第16話
「フッ!ハッ!セイッ!」
「ジュリリ……!」
ワンツーと叩き込まれる蹴りをバインヒューマはサンドバッグのように受ける。攻撃の予備動作が見えたら離れ、攻撃が空振りした後に追撃を入れる。ヒット&アウェイを意識して……
「ヤァ!」
「ジュリリ……」
トドメの回し蹴りを食らってバインヒューマは光へと変わった。ふぅ……20回は軽く超える蹴りを叩き込んだから疲れた。
「バインヒューマは人型なおかげで蹴りの練習にピッタリだね」
リアルで色々動画を見漁って蹴りの知識を学んできた。空手、キックボクシング、ムエタイ……あと役に立つか分からないけどサッカーとかの動画も見た。
とりあえず分かったのは蹴る時は足だけじゃなくて全身で蹴る。全身の力を蹴り込む足、つま先へと込めて放つ。全身に広がるように水が広がっているなら、それを全てつま先へと集めるイメージで。
「これを意識したら気持ち威力上がった気がする」
なお、今足りないのはSTRと体幹。力を一点に集めようとするとバランス崩しそうになるんだよね。有効打を与えようとすると胴体とか頭になるし……頭は流石に足が上がらない。そうなると柔軟性も足りないか。威力に関してはさっきみたいに連続で蹴りを入れていけば多少は補える筈。
(この辺はあとでスキルで補強かな……お金が飛ぶ)
そろそろスタイルをカッチリ決めていかないと、自由スキルはできれば15個以内に収めたい。それ以上だと強化とか追いつかなくなりそう……
「いくつか候補はある……あとはここの攻略して何が必要か決めよう」
イベントまであと2日。できるだけ蹴りで戦う……フルーツトレント以外は蹴りメインでも行ける筈。
(あれは樹皮が硬いから効かないと思う……)
逆に私の足が死ぬ。レッサーマンドラゴラは強酸で怯ませたら良いから、本当にフルーツトレントだけ魔法メインで戦わないと。複数戦は勿論出し惜しみはしない。
「ジュリリリ……」
「ジュギギギ……」
「ギィィィ……」
迷路を進み出てきたモンスターたちを魔法と蹴りを駆使して倒していく。複数戦もレッサーマンドラゴラを優先して潰していけば事故ることもない。レッサーマンドラゴラ2体の時は流石に焦ったけど、【アシッドスプラッシュ】半分ずつ分けても怯んでくれて助かったよね。
「ワンツー。セイ!」
「ジュリリ……!」
蹴りの方も好調子。参考にしているのは身体の動かし方のみ。組み合わせとかはその場のオリジナル……蹴り方まで決めてると想定してない時に動きが止まる。
「元よりその場の状況で動くことは慣れてるし」
どこかの幼馴染のおかげでね。そんなこんなで順調に攻略。胃もタプタプしてない状態で第5階層のゲートへ到着した。メイカの話だとダンジョンの1番最後の階層にはボスがいるエリアだけ。万が一負けてしまった時に備えてセーブし、HPと MPも充分……いざ突入。
第5階層。そこは荒れ果てた庭園のような空間。広い円形の形で中央には壊れた噴水の残骸、それを中心としたひび割れた石畳。円形の壁は迷路の通路と同じ生垣となっていて、出口は見当たらない。
「肝心のボスは……」
姿の見えないボスは何処かと見回しているとズルズルと音が聞こえてきた。その音は生垣の壁の向こうから、外周を回るように這うような音がずっと聞こえてくる……そして生垣の壁をブチ破るように音の正体が現れた。
「シャァァァ!」
現れたのは緑色の大蛇。私なんかは一口でペロっと丸呑みできそうな大きさ……ここに来て爬虫類?と思ったけど、よく見るとその身体は生垣の植物が捩り纏まりあったもの……ヘビの形をした植物って感じ。
(あれは……蹴りは効かなさそう)
焼石に水。暖簾に腕押しって感じになる気しかしない。魔法をメインで戦いたいけど……あの大きさだとかなり強酸を浴びせないと効き目薄そうだし。その方向で戦っていこ。
「シャァァァ!」
ある程度戦い方が定まると戦いの火蓋を切るように植物ヘビが口を開けて突撃してくる。身体をくねらせて来るせいで若干軌道が読みにくいけど……頭の軌道にさえ気をつけていれば大丈夫そうだね。
「【アシッドショット】!」
横にジャンプして避けつつ【アシッドショット】を身体に浴びせた。浴びせたところの植物の色が褪せていき花が枯れていく……効いてはいそう?
「シャァァァ!」
「わっ!?危な!!?」
私が魔法の効き目を確認しているとヘビは身体を動かして尻尾を思いっきり振り回してきた。関節だらけのニョロニョロした動きが読みにくい……でもこの感じだと物理攻撃メインなのかな?
(それなら距離を取りつつ魔法を浴びせていこう。全身に広がるように)
私は植物ヘビの動きを観察しながら強酸を浴びせていく。植物ヘビの攻撃は突進と尻尾振り回し、それと大口を開けての飛びかかり。突進と飛びかかりは頭の位置、尻尾振り回しは軌道が読みにくいけど大きく距離を取れば問題無い。
「【アシッドショット】!【アシッドスプラッシュ】!」
回避後は兎に角魔法を浴びせていく。【ウォーターカッター】も一応試してみたけど……まぁ、相性が悪かった。これは獣とかじゃないと有効打になりにくいから仕方ない。
「シャァァァ!」
「それにしても流石ボスと言うべきかな。かなり強酸浴びせてるのに怯みすらしない」
効いてるのか不安になって来るけど……浴びせたところの様子だと効いてる筈。それを信じて浴びせ続けていこう。
「これ【アシッドショット】より【アシッドスプラッシュ】の方が広く浴びせられて良いかも」
量より範囲を重視した方が良い?なんだろう……昔やった陣取りゲームを思い出すね。既にレッサーマンドラゴラ10体は倒してる量を浴びせてるのに足りないのには驚愕だけど。
「シャァァァ!」
うん、まだまだ元気だね。第4階層ではあんまり飲まなかったとはいえ、ボス戦開始してから既に3本飲んでる。そして今4本目飲むところ……胃袋の限界がちょっと怖い。消費量には気をつけよう。
「【アシッドスプラッシュ】!」
私はMPの残量に気をつけながら戦いを続けていく。相手は疲れを知らないのか動きが遅くなることはない。攻撃は3パターンしかないけど休めるターンが全然無くて疲れる。
(障害物になりそうなものも無いし……頭が疲れる)
MP切れ前に集中力が先に切れそう。あまりの長時間戦闘に神経を擦り減らしつつ魔法を撃つ手は止めない。そうしてMPと集中力の削れる音(幻聴)が聞こえそうになってる中……遂にその時が来た。
「シャ、ァァァ……」
疲れを見せなかった植物ヘビが動きを鈍らせ地面へと倒れた。身体の8割ほどが強酸で変色している……や、やっと倒せた。
「私の火力無さすぎ……」
疲れの余り地面にへたり込み溜め息を吐く。こいつとはしばらく戦いたくない……せめて火力が高くなってからにしたいね。
「とりあえずこれで覚醒玉ゲット。これは魔法に使おうかな」
そろそろ強化しても良いでしょ。まぁ、一旦メイカに相談はしよ……その後はスキルを買ったりしてイベントに備えよう。
「あ、なんか奥の生垣に出口ができてる」
疲れで地面を見ていた顔を上げると奥の生垣にゲートが出現していた。あれに触れれば町に帰れそうだね。
(町に帰ったらカフェでゆっくりしよ)
ボス戦の疲れを癒したい。私はヨロヨロと立ち上がってゲートへ向かいながらそんなことを考えていた。これにて花の迷宮攻略完了!




