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THE NEWWORLD  作者: cyan
13/33

13.捧げられたもの

精霊が4人そろって、やっとひと息つける気がした。

ヴェルフィアードの説明で、この世界に召喚された理由も少しは解ったが、この世界の情報がまったくない。

地理地形や国や都市、どんな種族がいるのか、人間はどのように生活しているのか。ヴェルフィアードに訊けばある程度は判るかと思っていたら、自分の目で見て、肌で感じたほうが良いとつれなくかわされてしまったのだ。

私たちは上手く生きていけるのだろうか。


グランたちは今の状況をどう思っているのだろう。

彼らが『異世界召喚』というものを理解できるか心配で、私はどこまでグランたちに話すか悩んでいた。





◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇





ウラハ再召喚のあと、私は『神格』へと変化を戻した。

さっきはアリアが拗ねたり、グランに注意を受けたりしたけど、4人とも実体化したら概ね和やかな空気になった。

実体化した時には、アリアの頭をちゃんと撫でて、さらふわの髪と彼女が照れて俯く様子をしっかり堪能した。


服まですっかり戻った私は、ここで初めて自分の『神格』姿を見て外見を確認した。グランが「美麗なお姿」と言っていたのが気になっていたのだ。

アイテムボックスで鏡を探そうとしたら、アリアが魔法で鏡を造ってくれた。鏡といっても《クリスタルクリエイト》で造った水晶なのだが、全身が映る縦型の姿見サイズだったのは、やっぱりな、という安定の納得感だった。アリアさん張り切りすぎである。


『神格』は自分の姿ながら、畏怖を抱かせるほどの美貌を持っていた。

肘の辺りまで伸びた真っ直ぐな黒髪と、時折り黄金色に瞬く黒い瞳、白磁色の肌をしている。細身で全体的にすらりとしているが、適度に筋肉がついており、均整のとれた身体だ。

ただ、まるで生きてる人間とは思えず、どこか恐ろしく、近寄りがたさがあった。



これぞ「神」って感じっ!?

違和感しかないよ…

なんか自分でも怖いし!



私は見馴れない自分の『神格』姿で、普通に生活していることが想像できずにいた。綺麗すぎて怖い、それが率直な感想だ。


「この姿って怖すぎない…?」


誰に問うつもりもなく、思わずもれた私の呟きに、グランたち精霊がそれぞれ応える。


「神で在らせられる気高き主に誠に相応しきお姿でございます」


「全然怖くなんてないですっ!キラキラで眩しくて強いですっ!」


「美麗にして崇高な主様、どんな宝石にも優り、誰もが目を奪われます」


「うふふー。あるじは優しくてきれいだよー」



うはぁ…

これが絶讚ってやつ?

すっごい照れるんですけどっ!



「その賢明な判断力と、迷うことなく実行される行動力をお持ちになり、神格を得られてもなお我らを見放さずにいてくださる慈悲深き主。いま一度我らの忠誠を主に捧げます」


「「「捧げます」」」


恭しく、誇らしげに言うグランたちが私の前に膝を折る。

グランたちは心の底から私を慕ってくれている、揺るぐことない忠誠を誓ってくれている。

私は彼らの想いに相応しいだけのものを返せるだろうか。

悩んでもしかたない、私が彼らを手放すことはないのだから。



「……ありがとう」


何て言えばよいのか困って、たった一言しかグランたちに返せなかったけど、彼らが微笑んでくれたから、それでよかったのだろう。





◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇





私は『異世界召喚』と、この世界での私の立場について、すべてグランたちに話すことを決めた。



でも、今日は疲れた…

HPは余ってるよ?

精神的に疲れたんだよねぇ

メンタルは強い方だけど休息もほしい!



やっぱり『鬼人』の姿も鏡で見ておけばよかった、と後悔はしたものの、『鬼人』に変わってみることをしなかったのも同じ理由からだった。いろいろ疲れていたのだ。

それに、グランが「相も変わらず」と言っていたから、おそらく自分でメイキングした『鬼人』と同じだろうと思った。


さらに今からヴェルフィアードに聞いた話しをして、今後どうするか相談して、というのは休憩してからにしたかった。

しかし、彼らは1年も私を待っていて、今も私が話すのを待っているように思う。これは全部終わらせてから休むしかないと、腹をくくって口を開こうとした。


「主、夜の時間帯に入っておりますゆえ、少しお休みになられてはいかがですか?」


絶妙なタイミングでグランから休憩を促され、開きかけた口を閉じた。本当に気が利く精霊である。

だが、聞き流せない言葉がそこにはあった。


「夜って、グランには時間がわかるの?」



そう、時間の概念!

そういや1年とか日にち数えてた?

なんでわかるの!?



「はい。時間帯は、【時間管理タイムマネジメント】スキルがありますゆえ判ります。主は深夜時間帯に目覚められてより、お休みになられておりませんので、どうか休息をお取りください」


グランのスキル【時間管理タイムマネジメント】の存在をすっかり忘れていた。

このスキルは精霊に取得させることができるものの内の1つだ。その名の通り、時間に関するを管理する。現実の日時と連動しており、時間制限のあるクエストのアラーム機能や、戦闘時のカウント機能に使用する。ゲームではネタスキルと言われていた。

もっとも、精霊にスキルを取得させるには親密度が3以上必要だったが…。


なぜ私は取得させていたかというと、専ら戦闘時のカウントに使用していたのだ。ソロ戦闘の際には、パーティーでは分担するタイミング把握を自分で行わなければならない。

特にボス狩りなど、攻略サイトにはパーティーでの攻略方法で、しかも相手に反撃を与えない波状攻撃等しか載っていなかった。

ソロの場合、いくら戦闘精霊を投入しても、こちらの攻撃に隙はできるし、反撃も受けてしまう。魔法攻撃やスキルを使った大技を受けてしまうと、私の場合それを回避できないことは致命的であった。


魔法や大技スキルを使うには、詠唱時間キャストタイムがかかり、使った後は待機時間リキャストタイムが経過しないと再使用できない。

例えば、詠唱時間キャストタイム3秒、待機時間リキャストタイム7秒って呪文だと、使ってから3秒後に発動して発動が終わってから7秒間待たないと新しくまた使えないという感じだ。

そのタイミングを掴んで、回避から攻撃に転じるのだ。


戦闘時にしか使用していなかったスキルのため、グランに言われて日時を見れることも思い出した。

この【時間管理タイムマネジメント】スキルを持つ精霊は、プレイヤーが長時間ログインしたままだと休憩を奨めてくる。今の私は不眠不休でも死ぬことはないのだが、それを知らないグランはゲームと同じように促してきているのだろうか。


「うーん…。時間の概念については話が聞きたいから、それ聞いたら少し寝ようかな」


そう言うと、グランは眉間に皺をよせていた。ほかの3人も、どこか不安そうな表情をしている。



おや?

お気に召さない様子っぽい

でも拒否っていう感じでもないかな?



「お休みになられた後でもよろしいかと思いますが…」



あー、これは心配、かな?

でも気になるし…



グランたちが気遣ってくれているのは解ったが、私は気になったら眠れない質である。

どうしようかと考えていると、ファングが名案を思い付いたとばかりに口を開いた。


「じゃあ、俺に凭れて体休めながらお聞きになったらいいですよ!」


「…?どういうこと?」


意味が解らないファングの発言に問い返す。私の問いの先には「俺、賢い!」という顔をしたファングがいる。

まさか人間座椅子ならぬ、精霊座椅子にでもなろうというのだろうか。


予想は半分当たっていた。違ったのは、人型ではないというところだった。

次の瞬間、ファングは体長2.5メートルほどの狼に変わっていた。紅い体毛に被われた大きな狼、ファングの獣化した姿だった。


確かに精霊たちには【獣化】スキルを取得させていた。

グランは堅固な甲羅をもち、動きは遅いが並大抵の攻撃にはびくともしない大亀だ。博識も相まって長老を思わす雰囲気がある。

アリアは真珠色の輝きを放つ体表が滑らかで美しい大蛇。とぐろを巻き、上から見下ろす様は女帝を感じさせる。

ウラハも可愛い人形のような人型とは違って、猛禽類の鋭い嘴と鉤爪をもつ鷹であり、大空を羽ばたく姿は勇壮である。


獣化したウラハに、この森を上空から見てもらうつもりだったが、それは夜が明けてからにしよう。鳥目で見えないかもしれないし。


しかし、まさかここでその【獣化】スキルを使ってくるとは思いもしなかった。

ファングの獣化した紅狼は走るスピードが随一なのだ。私は戦闘時の撹乱、孤立した際の離脱に使用していた。

縦横無尽に戦場を駆け抜ける、疾風のような紅狼。

けっしてソファの代わりにするためではない。


「マスターどうぞっ!」


きっと笑っているのだろうが、牙を剥き出しにした狼の顔は凶悪である。もの悲しい気持ちになりながら、私にすり寄るファングの毛並みを撫でる。



おおっ!やわらかいっ!

暖かくて気持ちいいなぁ…

もうソファでもいっかぁ?



少々遠い目をしたかもしれないが、ファングの案を受け入れることにした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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