13.捧げられたもの
精霊が4人そろって、やっとひと息つける気がした。
ヴェルフィアードの説明で、この世界に召喚された理由も少しは解ったが、この世界の情報がまったくない。
地理地形や国や都市、どんな種族がいるのか、人間はどのように生活しているのか。ヴェルフィアードに訊けばある程度は判るかと思っていたら、自分の目で見て、肌で感じたほうが良いとつれなくかわされてしまったのだ。
私たちは上手く生きていけるのだろうか。
グランたちは今の状況をどう思っているのだろう。
彼らが『異世界召喚』というものを理解できるか心配で、私はどこまでグランたちに話すか悩んでいた。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
ウラハ再召喚のあと、私は『神格』へと変化を戻した。
さっきはアリアが拗ねたり、グランに注意を受けたりしたけど、4人とも実体化したら概ね和やかな空気になった。
実体化した時には、アリアの頭をちゃんと撫でて、さらふわの髪と彼女が照れて俯く様子をしっかり堪能した。
服まですっかり戻った私は、ここで初めて自分の『神格』姿を見て外見を確認した。グランが「美麗なお姿」と言っていたのが気になっていたのだ。
アイテムボックスで鏡を探そうとしたら、アリアが魔法で鏡を造ってくれた。鏡といっても《クリスタルクリエイト》で造った水晶なのだが、全身が映る縦型の姿見サイズだったのは、やっぱりな、という安定の納得感だった。アリアさん張り切りすぎである。
『神格』は自分の姿ながら、畏怖を抱かせるほどの美貌を持っていた。
肘の辺りまで伸びた真っ直ぐな黒髪と、時折り黄金色に瞬く黒い瞳、白磁色の肌をしている。細身で全体的にすらりとしているが、適度に筋肉がついており、均整のとれた身体だ。
ただ、まるで生きてる人間とは思えず、どこか恐ろしく、近寄りがたさがあった。
これぞ「神」って感じっ!?
違和感しかないよ…
なんか自分でも怖いし!
私は見馴れない自分の『神格』姿で、普通に生活していることが想像できずにいた。綺麗すぎて怖い、それが率直な感想だ。
「この姿って怖すぎない…?」
誰に問うつもりもなく、思わずもれた私の呟きに、グランたち精霊がそれぞれ応える。
「神で在らせられる気高き主に誠に相応しきお姿でございます」
「全然怖くなんてないですっ!キラキラで眩しくて強いですっ!」
「美麗にして崇高な主様、どんな宝石にも優り、誰もが目を奪われます」
「うふふー。あるじは優しくてきれいだよー」
うはぁ…
これが絶讚ってやつ?
すっごい照れるんですけどっ!
「その賢明な判断力と、迷うことなく実行される行動力をお持ちになり、神格を得られてもなお我らを見放さずにいてくださる慈悲深き主。いま一度我らの忠誠を主に捧げます」
「「「捧げます」」」
恭しく、誇らしげに言うグランたちが私の前に膝を折る。
グランたちは心の底から私を慕ってくれている、揺るぐことない忠誠を誓ってくれている。
私は彼らの想いに相応しいだけのものを返せるだろうか。
悩んでもしかたない、私が彼らを手放すことはないのだから。
「……ありがとう」
何て言えばよいのか困って、たった一言しかグランたちに返せなかったけど、彼らが微笑んでくれたから、それでよかったのだろう。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
私は『異世界召喚』と、この世界での私の立場について、すべてグランたちに話すことを決めた。
でも、今日は疲れた…
HPは余ってるよ?
精神的に疲れたんだよねぇ
メンタルは強い方だけど休息もほしい!
やっぱり『鬼人』の姿も鏡で見ておけばよかった、と後悔はしたものの、『鬼人』に変わってみることをしなかったのも同じ理由からだった。いろいろ疲れていたのだ。
それに、グランが「相も変わらず」と言っていたから、おそらく自分でメイキングした『鬼人』と同じだろうと思った。
さらに今からヴェルフィアードに聞いた話しをして、今後どうするか相談して、というのは休憩してからにしたかった。
しかし、彼らは1年も私を待っていて、今も私が話すのを待っているように思う。これは全部終わらせてから休むしかないと、腹をくくって口を開こうとした。
「主、夜の時間帯に入っておりますゆえ、少しお休みになられてはいかがですか?」
絶妙なタイミングでグランから休憩を促され、開きかけた口を閉じた。本当に気が利く精霊である。
だが、聞き流せない言葉がそこにはあった。
「夜って、グランには時間がわかるの?」
そう、時間の概念!
そういや1年とか日にち数えてた?
なんでわかるの!?
「はい。時間帯は、【時間管理】スキルがありますゆえ判ります。主は深夜時間帯に目覚められてより、お休みになられておりませんので、どうか休息をお取りください」
グランのスキル【時間管理】の存在をすっかり忘れていた。
このスキルは精霊に取得させることができるものの内の1つだ。その名の通り、時間に関するを管理する。現実の日時と連動しており、時間制限のあるクエストのアラーム機能や、戦闘時のカウント機能に使用する。ゲームではネタスキルと言われていた。
もっとも、精霊にスキルを取得させるには親密度が3以上必要だったが…。
なぜ私は取得させていたかというと、専ら戦闘時のカウントに使用していたのだ。ソロ戦闘の際には、パーティーでは分担するタイミング把握を自分で行わなければならない。
特にボス狩りなど、攻略サイトにはパーティーでの攻略方法で、しかも相手に反撃を与えない波状攻撃等しか載っていなかった。
ソロの場合、いくら戦闘精霊を投入しても、こちらの攻撃に隙はできるし、反撃も受けてしまう。魔法攻撃やスキルを使った大技を受けてしまうと、私の場合それを回避できないことは致命的であった。
魔法や大技スキルを使うには、詠唱時間がかかり、使った後は待機時間が経過しないと再使用できない。
例えば、詠唱時間3秒、待機時間7秒って呪文だと、使ってから3秒後に発動して発動が終わってから7秒間待たないと新しくまた使えないという感じだ。
そのタイミングを掴んで、回避から攻撃に転じるのだ。
戦闘時にしか使用していなかったスキルのため、グランに言われて日時を見れることも思い出した。
この【時間管理】スキルを持つ精霊は、プレイヤーが長時間ログインしたままだと休憩を奨めてくる。今の私は不眠不休でも死ぬことはないのだが、それを知らないグランはゲームと同じように促してきているのだろうか。
「うーん…。時間の概念については話が聞きたいから、それ聞いたら少し寝ようかな」
そう言うと、グランは眉間に皺をよせていた。ほかの3人も、どこか不安そうな表情をしている。
おや?
お気に召さない様子っぽい
でも拒否っていう感じでもないかな?
「お休みになられた後でもよろしいかと思いますが…」
あー、これは心配、かな?
でも気になるし…
グランたちが気遣ってくれているのは解ったが、私は気になったら眠れない質である。
どうしようかと考えていると、ファングが名案を思い付いたとばかりに口を開いた。
「じゃあ、俺に凭れて体休めながらお聞きになったらいいですよ!」
「…?どういうこと?」
意味が解らないファングの発言に問い返す。私の問いの先には「俺、賢い!」という顔をしたファングがいる。
まさか人間座椅子ならぬ、精霊座椅子にでもなろうというのだろうか。
予想は半分当たっていた。違ったのは、人型ではないというところだった。
次の瞬間、ファングは体長2.5メートルほどの狼に変わっていた。紅い体毛に被われた大きな狼、ファングの獣化した姿だった。
確かに精霊たちには【獣化】スキルを取得させていた。
グランは堅固な甲羅をもち、動きは遅いが並大抵の攻撃にはびくともしない大亀だ。博識も相まって長老を思わす雰囲気がある。
アリアは真珠色の輝きを放つ体表が滑らかで美しい大蛇。とぐろを巻き、上から見下ろす様は女帝を感じさせる。
ウラハも可愛い人形のような人型とは違って、猛禽類の鋭い嘴と鉤爪をもつ鷹であり、大空を羽ばたく姿は勇壮である。
獣化したウラハに、この森を上空から見てもらうつもりだったが、それは夜が明けてからにしよう。鳥目で見えないかもしれないし。
しかし、まさかここでその【獣化】スキルを使ってくるとは思いもしなかった。
ファングの獣化した紅狼は走るスピードが随一なのだ。私は戦闘時の撹乱、孤立した際の離脱に使用していた。
縦横無尽に戦場を駆け抜ける、疾風のような紅狼。
けっしてソファの代わりにするためではない。
「マスターどうぞっ!」
きっと笑っているのだろうが、牙を剥き出しにした狼の顔は凶悪である。もの悲しい気持ちになりながら、私にすり寄るファングの毛並みを撫でる。
おおっ!やわらかいっ!
暖かくて気持ちいいなぁ…
もうソファでもいっかぁ?
少々遠い目をしたかもしれないが、ファングの迷案を受け入れることにした。
お読みいただき、ありがとうございます。




