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THE NEWWORLD  作者: cyan
18/33

18.黒竜と精霊の顔合わせ

みんなにヴェルフィアードを紹介しようと、じゃれあっているウラハとファングに声をかける。


「ねぇ、ちょっとこっち来てくれる?」


ウラハを背に乗せてロデオ状態になっていたファングの動きが止まった。


「ファング! GO!」


ファングに跨がったまま無邪気に言うウラハは、さながら猛獣使いの少年だった。

言われるがままに、のそりとファングが動いて私たちの近くまで来ると、ウラハは宙返りして飛び降りた。



おーっ! 10点満点!

しかし、ファング、キミはそれでいいのかい?



キレイに着地を決めたウラハに小さく拍手をしながら、ファングが可哀想になってきた。

むすっとした顔で身震いをひとつしてファングは人型に戻った。ウラハが「毛皮がーっ」と嘆いていたが、そこは取り合わないらしい。やはり不本意に遊ばれすぎたらしく、ささやかな抵抗をしているようで可愛い。

私の左横に胡座をかいたファングが座ると、毛並みを乱された名残りのように紅い髪が跳ねていた。座っても私より高い位置にある髪を手櫛で直してあげると、私の手を掴んで手首のあたりに鼻を近づけてきた。匂いを嗅ぐと、ついでのようにペロリとひと舐めしてにこりと笑う。



ひゃぁぁぁっ!

人型ではやめてーっ

せめてケモミミつけてやってくれ!

それならわんこだからぁ…



私は握られてる手をひらりと動かして、ファングの拘束から抜け出す。不思議そうな顔してるファングに、想像の中でケモミミつけてやり過ごした。

アリアが私の右側へ移動して座ると、ウラハの瞳がキラリと光った。


「ボクはここーっ」


そこは私の膝の上だった。

胡座をかいた私の上にちょこんと座り、柔らかいウラハの髪が私の首をくすぐる。

正面に構えるグランが「やめぬか…」と言っても聞くはずはなく、苦笑するに止まった。


「かまわないよ。それより、みんなにヴェルフィアードを紹介しようと思って」


アイテムボックスから『黒竜の神魂』を取り出した。

鍔と柄頭に龍の意匠が施されている、長い刀は黒々と輝いている。


「刀ーっ! 長いっ! 黒いっ!」


ウラハ越しに『黒竜の神魂』をみんなに見えるよう捧げ持つと、ウラハは目の前に現れた長刀に喜ぶ。

ウラハが鞘に触れようと手を伸ばすと、ヴェルフィアードの声がした。


「妾に触れるでない」


凛とした声にウラハの手が鞘に触れる寸前で止まり、大きな瞳が私を見上げてくる。


「おはよう、ヴェフィー。触っちゃだめなの?」


「触れてもよいが、お前の大事な精霊が怪我をするやもしれぬぞ?」


「そうなの?」


「まぁ、軽い電撃に弾かれるくらいじゃから大した怪我ではなかろうが、そのちっこいのが傷つくのは本意ではなかろう?」


私は頷いて、見上げているウラハはつまらなさそうな顔をしたが、痛い思いはさせたくないから触らないように言い聞かせた。

そして、ヴェルフィアードに大事なことを言わないといけない。


「ヴェフィー、おはようは?」


「なんじゃ…?」


「お・は・よ・う、は?」


「…? おはよう?」



うん、あいさつ大事ね!

あんまり意味わかってなさげだけど…。



よしよし、と朝の挨拶を交わして私は満足する。


「して、此度はどうしたんじゃ?」


「ヴェフィーとこの子たちの顔合わせしようと思ってね」


私が言うと、ヴェルフィアードは私の手を離れて浮き上がった。


「あ、自分で動けるの?」


「お前の魔力が充ちている周囲なら可能じゃ」


ヴェルフィアードは柄を上に向きを変えて、私たちが車座に座っている中央でくるりと一回転し静止した。

長さ1メートル50センチ程の刀は空中に浮いたまま黙っている。


「・・・・・・」


「…どうしたの?」


「早う紹介せぬか!」



はっ! 私が紹介するのか!

えっとどっちからだっけ…

たしか、下位の人からだった?



この世界での常識は知らないが、日本の一般常識では下位の人を上位の人に紹介するのが先だったとうろ覚えの知識を思い出す。

精霊と相対するヴェルフィアード、この世界での上位者はヴェルフィアードであるから、グランたちの紹介からすることにした。


「ヴェフィー、正面にいるのが私が最初に使役した地属性精霊のグランだよ。彼の分析力と判断力にはいつも助けられてるんだ」


「刀剣姿のヴェルフィアード殿とは初めてでございますね。地属性精霊のグランと申します。お見知りおきください」


グランが丁寧に頭を下げて挨拶するが、ヴェルフィアードはくるりと回転しただけだった。とりあえず次、とファングを紹介する。


「私の左隣にいるのが二番目に使役した火属性精霊のファング。戦闘時に炎を纏って疾駆する彼は、とても格好いいんだ」


「えっと、ファングです。よろしく…」


ファングはぺこりと頭を下げるが、もう少しきちんと挨拶してほしいと思ってしまった。

ヴェルフィアードはまた一回転しただけで静止した。みんなの紹介が終わるまで喋る気はないらしい。


「右隣にいるのがアリア。三番目に使役した水属性の精霊で、支援魔法に長けていて、彼女が私の生命線を握ってるんだ」


「水属性精霊のアリアと申します。主様と伴にこの世界へ召喚いただいたこと有り難く思います。よろしくお願いしますね」


にこりと微笑むアリアが流麗にお辞儀する姿には私も見惚れる。


「最後に、この子が風属性精霊のウラハ。小さい体でも察知能力を活かして私が動きやすいように援護してくれる、器用で頼りになる子なんだ」


「えへへっ、ウラハだよ! 竜もかっこよかったけど、刀もかっこいいね! ねぇ、今度二人でお話ししよー?」



ん? なんだ、二人で話そうって?

ウラハはヴェフィーに興味津々なのかな?

さっきも触りたがってたしな

子どもの思考は突拍子ないからわからん…



「…うむ。いずれ、な。」


ウラハの言葉にだけ返事を返したヴェルフィアードを不思議に思いながら、今度はヴェルフィアードを紹介する。


「こっちが黒竜ヴェルフィアードの化身『黒竜の神魂』この世界で神様的な存在だね。ヴェフィー、私の精霊たちと仲良くしてね?」


「妾の紹介が軽く扱われておる気もするが…。まぁ、よかろう。妾が漆黒を纏う古の竜(エンシェントドラゴン)ヴェルフィアードである」



えんしぇんとどらごん?

古代竜だったのか…

まぁ、そりゃ世界創成からいるもんな



そんな感想をヴェルフィアードの挨拶に思っていると、場に沈黙が訪れていた。



え、ヴェフィーそれだけ!?

もうちょっと何かないの?



「…終わり?」


「なにがじゃ?」


「自己紹介それだけ?」


「他に何を言うのじゃ?」


「…イヤ、イイデス」


神様的なアレだから色々と高説するものだと、私が勝手に思っていただけのようだ。


「くくくっ! 不満気な声を出すくらいなら、顔にも出せばよかろうに。そのように無表情では相手に伝わらぬぞ?」


「だから、無表情ポーカーフェイスは私の個性なんだよ」


私の言葉にグランが何かに気付いて、はっとした様子をみせ、1人納得顔になった。


「グラン? どうかした?」


「いえ、気になっておりました『ポーカーフェイス』なる言葉の意味が何となくですが解りましたので…。お顔に表情をだされないこと、で合っておりますか?」


それで合っていると肯定する。


「左様でございますか。申し訳ありません、それだけでございます。お気を煩わせました」


喉に刺さっていた小骨が取れたように言って、すっきりした顔のグランに苦笑する。

少しだけ私の眉が下がったのを自分でも感じる。この世界に来てから表情筋が多少なりとも動いてしまい、私からすれば無表情とは言い難いと思う。


「妾はお前の笑った顔が見たいのじゃがなぁ…?」


「ボクもあるじの笑ったとこみたい!」


ヴェルフィアードの呟きにウラハが私を振り仰ぐ。

グランとアリアは同意を示すが、ファングが挙動不審になっているのはどうしたのだろうか。


「そのうちね」



作り笑いならできるけどねぇ。

たぶん、それは違うんだろうな…。



ウラハの頭を撫でて、いつか自然にこの子たちに笑ってあげられればよいな、と思っていた。そんな気持ちになったことに驚くが、悪くないとも思う。






◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇






「さて、他に用がなければ妾は眠りたいのじゃが?」



おいおい、さっきまで寝てたんじゃないの?

怠惰なヤツだなぁ…

だが、そうは問屋が卸さない!



刀の試し斬りもする気でヴェルフィアードを出したのだから、寝てしまわれては困るのだ。寝てても使えるかもしれないが、意識のない者を振り回すのは気が引ける。


「主様、よろしいでしょうか?」


アリアが挙手をして発言の許可を求めてきた。


「はい、アリアくん。質問かな?」


ふと中学時代の担任の真似をしてアリアに目を向ける。アリアの見開かれた目に、誰にも判るわけない物真似をして失敗したと後悔した…。そして何もなかったことにされたようだった。


「ヴェルフィアード様の鍔と柄頭の意匠ですが、そちらは何を象ったものでしょうか?」


「これは妾を象ったものじゃ。水のは細かいところに目がいくのじゃな」


アリアの問いに答えたのはヴェルフィアード自身だった。

ヴェルフィアードを象ったものと言うが、彼女は西洋の竜なのに、刀に施されているのは東洋の龍で姿がまったく異なる。


私がゲームで対峙したヴェルフィアードは西洋の竜だ。鱗に覆われた恐竜を思わせる体、鋭い爪と牙をもち、有翼で空を飛ぶことができる。

一方、東洋の龍は体は巨大な蛇に似て鱗におおわれ、頭には二本の角と耳があり、顔は長く口の上側から一対の長いひげが伸びている。翼はないが、空に昇ることができ風雲雷雨を巻き起こすとされている。


「でもヴェフィー、私が知っている姿と違うよね?」


「まぁの…。妾はどちらの姿もとれるが、神聖視されるのは『三停九似』の龍だと言われたからのぉ。お前が知っている姿はイメージが悪いそうでな。妾の力を示すものには、その姿を刻んでおるのじゃ」


『三停九似』とは、首から腕の付け根と腕の付け根から腰と腰から尾までの長さが等しく、鹿の角・大蛇の体・鯉の鱗・鷹の爪・牛の耳などの特徴を持つことだ。

たしかに、日本でも龍神といわれるものは、こちらの姿を採っていることが多い。

ゲームでのヴェルフィアードは悪竜として位置づけられており、西洋の竜の印象は悪かった。

誰かに言われたと話しているが、きっと前に召喚したプレイヤーだろうと当たりをつける。


「前に召喚したスサって人、ほんとは『スサノオ』って名前じゃない?」


思いついたことを、つい口にしてしまった。あまり詮索してはいけないことなのに…。


「そうじゃが、なぜ知っておる? ……よもや、お前と知己であったのか?」



ぴんぽーん! 当たりでしたーっ!

あの人、日本神話とか好きだったもんなぁ



「いや、知り合いじゃないけど『スサノオ』っていうのは私のいた世界で大昔の神様の名前なんでね。東洋の龍にこだわる人なら自分の名前もそっち系かと思っただけ」


『三停九似』の龍にこだわっていたことでの勘だったと言うと、ヴェルフィアードは何故かほっとしたようだった。私の言葉に知り合いを喰べたと思って焦ったのかもしれない。

知己かと訊かれたら、私が一方的に知っていただけだから嘘は言っていない。

派手な範囲攻撃魔法を好んで使っていた、魔人族のスサノオといえばゲーム内でも有名だった。私も魔法職なら、彼のような戦い方をしただろうな。同じアバターネームの別人の可能性もあるが、突然パーティー仲間にも何も告げずにゲームにログインしなくなった人だから、十中八九間違いないだろう。

私も同じように突然ゲームにログインしなくなったと思われているかもしれない。もしかして、現実の世界では謎の失踪事件になってたりして…。事件になっている嫌だなと想像をしたけど、戻れないことだし関係ないと思い直す。



それにしても、おかしくないか?

スサノオさん以降500年経ってるって言ってたよね?

私とスサノオさんはほぼ同時期にプレイしてたよ?



ヴェルフィアードに、この世界と私のいた世界の時間の流れ方が違うのかと問おうと思ったが、比べたところでどうなることでもない。今いる新しい世界のことだけ考えればよいと思った。


今後の予定を整理しよう。

まずはヴェルフィアードの試し斬りして、魔力コントロールの練習して、この森も探索して、魔法創造もしたいな、それから人が住んでいる場所も調べて、上手く紛れ込めるかも確認して、人の街で生活が無理なら拠点も考えないとだし、あとはー…。




「あの、主様?」


アリアの声にはっとして顔をあげる。

様子を窺う3人の視線が私に集中していることに気付く。ウラハは私が抱き込んで頭に顎をのせているので1人視線が少ない。



あちゃー

またやってしまった…



「ごめんごめん、ちょっと考えごとしてた」


考えだすと思考の渦にのみ込まれて、周りが見えなくなるのが私の悪い癖だ。


「はぁ…。お前、考え事するときは言うてからにしたほうがよいぞ? 無表情で黙り込んでおると怒ってるようにしか見えぬわ」


「う…。すんませんでした」

お読みいただき、ありがとうございます。

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