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私と彼の新しい生活  作者: 竹野きひめ
第十話 私達とバレンタインとチョコレート
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10-13 俺と男と写真

ノックがされてドアが開いた。

祐樹がいつものように入ってきて手に持った白い封筒を俺の前に出す。

彼は何も言わず無表情だった。

受け取り封がされたそれを開けるのに躊躇った。

ただの中傷だ。

ただの脅しだ。

それ以外でもなんでもないんだと開ければ厚手の紙が裏返しに入っている。

その紙質と裏に小さく印字された文字でそれが写真だと分かる。

もうため息も出なかった。

息を止めてそれを出しひっくり返す。


見たくなかった。

写しだされた被写体は首から下の裸。

痣だらけで力なく横たわっている。

震える手で二枚目をめくる。

足首から膝までのそれ。

足首にはよほど強く縛ったのだろう、紐の痕がくっきり残って擦れて血が滲んでいる。

三枚目は太ももから性器だった。

わざわざ開かせて撮ったそこは見るも無残な姿。

腫れてそこから光る液体まできちんと写り込んでいる。

四枚目は腰から胸、首の下まで。

噛みつかれた痕、殴られた痕、乳首からも血が出ている。

五枚目で拳を握りしめた。

いくらか引いたのではあろうがまだ腫れている顔。

いつもより小さくなった瞳。

鼻血が口の端まで垂れて固まっている。

写真の中からこっちを見る顔は生気が無く死んだ魚の目をしていた。

六枚目は誇示するように涼が知らない男と唇を重ねていた。


写真をまとめて置き俯いて息を吐いた。

それから目の前に立つ祐樹にそれを投げつける。

舞う写真がはらはらと俺と彼の間に落ちて何枚かは表のまま見えた。

それを見た彼が目を丸くした。


「連れてこい、ここに。お前が目を離さず連れてこい。エレベーターで鉢合わせしないよう皆に言え」


出た声はひどく低く無機質だった。

彼が写真を拾ってから俺の机の上に裏返して置き去っていく。

その姿無くなったその瞬間机を思いっきり叩いた。


写真に写る男を知らない。

けれど分かる、あいつだ。

涼をずっと苦しめたあいつに違いない。

あいつ以外こんな事出来るはずがない。





礼の部屋を出てから電話を取り出しアタルに掛ける。

移動中のようで静かな向こうがこちらと違っていてうらやましいと思った。

手短に用件だけ伝え下に一度降りて右端にエレベーターを使わないように言いそれから一階に下りた。

すぐに分かるその異質な雰囲気。


「お待たせしました……えっと」

「明です、苗字はちょっと」

「いえ、構いません。佐久間が会うと言っておりますので、一緒に来ていただけますね」


はいはいっと軽いノリで立ちあがり俺の後に続くその男を俺だって殺してやりたいと思った。

写真に写った笹川涼はもう別人だった。

同じ形をした違うもの。

無機質な瞳は誰も見ていない。


エレベーターで一番上まで行きノックをして待った。

礼のどうぞの声でドアを開け彼を先に通すと人払いをして欲しいから外に立っていろと言われ大人しくそれに従う。

いいんだ、それで。

ジョーカーはこっちが持っている。

それに奴はまだ気づいていない。


扉の前に立ち由香里に今すぐ来るようにメールをしてそれをしまってため息をついた。







「はじめまして佐久間です」


応接セットに向かいあって座れば気だるい香水の臭いが鼻につく。

目の前の男を殴り殺したいと思う。

けれどそうしなかったのは俺の部下と俺の背負った名前のせいだ。

笑みを浮かべたのはそうしないと涼との約束が守れないからだ。


「あ、明っす。ども」


その一言一言が神経を逆なでする。

涼がせめて涼が無事でいると分かっていればこんな奴相手になんかしない。

彼はひとつ欠伸をしてからふんぞり返って俺を笑いながら見た。


「早速用件言っていいっすか。自分金がないんですよ。ちょっと色々あって。で、あんたの大事な女の体を買ってもらおうと思ってるんですけど、ね」


そう、きたか。

そうか、と笑いがこみ上げそうになる。

それを抑え少し驚いたような顔をしてみせる。


「まだ生きてますよ、けどね、あんたの返答次第ではちょっと保障出来ないね」


腕組みをしにやにやと笑う彼にそうですかとだけ返す。

その顔が一瞬怯みそれからまた口を開く。

その口から出す空気すら一緒に吸いたくない。


「大事なんでしょ?あいつが。出してくれますよね、佐久間の御曹司ならさ」


調べてはきてるんだなと変に感心し少し悩むようにうーんと唸って見せる。

時間を稼いでどうにかなるわけじゃないが、ただ、素直に支払いたくない。

その様子に苛立ったように彼がテーブルを蹴った。

上に乗っていたお茶が揺れて零れる。


「おら!早く決めろや、どっちにすんだよ、おっさん」


おっさんって年じゃないと苦笑いを浮かべて胸元から小切手を取り出す。

それを見た彼の顔色がすっと変わった。

興奮したように上気し赤くなる。


「いくら欲しいんだ」


笑みを消してペンを取り出しそう聞けばその声音の違いに驚いたのか俺を睨んでくる。

目を細めそれを睨み返しペンを紙に当てたまま口を開く。


「いくらでも払ってやるよ、下衆野郎。その代わりお前が涼に近づいたら俺はお前を殺しにいく。自分で手を下さなくったっていくらだって人間は動くんだよ、これでな」


トントンとペンで紙を突けばごくりとその喉が鳴った。

何も言わずの俺の手元のペン先だけをじっと見つめている。


「ほら、言えよ。早く言わないと適当な額書くぞ。百でいいのか?」


そう言い右端に余裕を持って英数字で百万を書く。

そのまま書き終わった所で止めれば彼は首を振った。


「ほお、そうか。じゃあもう一つ丸を増やそうか。それでいいのか?」


右に一個丸を足せば一千万だ。

彼の手が動き俺からそれを取ろうとする。

その手が触れる瞬間に口を開く。


「これで、良いんだな?」


彼が顔を上げた。

その目が野獣のようにぎらぎらと輝いていた。

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