73話 003
スーツにサングラス姿の俺。
どこぞのスパイ映画に影響されたグランマリア様のリクエストにより、
俺達は『相楽さん(ししょー)お助け隊』のメンバーは黒いスーツに身を包んでいる。
この世界ではむしろかなり目立つが、言わない事がベターだろう。
言えない訳ではない。
……俺は子供に優しい勇者なのだ。
おっと、目的の地へもう着いた。
『妖精のチョーク』一度行った事のある場所なら何処へでも行けるという、ドワーフの秘宝だ。
ドローンとの交換で手に入れる事が出来たが、良かったのか…
さて、取り敢えず王都での隠れ家にしようとしていたマイケルの商会の本店に来ている訳だが、勇者がいる。想定外だ。
「のう、一条。さっきから一人でぶつぶつ何いってるのじゃ?」
「マリーちゃん。今いちじょーは『いちじょー003』だよー」
「そうだったね」
俺に与えられたコードネーム『いちじょー003』だ。
何も言うな。
ちなみに今俺と一緒に居るのは、『マリー001』と『シャル002』だ。
二人とも黒いスーツに身を包み、スパイになりきっている。
この二人のスーツ姿なら、元の世界でも目立つ。
でも可愛いので気にしたら負けだ。
中の勇者は二人。
ギャルっぽいのが二人。
勿論俺は口を聞いた事が無い。
さて、どうしよう。
一旦退くか?
でも、マイケルの奥さんが危なそうだしな。
他の従業員は間に合わなかったので、しょうがない。
間に合っていたなら助けてた…多分。
結局こう考えると勇者じゃないよな俺。
まずは自分達の安全を考えてるのを実感する。
「今度は何一人で難しい顔をしているのじゃ?」
「ん?いつもとおんなじ顔だよ?」
「ふっ。シャルはお子ちゃまだの~。マリーは大人だからわかるのじゃ」
「すご~い」
俺の悲壮感は何処に行った?
それよりも、中でどんな話がされているんだ?
「ねえ、おばさん。一条君に電話するから協力するように、おばさんからも頼んでよ」
「相楽の奴、まさかスマホ持ってるなんてね。
ここ異世界だっつうの、電波は?
凄いよね。やっぱ、一条君欲しいわ。
なんなら一発ぐらいヤらしてあげても良いかな」
「友美、あんたマジかよ。ウケるんですけど」
父さん、母さん。
俺は今日大人の階段を登ります。
…冗談です。




