VSミノタウロス
「いいか、さっきも言ったように、俺は魔王の知り合いだぞ。いや、友達と言っていいかもしれない。そんな俺を怖がらしておいかえしたら後で魔王に怒られてしまうよ」
「なんだ、お前は俺をみてさっきからビビってたのか」
ミノタウロスはからかうように言った。
あんなムキムキな牛に睨みつけられてビビらない方がおかしい。
「ノースさんはこの前ちょっと事故をしちゃったから少し怖くなってるだけだよ!ノースさんが本気になったらミノタウロスさんなんて翻弄されてイチコロなんだから!」
アキナは果敢にミノタウロスに言い放つ。
「ま、まあ、俺が魔法の一つでも撃ったら確かにイチコロかもしれないけど・・・・・・」
「大丈夫。私、ノースさんが本気になれる魔法の道具を持ってきたから!」
アキナはそう言うと、どこからともなく赤い布をノースに渡した。
それはボロボロになったマントだった。
「はっ?」
「ほら、ミノタウロスさんって牛だよね」
そこで初めてアキナが言わんとしている事がわかった。
つまり、この前のクリスタルバッファローと同じ様に赤い布を見せてミノタウロスを翻弄し、ミノタウロスが疲れたところでとどめをさすように言ってるのだ。
「いや、まさか!」
「ノースさんならできるよ」
それは魔法の言葉だった。
そんなアホな事は出来るはずがないと思った。
この前のクリスタルバッファローだって吹っ飛ばされている。
しかも今度はしっかりと知能を持っているのだ。
ひっかかるはずがない。
ノースは大きく息を吐いた。
「アキナさん、あれってどうやるんだっけ」
ノースはわざとらしく聞いた。
「忘れちゃったの?しょうがないな。まず赤い布を広げてミノタウロスさんの前ではひらひらさせるの。そうするとミノタウロスさんが興奮して赤い布に突っ込んで来るからそれを上手にかわしてミノタウロスさんの体力を奪うの。それでミノタウロスさんが疲れたらとどめをさすのよ」
ノースは一通り説明を聞いた後、ゆらりと赤い布を構えた。
ミノタウロスだってばかじゃない。
今の説明を聞いて作戦にのるはずがない。そもそも赤い布を見ても興奮しないし、突っ込もうと思わない。
だがしかし、ミノタウロスは見た。
ノースが男の目をしてた。
彼の瞳はか語ってる。ミノタウロスがこんなことでは引っかからない事を。だが、アキナの言葉を叶える為、ミノタウロスに突っ込んでもらいその上でノースは散る覚悟を持っている事を。
突っ込んで来い!
ノースの目はそう語ってる。
ミノタウロスは感動した。力のミノタウロスが力でなく覚悟で負けた気がした。
だからこそ彼は赤い布に突っ込んだ。
自分の角の横に人差し指をたてて、ゆっくり歩いて布の中を通り過ぎる。
ノースは布を大袈裟にはためかせてミノタウロスの後ろへ回り込む。
アキナは目を輝かせてみていた。
ミノタウロスはゆっくりとしたペースで何度か繰り返した後、ノースの目を見た。
ノースの目は感謝と幕引きを願った目をしていた。
ミノタウロスは敬意を持ちつつ、ノースを全力でふっとばす。ノースはコロコロ転がり気を失った。
この男は魔王の友達ではないかもしれないが、俺の友達にはしたいとミノタウロスは思った。
「あ、ノースさんがやられちゃった」
アキナは残念そうにつぶやいた。
だが、ミノタウロスはその呟きに怒りを覚えた。
「あの男は覚悟をもった本物の男だった。あいつには技術はおろか、知恵すらなかった。だが、男の意地があった。素晴らしい奴だった。俺はそれを感じたから、全力ををもってあいつに答えた。だが、お前はそんなあいつの覚悟すら気づかない愚か者だ。俺があいつの変わりに根性を入れてやろう!」
ミノタウロスはアキナに殴りかかった。
もちろん、こんな女に全力は値しない。すんどめで勘弁してやろうと思ってだ。
だが、アキナはその拳に反応し、カウンターでミノタウロスに殴ってきた時にはびっくりした。
そのまま二人は両手をつかんで押し相撲に入る。
力のミノタウロスは徐々に力を入れてアキナを圧倒しようとしたが、いくら力を入れてもアキナは倒れない。ひるまない。一歩もひかない!
「お前……!」
「ノースさんがやられちゃったんだもん!私ががんばらないと!」
アキナはさらに力を込める。しかし、ミノタウロスは意地でもひかない。
両者一歩もひかず、膠着状態に陥った。
そんな時、彼方から何かが飛来し、ミノタウロスの頭に直撃した.
それは分厚い辞書だった。
びっくりして、辞書の飛んできた方向を見ると、そこには上半身は美しい女性、下半身は蜘蛛のアラクネが怒った顔で立っているのだった。




