アキナVS魔王
アキナはにっこにこだった。
念願の魔王と戦うことができるからだ。
異世界に召喚されて、魔王と戦う。
さらに自分はチート持ち。
こんな素晴らしい筋書きはないと思った。
ノースはしたり顔して送り出したが、内心焦っていた。
アキナがどうかされちゃうとか、そんな事は思っていない。
いくらアキナでも魔王相手。
負けるに決まっている。
問題はその後。
魔王は自分と戦うと言っているのだ。
そんな事、できるはずがない。
門番のミノタウロスでさえ、一撃で吹っ飛ばされたのだ。
魔王が、ちょっと間違えて手加減一発受けてみろ。その時点で魂はあの世に行ってしまうこと、確実だ。
「アキナ、頑張るんだよ。絶対に俺の番にまわすんじゃないぞ」
「大丈夫だよ!私がやっつけるんだから。ノースさんはどーんと構えてて」
アキナは自信満々にうなずいた。
ええ、任せてなんておけませんとも。
ノースはアキナを応援しつつ、今までにないぐらい知恵を絞り始める。
どうすれば戦わなくて済むか。
仮病ではいけない。
相手は仮にも魔王。
本当の病気だとしても、魔法で一瞬に治癒してしまう。
では、アキナが戦っている隙に逃げてしまうのはいい案ではないか?
幸い二人は既に戦闘に入り始めている。
ノースはゆっくりと後ずさりを始めた。
よし、誰も気づいていない。
十歩ほど後ろに行っただろうか、背中に壁が当たってしまった。
こんな所に壁があっただろうかと振り向くと、そこには何もない。
「しまった!」
ノース達は既に別空間にいて、外界と隔離されているのだ。
「どうしました?」
アラクネの問いに軽く一瞬ビビり、それでも平然とした態度で腕組をし、見えない壁にもたれた。
「いや、こっちの方が応援しやすいと思っただけさ……」
そう言いながら焦る。
もう後は神でも魔王でもなく、アキナ様に頼るしかない。
アキナ様、宜しくお願いします!
そう願掛けながら、戦いの行方を見守るノースであった。
魔王と対峙したアキナは、取りあえずグーパンチを繰り出してみた。
だいたいの魔物はこれで吹き飛ぶのだ。
だが、魔王はその攻撃を片手で受け止めた。
「ふむ。恐ろしいぐらいの魔力が込められているな。最初から全力か?」
「まさか、様子見だよ!みんなこれで弾け飛んじゃうからね。今度はもっと力を入れるよ!」
アキナはそう言うと、パンチを連打し始めた。
その一発一発が先ほどの比ではないが、魔王は余裕であしらっている。
「なるほど、最初は『勇者』かと思ったが、確かに召喚獣か。術者の莫大な魔力を使っているとうことだ。な、サウザントマスター!」
「ああ」
ノースは一言うなずいたが、何の事かよく分からない。
どうやら、アキナは召喚獣なのでノースの魔力の影響を受けているという。
ノースの魔力がアキナの弾けるパンチを作っているということらしい。
「ねえ、何で私のパンチが効かないのよっ?」
アキナは必死で拳を繰り出しつつ、悲鳴のように声を上げた。
「ほら、サウザントマスターの魔力は元々、俺が宿していた物だからな。修行してこんな事もできるようになったぞ」
魔王はアキナの拳をつかむと、魔力を吸収し始めた。
アキナは体から魔力がどんどん吸い取られ、寒気がした。
「ノースさん、助けて!」
アキナの声にノースは慌てる。
自分でもどうやったか分からないが、ノースはアキナにどんどんと魔力を注ぎ込んでいる様で、少しづつ、自分の魔力がなくなっていくのを感じた。
そして数分後、アキナは力尽きたように膝をついた。
魔王は溢れる魔力に身を震わせていた。
ノースは目を閉じ、ゆっくりと息を吐き出すと、再び目を見開いた。




