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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#50 異色で正当なクレーム

 異世界人によるリアルな訴えに、シリアスな現場はすっかりシリアル化したギャグ時空となっていた。


 シヨウはハァ、ハァと息を荒げ、黒い雫を垂らしつつ、なおも怒涛の勢いで吼え続けた。


「人体実験がしたいなら、それも結構!! 

最低限の健康の保障と安全性、それに実験されている間のまともな衣食住、何よりそれに見合うだけの正当な報酬が貰えるっていうなら、多少のリスクぐらいこっちだって割り切って飲み込んでやる!!」


「……っ、実験を、受け入れると……!?」


「だけど、勝手はなしでしょッ!? 有無も言わせず勝手に連れていって、勝手に持ち物を奪って、勝手に痛いことをして……ッ!! 

あの社長は、インフォームド・コンセントも知らないのか!?」


 彼女の放つ社会のルールとしては真っ当な大クレームが、ドーム内で炸裂する。


「実験に協力するかどうかは人によるかもしれないけど、ちゃんと最初から、これこれこういう趣旨でこういうことがしたんですけどご協力お願いできませんか? って丁寧に頭を下げて説明して、契約書(サイン)を交わしてくれれば、私だって考えるよ!! 

切るとか、煮るとか、焼くとか、抉るとか、変な細胞を打ち込むとかじゃなくて、ちゃんと現代の常識の範囲内で実験しろ!! 

こっちに真摯に同意を求めろ!! 異世界人には人権がないとでも!? 

ふざけるなッッッ!!!!」


 その凄まじい大熱弁を真っ正面から喰らった噴水前のハンターたち、そして通信の向こうの支部の人間は一斉に頭を抱えて唸り声を上げた。


『……いや、言ってる内容はめちゃくちゃ尖ってるけど、筋はちゃんと通ってて100%正論だぞこれ……っ!!』


『んん゛ぅぅ……、だが待て。そもそも常識の範囲内の人体実験とは一体どんなコンプラに基づく物なんだ? 

被検体が喜んでサインする治験とは、あのクソ社長の暗黒設定と矛盾しすぎててイメージが沸かん……』


『おいクロム社ァァァッッ!! 

お前らが最初にちゃんと説明と雇用契約をしねえから、不法滞在の異世界人から超ド級の労基クレームを喰らってんぞッッッ!! 

こっちに飛び火させてんじゃねぇッ!!』


 全員ゴリゴリの現代法治国家の正論にタジタジになりながら、ヤジを飛ばし合う。

 そんな喧騒のなか彼女は「はーっ」と大きく一息を入れ、さらに声をもう一段低くして続けた。


「それと、二人を見送ったあと改めて冷静に考えてみたんだけど……」


 シヨウは振り返り、センジを困ったように見つめた。


「私、あの社長に目を付けられてたのすっかり忘れてた。

……ってことはだよ? あの人を今ここで確実にどうにかしておかないと、これからの私の異世界生活が監禁拷問の一色に染まることになる。

――やだよッ!? 私、そんな人生!」


 やれやれと首を横に振りながら、大きく息を吸って宣誓をする。


「だから私は、あの社長にクレームという名の諸々の八つ当たりをしにきた。

私をこんな世界に放り込んだ『何か』に対しての、このやりきれない怒りのすべてを全部あの男にぶつけてやるッ!!」


 彼女の黒い瞳の奥に恐怖や故郷に帰れぬ悲しみを超越した、逆襲の炎がバチバチと燃え上がる。


「こんだけやらかした大悪党なら、例え顔面を思いっきり蹴り飛ばしたって、流石に暴行罪とかで警察に捕まったりしないよね?

――ですよねッ!?」


 シヨウは少しだけ一般人の素顔に戻ると、縋るようにして周囲のハンターたちや通信機の向こう側に大きな声で念を押した。


 その問いかけに対し返ってきたのは最高に不敵で、最高に頼もしいハンターたちの狂暴な笑顔だった。


「おう、絶対に捕まるわけねえだろ!! あんなクズ、俺たちハンターの法律じゃ『ただの不燃ゴミ』だ!! 

好きなだけ蹴り飛ばして、跡形もなくスクラップにしていいぞ、嬢ちゃん!!」


「シヨウ様、僕が保証しますッ!! あそこまで盛大にやらかした犯罪者なら、全身タコ殴りにしたって、始末書の一枚すら発生しないはずです!! 

むしろ僕がテストプレイで知った一番痛い角度をお教えしますから、安心して思いっきり蹴り飛ばしてくださいッッ!!」


 管制室で異世界人の本気の怒りのクレームを聞いたタッカーは、ガラでもない罪悪感を抱いたのもすっかり忘れてしまった。

 面白い映画のワンシーンでも見たかのように、腹の内から込み上げる笑いに逆らわず気前のいい声を出す。


『ガハハハハッ!! 暴行罪だの何だのうるせえ法律は、俺が全部その場で書類を破り捨てて揉み消してやる!! 

安心してあの野郎に特大のクレームをブチ込んでこい!!!!』


「……フッ、全くです。法の手続きなど必要ありません。

……行きましょう、シヨウ。あなたへの誠意ある賠償は、この私がプロのハンターとして保証します」


 センジが血管が焼き切れた黒い両手でがっしりとシヨウの肩を抱きしめ直し、誇り高く微笑む。


 シヨウの生々しいクレーム【※八つ当たり】により、それまで背負っていた悲惨な世界の罪悪感をすべて笑い飛ばし、ハンターとしての本当の誇りと戦うための強さを120%取り戻したのだった。

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