2-7 どうやら解決したようです。
まず、結論から言うと、マックス、レイチェル、リリーの三人はオーラル伯爵家からいなくなった。
部屋にカスミソウの花を置いた五日後に、警察団の方々に三人は連行されたのである。
どのような経緯でそうなったのかは知らないし、今どうなったのかも知らない。
ただ、三人がスパイであったことは間違いないだろう。
ヘンリー様から屋敷の者に向けて、諸事情があり三人は捕まったのだと説明があった。
その諸事情とは何なのか。新たなる噂が次々と囁かれているなか、私はヘンリー様のお部屋にいる。
「アイ、君の協力があったおかげで、無事に解決できたよ。」
ヘンリー様の部屋にて、私はヘンリー様へ紅茶を出す。
三人が捕まってから、ヘンリー様は心なしか穏やかに…夜遅くまでに仕事をされる事が少なくなった気がする。
「私に出来ることは限られておりますから、少しでもヘンリー様の御役に立てたのであれば良かったです。」
「まさか三人もいるとは、」
「そうですね。予想外でした。」
反対にローランドは少し疲れている様子である。
無理もない、部下のマックスがいなくなった分の仕事があるのだから。
マックスはスパイであっても、仕事は優秀だったようだ。
すぐにでも人員を増やしたいのだが、今回のこともあり、ローランドはかなり厳しく審査しているらしい。
良い人材が来てくれればいいのだけれど。
「あの三人を疑っている時に、ちょうどアイからの盗聴器を渡されてね。アイに協力してもらって良かった。」
ヘンリー様の言葉に、ローランドがそういえば聞きたいことが、と言ってきた。
「何故、盗聴器をレイチェルとリリーに仕掛けたのですか?あの時から怪しいと思っていたのでしょうか?」
ローランドの言葉に、そういう訳ではありません、と否定した。
私はレイチェルとリリーに関して思っていたことを説明する。
「レイチェルはおそらくですが、リリーは完全にマックスの二股のことを知っていました。それにも関わらず、同じ部屋で暮らし、仲良くしていることに違和感があったのです。
それに、三角関係を理由にすると、夜に屋敷を出歩いていることも、ローランドや部下達の部屋へ行くことも不自然ではなくなります。」
「なるほど…。」
「違和感かぁ。女性の勘は鋭いからね。」
ローランドは納得し、ヘンリー様は何か思い当たる節があるのか、しみじみと呟いた。
ただ、私も少し怪しいと思った程度であったため、盗聴器を再生した時は驚いたし、ショックであった。
「まぁ、とにかく、この件はもう終わったことだ。アイにはこの事は忘れてもらって、今まで通りにしてほしい。」
「勿論でございます。」
むしろ、そう願っていた位だ。
私はようやく自由の身になれたような解放感があった。
「最初はアイを巻き込むことに私は反対していたんだ。けれど、クレアさんがアイなら絶対に裏切らないと言って、そうだなと思った。君は、三年前からよく働いてくれているからね。」
「…ありがとうございます。」
「アイが幸せになるのなら、喜んで手伝うよ。」
「……? ありがとうございます。」
ヘンリー様の言葉に、何処か引っかかりを感じる。
私が幸せになるのなら、喜んで手伝う?
よく意味が分からない。
今回のこの一連の出来事で、すっかり「嫌な予感は早々に片付けるべき」と思うようになった私は、ヘンリー様に尋ねてみる。
「ヘンリー様、今仰った御言葉の意味が分かりかねるのですが…。」
「あぁ、知らないと思っていたのですね。」
ヘンリー様の代わりに、ローランドが言った。
「クレア様とアイがお互いに好意を持っているのは、クレア様より聞いておりますので大丈夫ですよ。
クレア様から、結婚を前提に是非お付き合いしたいと伺っております。貴方は平民ですから、身分差が気になるかもしれませんが、気になさることはないでしょう。」
「………………は?」
思わず、素が出た。
「アイがいつ結婚するかと気になっていたが、いつの間にクレアさんと!いや、驚いたよ。」
「レイティ奥様も大層お喜びでしたよ。」
「ちょっと待ってください。ちょっと……。」
なんだろう、得体の知れない恐怖に足が震えてきた。
「私とクレア様はお互いに好意など持っておりませんわ。決して、決して持っていません。」
「いや、しかし、クレア様がそう仰られていたのだが、」
「ヘンリー様、これはクレア様の悪い冗談です。私はオーラル伯爵家に一生を捧げるつもりです!結婚など、するつもりありません!」
必死に訴えていると、ヘンリー様はだんだん哀れむ表情になった。
「そうか…、そういう感じなんだね。」
「左様でございますね。」
「分かったよ、アイ。」
一体何が分かったのだろうか。
ここで諦めては絶対に後で面倒になるのだと、私は決心する。
「クレア様とお話しをさせて下さい。色々とはっきりとしなければいけないようですから。」