛んな事もあり、国を維持するため、必要最小限の組織があるものの、基本的に国民が協力して生活を営む仕組みを作っているため、統治者がいない。統治者がいない代わりとして、ナナザールの行政機関の中心、観光省の次官が実質国のトップとして国の舵を取っている。
国民自らが考え、自らのできる仕事を役割として担ってきた結果、ある者は豊富な魚介資源を獲りに漁師になり、建築の知識がある者は大工になり、喋りが上手な者は案内人となり、観光産業を支えている。
そのようにして、誰からも強制されず、自らが出来ることを仕事にした結果、自由で穏やかな国民性が作られていった。
その中で自警団も作られ、ナナザールの治安を守ってきた。
自警団内は入り口が受付、入り口から見て受付の左奥が自警団の執務室、向かって右奥が取調室、そして、一時的に容疑者を勾留する施設が自警団の執務室から通じる地下室内にある造りだ。執務室には常時10名程度が詰めている。ここから街の見回りを行ったり、犯罪現場に駆けつける。
僕は詰め所を案内をするオークスに問いかける。
「そういえば、オークス、自警団で怪しい2人組の目撃情報とかは入っていたりしない?」
ハルも続けてオークスに
「男のひとりは左目の横に切り傷があります!なんでもいいんです、手がかりはありませんか?」
と問いかけた。
「情報は入ってないな...念の為、他の団員にも聞いてみるよ。」
と答えた。
オークスは上司に盗賊に会う許可を得ながら、周囲に2人組の情報も聞く。
「2人組の情報が無いか聞いたけど、みんな分からないみたいだ、すまん。」
とオークスは僕たちのもとに戻った足で伝えた。
「そうか、ありがとう」
「ありがとうございます。」
と僕とハルは答えた。
そして、僕とハルはオークスの案内の下、再び自警団内を歩き、盗賊団の1人がいる牢屋へ向かう。
「シャルテ、盗賊と会ったところで、彼は口を閉ざすばかりで、何も話さないぞ?俺が尋問しても、口を開こうともしないんだ。」
とオークスは僕に忠告してきた。
「彼はどうして話そうとしないんだろう?やっぱり何か盗んだものなのかな?」
と僕は不思議そうに話した。
オークスと話しをしているうちに、盗賊がいる牢屋の前まで来た。
牢屋は鉄格子で、腕一本分がやっと通るほどの隙間で頑丈そうだ。
意外にも、壁の色は白色で明るさがあり、空気の通りもよく、温暖な気候であるナナザールには快適な造りとなっている。
他国の牢屋はジメジメしていたり、寒くて凍死しそうな程の場所だったりと、劣悪な環境もあるからここの牢屋は恵まれていると言える。
僕は壁に寄りかかっている盗賊に話しかける。
「やあ、君に少し話があるんだけどいいかな?」
と問いかけるも反応がない。
男は長髪で頭の後ろで髪をまとめている。
見た目は若いが、どこか大人びた雰囲気を見に纏っている。
「君の持っていたアタッシュケースの持ち主は君かい?そうなら、鍵の在処を教えてくれれば、中身を確認して、君の潔白も証明できると思うよ。」
男の反応はない。僕は続けて、
「君は盗賊のようだけど、どうしてあの晩は1人でいたんだい?ここの盗賊は基本的に複数人で見張りと実行役に分かれると聞いたんだけど。」
とさらに問いかけるが、やはり反応がない。
僕がやや困ってきた時に、その様子を見ていたハルが、何かに気づいて勢いよく問いかける。
「あの!もしかしてその手にはめているシンプルな指輪なんですけど!それはあなたのですか?」
男は目立った反応はしなかったが、手にはめている指輪に視線を僅かながらちらっと移した。
畳みかけるようにハルが、
「その指輪と同じ型の指輪をしている2人組の男を知りませんか!?1人は左目の横に切り傷があります!」
と問いかけた。
すると、男は、ハルの顔をじっとみる。そして、
「その2人組がどうしたんだ?」
と反応した。自身の問いかけを無視されてきた、オークスは驚いた反応をする。
僕もハルの問いかけを聞く。
「実は、あなたの指輪を見て思い出したんですけど、私のお店に来た二人組の男性がいたんです。私の友達が...」
と話をしていたハルの言葉を遮り、男は、
「もしかして、君がハルか!?」
と問いかけた。
ハルは男の反応に少し驚いた様子を見せながら、
「はい、私はハルと申します。小さい雑貨屋を営んでいます。」
「そうか、君がハルか、会いたかったよ、ちょっと、お二人さんには外してもらって、ハルと二人にしてもらって、いいかな?」
と僕らにお願いする。
「危ないぞ」
と、オークスと僕は危険だと思い、一瞬止めようとしたが、ハルが
「大丈夫です、鉄格子があるし、何か手がかりを掴めるかも。」
と言い、僕たちも
「何があったらすぐ呼ぶんだぞ。」
とハルに忠告し、牢屋の外に出た。
「俺はアルトだ。よろしく。ハル、君のことはファナから聞いていたよ、信頼できるってね。牢屋に閉じ込められて、何もできなかったんだ。君が来てくれて助かったよ。」
「アルトさんは、ファナさんを知っているんですか?私、ファナと友達でお店を手伝ってもらったり、遊んだりしていましたが、突然いなくなって、心配なんです。ファナはどうしていますか?」
「心配をかけたね。ファナは今、訳あって姿を隠してもらっているんだ。元気なはずだよ。指輪のこと、よく気づいたね。これは大切な指輪なんだ。」
「ファナも緑のサファイアの指輪をしていて、それで二人組の男の指輪のことも思い出したんです!」
「それで、本題なんだけど、君には協力してほしいんだ、実は自警団員含めて、信頼できる人がいなかったんだ。何とか鍵を見つからずに持ってきてくれないかな?ファナのところにケースを持って行かなきゃならないんだ。いいかな?」
「私は、そんなことはできません...シャルテさんとは一緒に働いたりして信頼していますし、その友人のオークスさんも信頼出来る人だと思います。一度、お二人を交えて詳しく話してもらえませんか?」
とハルとアルトは会話をする。
しばらくアルトは沈黙し、考える。
ハルは困りながらも口を開く。
「シャルテさんは外交省で働いているんです。私が困ったときも親身になってくれましたし、相談にも乗ってくれた、優しい人なんです。」
と訴えかけるように話した。
そうすると、アルトは閃いたように、
「シャールの外交省?待てよ、ファナから聞いた事がある。もしかしたら...」
と独り言を呟きつつ、
「シャルテを呼んできてもらえないかな?」
とハルに伝えた。
ハルは外で待っているシャルテだけを呼び、アルトと話をする。
「シャルテさん、もしかしてあなたの父親はシャルルさんでは?」
「そうだけど?」
「そうでしたか!ファナからあなたの親御さんの事を聞いていたんです。元外交省大臣として歴史の浅いシャールの外交の礎を築いてきた偉大な人物だと。そのご子息も優秀で国のために働く信頼できる人物だと聞いています。あなたになら、事情を話せるかと。」
「父の事をそう言ってくれて、ありがとう。事情とは何かな?」
「実は俺とファナは数人の協力者とともにナナザールでテロを起こそうとする情報を掴み、調査していました。主犯者はシャールにいるらしく、俺たちは未然に防ごうとしていたんです。俺は偽装工作で盗賊団になりすましながら、盗賊団を探りつつ、ファナと別行動をしていました。ファナが集めていた証拠品を協力者の1人に内通者がいて、証拠品が入ったケースを持って逃げ出そうとしたんです。俺のところに連絡がきて、すぐ拘束しましたが、逃げた先で、ケースを回収する際に、オークスに捕まってしまったんだ。別行動どこに内通者がいるかわからないし、協力者とも連絡がとれず、困っていたんです。」
「ナナザールでテロなんて...信じられない。」
「テロだって!?ナナザールで一体何が目的なんだろう...そういった情報は僕も知らなかったな...そういう事情なら時間との勝負だし、協力するよ。証拠品が入っているケースの中身は?」
シャルテとハルは信じられないという反応をしながら、シャルテがケースの中身を聞く。
「書類らしいけど、ファナとは別行動だったから、何が書いているかは分からないんだ。とにかくファナと合流しないと。ファナがケースの鍵を持っていて、内容も知っているんだ。内通者がいる事がわかった時に、事前に決めていた隠れ家に移るように言って、そこにいるんだ。」
「なら、早く行かないと。ここから出なきゃいけないから、オークスを読んで事情を話していいかな?」
「オークスは信用出来る男ですか?内通者が他にいる可能性もあります。」
「大丈夫、オークスとは僕と仕事を一緒にこなしたり、仲がいいし、友人なんだ。彼のことは僕自身信頼してるよ。」
「ここは、シャルテさんを信頼します、オークスさんを呼びましょう。」
と僕とアルトが話し、ハルも頷きながらきいていた。
オークスに来てもらい、一通り同じ内容をアルトが伝え、オークスが
「よし、わかった。事情が事情だし、シャルテが協力するなら、協力しよう。皆んなにはシャルテの仕事の同僚だったとでも上手く答えておくよ。」
と言いながら、近くに保管されていた牢屋の鍵を取り出し、鍵を開け、扉を開いた。
牢屋からようやく出れたアルトは疲れを見せつつも、
「よし、早速ファナのいる隠れ家に行って、ケースを渡そう。ハル、危険かもしれないけど、どうする?」
と僕らに話す。
「危険かもしれないけど、ファナは私の友達です。一緒に行きます!」
と答える。
オークスは
「すまない、仕事がまだあるから、今は協力できそうにないんだ。何かあれば、なんでも相談してくれ。」
と答えた。
僕たち三人は早速、オークスと別れ、自警団を出て、アルトの案内で、ファナのいる隠れ家に向かうことにした。




