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THE NEWWORLD  作者: cyan
17/33

17.寝落ちの翌朝はまったりと

いつの間にか寝てしまっていた。見られたくなくて隠した顔があげられず、寝たふりをしてたらそのまま眠ってしまったのだ。

それにしても、妙に身動きが取れないなと思ったら、何とも言えない状態になっていた。

すぴすぴ鼻を鳴らして眠るファングの頭が、私の肩に乗っているのは、彼を枕にしてるのだから良しとしよう。

しかし、なぜか私の体の正面から抱きついているウラハと背中にはアリアが張り付いて寝ている。


「……なんで?」


混乱していたがとりあえず体を起こしたい、が動けない。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


「おはよー…」


グランに挨拶を返しながら目で訴える。



起き上がりたいです!

どーにかしてください!



「主がお目覚めですよ。いつまで寝てるのですか?」


私の訴えを察したグランの声にファングの体がびくりと震えた。ウラハはぐずるように私に擦りついてきたが、アリアは背中に張り付いたまま未だ動かない。

頬に生温い感触を覚え、ファングの紅い瞳と目が合う。

狼の舌で舐められたようだ。


「おはよー、マスター」


「ん、おはよー」


また私の匂いをひと嗅ぎしてから、首を伸ばして牙も喉の奥も見えるほど大きな欠伸した。


「起きる?」


私に訊くファングからは敬語がなくなっていた。

起きたいんだけど無理そうだと視線をウラハとアリアに落とし、肩を竦めてみせる。

すると、ファングはニヤリと笑って前置きもなしに立ち上がって、私たちを振り落としたのだ。


「うあっ!」


声をあげたのは私だけだった。

ファングが立ち上がったと同時に、ウラハは私から離れて起き上がっており、頬をふくらませて不満を訴えていた。

体の支えを失って床に転げるはずだった私は、柔らかいクッションのおかげで頭を打たずにすんだ。


「急に動かないでよ。主様が怪我されるじゃないのっ」


見上げると、ファングに抗議するアリアの顎先が目に入った。クッションの役割を果たしてくれたのは彼女だったようだ。


「寝たふりしてるのが悪いんじゃん」


ファングは悪びれずに言うと、人型へと姿を変化させた。



寝たふりだったのか!

すんません…、昨日の私ですね



少々ばつの悪い思いをしながら、差し出されたファングの手を借りて起き上がった。


「おはよう。私、昨日あのまま寝ちゃったんだね。話しの途中だったのに、ごめん」


4人が口々に「おはよう」を返してくれる。


「そのようなことはお気になさらずに。主はお疲れでいらしたのでしょう」


気遣われるのがくすぐったくて、「ん」と短く返事するのが精一杯だった。





◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇





朝の挨拶を交わしあったのだが、今は何時なんだろうか。陽の光が入ってこない神殿の中では太陽が昇ってるのかさえ判らない。


「グラン、いま何時?」


「申し訳ありません、時刻までは不明でございます」


私の問いにグランが答える。

時刻が判らないということは、日付デートシステムが機能していないのだろうか。


「時間帯は、朝?」


「はい。時間帯には朝とでております。ご覧下さい」


そう言うと、グランは【時間管理タイムマネジメント】スキルを表示した。

グランの表示したスキル画面は私にも見ることができた。



あ、最初っから表示してもらえばよかったんだ

私ってばおまぬけー…



========================


日 付 ーー年ーー月ーー日 (未設定)

時 刻 ーー時ーー分ーー秒 (未設定)

時間帯 朝


カウント 01年00ヶ月09日 16時間24分08秒

アラーム ーー年ーー月ーー日ーー時ーー分 (未設定)


========================



今日も大広間で石床に直座りして、【時間管理タイムマネジメント】スキルの画面を確認する。

やはり日付システムは日時は数字が表示されておらず、時間帯だけが『朝』となっていた。



グランたちがこの神殿で気がついた時、私は神殿奥の部屋で眠っている状態だったそうで、3人とも待機していたらしい。

ウラハがいないことが気掛かりだったが、私が起きれば対応できると思って、特に問題視しなかったと言う。

いつもなら、長くても数時間で目覚める私が眠ったままだったので、【時間管理タイムマネジメント】スキルで前回、この場合は黒竜討伐時からの経過時刻を確認しようとしたら、すべての表示が消えていたそうだ。

異常事態だったが対処のしようがなく、しばらくしてからカウント機能を使用したほうが良いと判断したと話してくれた。


私は、たまにログインしたままパソコンから離席することはあったが、基本的にはログイン後に精霊を召喚し、ログアウト時には送還するようにしていた。

離席する時は宿屋に入り、「睡眠」コマンドを選択していたから、初めはその状態と同じだと思ったのだろう。


あとで、送還された時はどうなっているのかと訊いたら、プレイヤーと契約している精霊は送還されると「精霊の森」に居るらしい。そこで召喚されるのを待つそうで、まるで精霊の控室みたいだと言ったら、変な顔をされてしまった。




「日時が未設定なのに、時間帯だけ変化してるの?」


「当初は困惑しておりまして、すぐには判りませんでしたが、何度かカウントを確認した折に、変化していることに気付きました」


「そっか、カウント機能使ってくれたのは助かったよ。おかげでこの世界の時間間隔が判りそう、ありがとう」


私が眠っていた正確な時間数ではないと謝っていたが、この際そこは問題ではないだろう。気にしないように言ったら、素直に受け入れてくれた。


時間管理タイムマネジメント】スキルのカウント時間が、この世界の時間と本当に連動しているかは疑問だが、参考にはなるだろう。とりあえず、どのタイミングでカウントが繰り上がるかが知りたい。

そう言ったら、期待を裏切らないグランが、カウントの繰り上がりについて説明してくれた。


時間は、60秒が1分、60分が1時間、24時間が1日とここまでは地球と同じだった。そして、28日で1ヶ月になり、13ヶ月で1年となるそうだ。1年は364日となるから、日数的には地球と1日しか変わらない。

週については不明だが、注目すべきは1ヶ月の日数が異なっていることだ。グランには、以前との違いが認識できないようで、彼には「そう表示されるから、そうなのだ」という感覚らしい。

この差が、【時間管理タイムマネジメント】スキルがこの世界の現実時間リアルタイムと連動していることを示しているのであればよいのだが。


時間帯システムはのそれぞれの経過時間は、朝が6時間、昼が8時間、夜も朝と同じ6時間、深夜が4時間となっているそうだ。この経過時間の幅にも前の世界と変わりがないようだ。ということは、昼に変わる時が10時とみても良いだろうと考え、グランに指示を出す。


「時間帯が昼になった時に、時刻を10時00分00秒に設定できるか試してみて」


「かしこまりました」


カウントを続けるかとグランが訊いてきたので、それは続けてもらうことにした。特に意味があった訳ではないが、時刻設定ができなかった場合に役立つかもしれない。これで時刻設定できれば儲けもの、というぐらいの軽い気持ちでいることにした。



別に時間に追われてないしー

というか、時間ありすぎでしょ私

むしろ暇になるかもしれない…



今から何をしようかと考えを巡らせる。

しばらくはこの神殿で過ごすとしても、ここを拠点にするつもりはない。ヴェルフィアードの森を出ていくにあたって、まず魔力コントロールは練習したほうがよいだろう。グランたちが少ししか探索できなかったと言うヴェルフィアードの森も自分の目で見ておきたい。

そういえば、ヴェルフィアードを紹介していなかったと気がついた。


私とグランが話している間、他の3人は会話に入ることもなく自由に過ごしていた。

ファングはウラハにせがまれて、獣化した大狼になっていた。ウラハの身長が私の胸ぐらいの高さなので、ファングが子供と遊んであげている「いいお兄ちゃん」に思える。しかし、ウラハに馬乗りにされたり、毛皮を鷲掴みにされてる様子は玩具にされているようにしか見えない。昨日に引き続き、ぐしゃぐしゃにされた紅い毛並みにブラッシングはやっぱり必要だと、改めて思った。


一方、アリアはどうしているかというと、私の背後で熱心に髪を結っている。最初に櫛を持っているかと訊かれ、アイテムボックスから取り出して渡した。次に、グランと話している途中で髪を結う紐を持っているかと訊かれ、またアイテムボックスから取り出してあげた。ゆっくりと時間をかけて髪を櫛梳るところから始まり、結ってはほどき、梳いて、結って、ほどくを繰り返していた。そろそろ結い終わってほしい頃なのだが、楽しそうにしているのを邪魔したくない。というか邪魔できる空気じゃないので、大人しく待っている状態だ。



いやー、まったりだなー…

まぁ、こんな朝もいいよね



アリアに乞われた櫛を探す時に気が付いたのだが、懸念していたゲーム内で倉庫に預けていたアイテムが、アイテムボックスに全部移ってるようだった。

アイテムボックスにある300種近いアイテム全てを覚えていなかったが、櫛は望み薄だろうなと思いながら、空間に現れた取り出し口に手を入れたら「解呪された櫛」がでてきたのだ。これは日本人形の呪いを解いたら経験値が貰えるという、ゲーム序盤のチュートリアルクエストで得たアイテムで、倉庫に入れていた物だ。

正確な名称でなくとも「櫛」というキーワード検索のように取り出せるのは発見だった。ついでに、リスト表示にならないかと思ったら、一覧になってアイテムを確認することができた。普段は使わなかった武具や補助魔法具アクセサリーをコレクションしたものが手元に残っているのは嬉しい。

ただ、無駄にコレクションしていた物だらけで、取り出したい物を念じたほうが楽だと思った。



「主様、できました!」


「あ、終わったの?」


「はい! ご覧ください」


例のごとく、大きな水晶を魔法で造ってくれた。

右サイドの髪をひと束残して、両サイドをゆるく、しかし複雑に編み込まれており、後頭部でまとめられたハーフアップスタイルだ。

結い紐はゲームのドロップアイテム「銀糸の組紐」だったので、櫛梳られて艶を増した黒髪によく映えている。



アリア器用だねぇ

私じゃコレは無理だな!



「ありがとう」


お礼を言いながら、艶々さらさらの髪を触る。横を向いてたりして水晶に写る結われた髪を見ていると、胸元で櫛を握りしめて私の感想を待っているアリアがいた。


「お気に召していただけましたか?」


「うん、とても綺麗だ」


そう言うと、輝くような笑顔を見せてくれた。

眩しい笑顔で「明日は違う結い形にしますね!」と言われて、「もうちょっと時間短縮でお願いします」と言えない私はヘタレだった…。

お読みいただき、ありがとうございます。

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