1章-5
フィンラスたちが到着したその日の夜、エルファーレン王国からの客人をもてなすため、歓迎の宴が開かれた。
宴はカリュオン王宮内の夜会を開催する会場で行われた。ここも鳥籠の形をしている。
珍しいことに円形なので席は好きなところに座っていいようだ。フィンラスとカテリアーナはサファイヤの近くに座り、食事と会話を楽しむ。
「カテリアーナ姫は肉や魚が苦手だと聞いたのでな。果物をたくさん用意させたぞ」
「お気遣いありがとうございます。女王陛下」
「サファイヤでよい」
近くで見ると、姉妹だけあってサファイヤとパールはよく似ているとカテリアーナは思った。妖艶な微笑み方、上品な物腰。
「女王陛下、カルヴァン商会の会頭がいらっしゃいました」
苦労性の侍従が遅れて到着した来客の旨をサファイヤに伝える。
「うむ。ここまで案内せよ」
しばらくすると、穏やかな物腰の青年が会場へ入ってくる。カルヴァン商会の会頭レイナードだ。
カテリアーナはエルファーレン王国で彼に会ったことがある。王宮舞踏会が開かれた日、謁見で初めて顔合わせをしたのだ。
同じ人間族なのでいろいろと話を聞きたかったが、謁見の時間は短く話すことはできなかった。その後、玉座からレイナードの姿を探したが、見つからずブランシュに会ったというわけだ。
レイナードはサファイヤの前に進み出ると跪く。サファイヤがレイナードに手を差し出したので、レイナードはその手を取り口づけを落とす。
「女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。また、ご健勝の様子で何よりでございます」
「堅苦しい挨拶は良い。今回も珍しい品を持ってまいったのか?」
「はい。一週間ほど滞在したく。商いの許可をいただけますか?」
「許す。王宮の者たちも楽しみにしておるゆえ、明日にでも品を見せてやってくれ」
「承知いたしました」
フィンラスとカテリアーナがいることに気づいたレイナードは再び腰を折る。
「これはエルファーレンの国王陛下とカテリアーナ姫!」
「挨拶は不要だ。其方もカリュオン王国に来ておったのか? レイナード」
レイナードが堅苦しい口上を始める前にフィンラスから声をかける。
「はい。エルファーレン王国での商いは終わりましたので」
カテリアーナはレイナードをこっそり観察する。後ろで一つにまとめている茶色の髪は柔らかそうだ。瞳の色は分からない。丸眼鏡の向こうは糸目なのだ。だが、顔立ちは整っている。
「そうか。ちょうどよい。今回は忙しくてカルヴァン商会の品を見損ねたからな。俺たちにも品を見せてほしい」
「それは願ってもないことでございます」
エルファーレンでは話を聞く機会がなかったので、カテリアーナはいい機会だと思いレイナードに声をかける。
「レイナード様はオルヴァーレン帝国で商会を営んでいらっしゃるのですよね? オルヴァーレン帝国はどのようなところですか?」
レイナードは人の良さそうな笑みをカテリアーナに向ける。
「オルヴァーレン帝国は北の国ですので、冬は雪が降ります」
「雪ですか? 見たことがありません」
温暖なラストリア王国には雪が降らない。カテリアーナは生まれてこのかた雪を見たことがないのだ。
「ラストリア王国は雪が降りませんからね。そういえば、オルヴァーレン帝国にはカテリアーナ姫の姉君が嫁がれていましたね?」
「そうですね」
カテリアーナの姉アデライードはオルヴァーレン帝国の第二皇子グリージオに嫁いだのだ。アデライードにはさんざん虐げられたが、それでも姉に違いない。幸せになってくれるといいとカテリアーナは願っている。
「レイナード様は姉の結婚式をご覧になりましたか?」
「婚礼祝いの品は届けさせていただきましたが、私めはその時エルファーレン王国に向かう途中でしたから、見ておりません。残念です」
レイナードの眉尻が残念そうに下がる。
それから、サファイヤとフィンラスとともにレイナードの旅を話を聞いて、夜は更けていった。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)
もう一作品連載を始めました(たぶんすぐ終わります)
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