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THE NEWWORLD  作者: cyan
19/33

19.魔力コントロール

「ごめん、また考えごとしてた…」


つい話の途中でも他のことに思考を奪われる傾向があることを詫びて、怒っているわけではないと彼らに告げる。

グランからは、私が考え始めたら黙ることが解ってきたから大丈夫だという旨の返事があった。

呆れ気味のヴェルフィアードがアリアの質問に戻るよう促してきた。


「して、水のは妾の意匠が気になったのは何故じゃ?」


「はい、同じ意匠を彫られた石柱を森の中で見ました。ヴェルフィアード様がお造りになられたものですか?」


アリアたちが森の探索中に見つけ、今日にでも私が見に行こうと思っていた石柱のことだろう。


「おそらく水のが言うておるのは、妾が造った転移の標のことじゃな。2つの柱に妾の姿を刻んで、上にも2本石柱を横に渡しておるものじゃろ?」



へー、そんな形をしているのか

って、それってアレじゃない?



「アリア、それってこんな形してた?」


私は左右の手で鳥居の形を作って見せた。


「そのような感じです」

「そんな感じじゃな」


アリアとヴェルフィアードから同意の返事があった。指で表現したのが伝わるか不安だったが大丈夫だったようだ。


「ヴェフィー、それって"鳥居"だよね?」


「うむ。そのような名前を言うとったと思うぞ。それがどうしたのじゃ?」



やっぱり〜!

これもスサノオさんかぁ…

変なとこで日本色でてる気がする



「いや、鳥居って私のいたとこでは神域と俗界を区画する門、神様への通り路みたいなもんだからね」


「ほぅほぅ!誠、相応しきものではないか!」


ヴェルフィアードは感嘆の声をあげる。どうやら意味など気にせずに言われるがまま造ったようだ。


「アリア、また確認に行くから…」


スサノオさんに近い話題で空気が重くなるかと気をもんだが、取り越し苦労だった。







◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇







グランの【時間管理タイムマネジメント】スキルでは、あと1時間くらいは昼時間にならないと言うので、神殿前の広場でヴェルフィアードもとい、黒竜の神魂を振るってみることにした。

素振りくらいなら神殿の広間でしてもよいかと思ったら、ヴェルフィアードに絶対にするなと禁止されたのだ。



新しいおもちゃを手に入れた子供のようにワクワクして外に出ると、すっかり忘れていたワイルドベアがいた。


「くまーっ!」


ぐわぁっと威嚇してくるワイルドベアに怯むことなく、ウラハがはしゃいで魔法で造った石柱の檻に駆け寄る。檻の格子の間隔はワイルドベアの体は通らないが、四肢を伸ばして引っ掻いてこれるぐらいには空いている。ウラハが襲われるのではないかと心配したが、ワイルドベアは威嚇をしてきても攻撃はしてこなかった。

昨日と違っていきなり襲いかかってこないことに首を捻るが、大人しくなっている分にはよいかと思っていたら、予想を裏切られた。

ワイルドベアにではなく、ウラハに…。

するりと格子の間をすり抜けて檻の中に入ってしまったのだ。



ぎゃああああっ!

ちょっと!なにしてんの!?

危ないってばっ!



私の焦りなど意に介さず、ウラハはワイルドベアにマウントポジションをとる。


「くまくまっ!」


トランポリンのように跳ねて遊ぶウラハがいた。

ワイルドベアは「グギャっ」と数回呻くと、後はひたすら耐えるように踞る。すがるような目をワイルドベアに向けられて、何だか憐れみの情が込み上げてくる。


「…ウラハ、そのへんで止めてあげて」


「えーっ!まだ遊ぶーっ!」



遊ぶ…って

相手、魔物なんだけど…?



「風の、それは賢獣になりかけておる。あまり虐めてやるでないわ」


どう言ってウラハを説得しようか考えていると、ヴェルフィアードが諭すように言った。

おいでおいでと手招くとウラハは渋々といったふうに檻から出てきた。出てきたが、格子越しにわしゃわしゃとワイルドベアの頭を押さえ、いや撫でつけている。

許容範囲だということにしておこう。


「ケンジュウ?」


聞き慣れない言葉に疑問を投げかける。


「そうじゃ。素質はあったのじゃろうが、おそらくお前の魔力の影響じゃろう。智恵を持ち、言語を解する賢い獣となろう」


賢い獣、"賢獣"だと理解する。

魔力そのものから生まれた魔物は賢獣にはなりえず、元々が普通の獣であり、時を経て魔物へと変わり、これまた時を経て魔力を蓄えることで賢獣となるそうだ。

ヴェルフィアードの見立てでは、このワイルドベアは魔物となって日が浅いにもかかわらず、本来ならあり得ない早さ、ひと晩で私の魔力を糧に賢獣にまで成長したらしい。

だだもれの力をコントロールしろと注意された。意識したことなんてないのに無理を言ってくれる。


「この子、檻から出してあげたほうがいいかな」


賢獣なら無闇に襲ってくることもないだろうと言ってみたが、当のワイルドベアが嫌がった。

自身の急激な変化に戸惑っているようだったので、しばらくそっとしておくことにした。







◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇







待ちに待った試し斬りである。

そこら辺の岩でもぶった斬ってみようとしたら、まずは素で振ってみろとヴェルフィアードに言われた。



なんか色々と五月蝿いなぁ

まぁ、いいけどー…



それでも意気揚々と抜刀して、軽くひと振りしたら神殿内では禁止された理由が解った。

広場の大きさが広がってしまったのだ。


「……これ、ここでもダメじゃんか…」


「お前は加減というものを知らんのか!?」



いやいや、めっちゃ加減したし!

居合い止めたし!

片手で横凪ぎにしただけだし!



ヴェルフィアードに力を加減して振れと執拗に言われたから、かなり抑えて振ったつもりなのに、目の前の森は拓けていた。剣圧だけで3メートルは離れていた森が、さらに2メートル先になっている。

ファングもウラハも「すごい!さすが!」と喜んでくれているが、グランとアリアは困り顔になっていた。

今度はもっと力を抜いて上から下ろすだけにした。2回目も森を開拓してしまった。

力のコントロールができるようになるまで、ヴェルフィアードを振るうことを禁じられるはめに…。

コントロールしろと言われても、私にはどうしたらよいか解らない。

うんうん唸っていたら、まずは魔力を制御できるようになれとヴェルフィアード先生からお言葉があった。

どうやら、ひと口に力といっても腕力だけの話ではないらしい。無意識に乗せている魔力を抑えることが必要だと言われた。


魔力のコントロールで目に見えて変化が判るのは、グランたち精霊の姿だ。私の魔力で彼らの実体を保っている。今は垂れ流し状態のそれは余り余って私を中心として森にも影響がでているそうだ。

つまり、辺りに漂う魔力が強くて近づけない状況だ。

グランたちが森の探索にでた時に神殿の周囲2キロメートルに渡って魔物がいなかったのは、私の魔力が森にまで広がっていたからだった。一応、ヴェルフィアードの鳥居で中和されているので、そこが境界を築いている。

神殿地下の回復聖堂では外に溢れでることがないが、聖堂以外では制御していないと魔力は周りに拡がっていくらしい。

神殿付近から離れずにいる分には鳥居のおかげで問題ないが、私はこの世界を旅したいと思っている。ならば、是が非でも魔力をコントロールしなければならない。

精霊の実体化も魔力を使用しているので、精霊への供給量を操作することから始めてみろと、ここでもヴェルフィアード先生からご指導いただけた。

存外に面倒見がよい竜である。



ですが、ヴェルフィアード先生

漠然とし過ぎでわからんです!



両手を握ったり開いたりして何かしらの手応えを探してみるが、さっぱりである。目を閉じて瞑想でもしたら解るかと試してみるが、からっきしである。

私が削り取った森の一部を見やって、虚しく項垂れてしまう。


「主よ、我から過剰魔力を取り去ってくださったようにはいきませんか?」



はっ!グランの助言きたーっ!

今のすっごいヒントじゃない!?



がばりと顔をあげグランと目が合う。

グランから過剰魔力を吸収した時は魔力の流れみたいなものが解った。あの時の感覚を思い出そうとグランを視ていると、【魔眼(解析)】スキルが発動したのを感じた。同時にグランの実体を構成する魔力が視えるようになった。


「グラン、ちょっと魔力吸収してみてもいい?」


「はい、どうぞ御試しください」


了承の意を取り付け、右手をグランへ向ける。掌にゆっくり魔力を集めるようにイメージすると、魔力が球形に収縮されてくる。そのまま続けてグランの体が半透明になって、実体化が解除されたところで吸収を止める。


「グランすけすけーっ」


ウラハが体の透けたグランの腕を叩くのを見て、精霊同士は触れ合えることに気付いた。私は無理だろうなと思いながら、魔力を集めたのとは違う方の手を伸ばしてグランに触れると、すり抜けることなく触ることができた。鬼人の時は通り抜けてしまったのに、今は実体よりは触っている感覚が薄いが感触がある。

私はさっきまでの魔力コントロールを思い返して、失敗の原因を考えようとした。


「成功のようでございますね」


「いや、グランに触れるから失敗してる」


私が魔力コントロールの失敗を告げると、グランがそれを否定してきた。精霊は魔力の塊のような存在であり、魔力を帯びたものからは接触が可能なのだと教えてくれた。

神格では私も常に一定の魔力を纏っていることは自覚している。抑えることはできても消すことはできなさそうだ。魔法と縁遠かった鬼人だから、昨日は魔法は使えないという意識のもとで、強制的に魔力を抑えられたようで、実体のない精霊に触れなかったのだろう、と推測する。


「気分悪くない?大丈夫?」


魔力を吸収しすぎていないか心配になったが、グランからは問題ないと応えが返ってきた。

平気そうだったので、グランには申し訳ないがその状態で待ってもらい、集めた魔力を私自身に戻すことにする。右手の掌から魔力を取り込むイメージをすると簡単にできてしまった。



あれ〜?

するっとできちゃったよ

やっぱグラン様様だなぁ…



「なんじゃ、もうできてしまったのか。つまらぬ」


「つまらないって…。イメージしたらできたんだけど?」


「そうじゃな。想像する力が強いと魔力のコントロールも魔法の創造も簡単じゃ」


そんな簡単なコツがあるなら最初っから教えてくれればよいのに、と批難を込めてヴェルフィアードを見た。

ついでに、ヴェルフィアードを先生と崇めた気持ちはどこかへ放り投げる。


「何でもかんでも答えを先に知ってしまうと面白くないじゃろうが。お前の精霊の勘働きがよいのも、ちと考えものじゃなぁ」


そう宣うヴェルフィアードは本気で言っているようだ。

優秀なのは良いことではないか。私はグランに謝意を送り、ヴェルフィアードに陳謝を求めた。ふんっと鼻をならし黙るヴェルフィアードからは、謝罪の意思は感じられなさそうだ。

不貞腐れているだけのようにも思えたが…。


魔力コントロールのコツをつかんだ私は、忘れないように反復練習をする。精霊4人の実体化を解除したり、実体化させたりを数回繰り返していると、わざわざ手に魔力を集める過程を経なくても可能になった。

森に広がっている私の魔力を感じることも容易になり、だだもれで充満していた魔力を回収して練習を終了させた。


「うーん、完璧じゃない?」


ひとりご満悦で言う私に、練習に付き合わされたグランたちは文句を言うどころか口々に称賛をくれる。訊いたのは私だが、至極照れるので勘弁してほしい。

恥ずかしくて脳内で悶えていると、ワイルドベアが私を呼ぶ声に助けられた。


「ガウッ!」


声のする方を見ると、檻の中にいる"賢獣くまごろー"が私を見ていた。

私が魔力コントロールの練習している間にウラハが名付けたのだが、そのまんまの名前に和んでしまう。しかし、名前までつけてしまっても賢獣を飼うわけにはいかないことをウラハは解っているのだろうか。


「どうした?そこからでる?」


「ガウッ」


そのうち言葉を話すようになるらしいが、今はまだ私の言葉を理解しているだけのようだ。

不思議と私にはくまごろーの意思が伝わってくる。

私がばらまいていた魔力を引っ込めたので、急変化に翻弄されることがなくなり落ち着いたようだった。


ワイルドベア改め賢獣くまごろーは檻から出たあと、しばらくウラハと遊んでから森へ帰っていった。

ウラハがもっと駄々をこねると思っていたら、意外とあっさり森に帰る姿を見送っていた。ぽんっと頭をひと撫でしたら、私を見上げて言う。


「今度は食べ物持ってくるって言ってたよー」



だから、あっさり帰したのか

でもキミは食べないでしょうに…



駄々こねて泣かれるよりはよいので「よかったね」と返して、楽しみにしているウラハの機嫌をとっておいた。

くまごろーが持ってくると言う食べ物を私もちょっと楽しみにしている。

ゲテモノだけは勘弁してね、と密かに願った。

お読みいただき、ありがとうございます。

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