冒険者は震える。
「ははっ。まさかこんなところで君達に出会うとは、思いもしなかった。」
オルトドールは冒険者の中でも飛び抜けた実力の持ち主であり、多くの人達にとって憧れの存在だ。
そんな彼が私達に不愉快な視線を向けている男達と一緒にいる。
「なぜ君達がこんなところにいるんだい?」
「…あなたを追いかけてきたんですよ。オルトドールさんこそどうしてこんなところに?」
すると先程まで作ったような笑顔を浮かべていたオルトドールの表情が一変する。笑みをやめ、こちらを見下すような冷え切った目で私達を睨む。
「誰が質問していいって言った?」
後ろの男達が動きを見せる。
武器を構え、見ていて不愉快な笑顔を浮かべてこちらをジロジロと見ている。値踏みされているようで居心地が悪い。
するとオルトドールは今にもこちらに襲いかかってきそうな後ろの男達に対して手を挙げ、制止をかける。すると男達はあっさりと武器を下ろした。
「まぁいい。質問に答えてやろう。」
オルトドールはまた笑う。今度はさっきの作り物の笑顔ではない。心の底からこちらを下等だと見下す不愉快な笑みだ。
さっきよりは自然な笑顔だけど、嫌いだ。あの上からの目線は嫌いだ。あの人を思い出す。
「黄銅の爪、という名前に聞き覚えはあるかな?」
その名前を聞いて真っ先に思い浮かんだのがある盗賊団のことだ。
黄銅の爪と名乗る盗賊団は手口が派手にもかかわらず手下が一人も捕まらず、足取りを一向に掴ませない。黄銅の爪による被害は大きく、騎士団やギルドの者達が手を焼いている。
「…有名な盗賊団だと聞いてます。」
「そう、その通りだ。」
私の答えを聞いてますます機嫌をよくするオルトドール。先ほどのやりとりや有名な、のところを聞いてまるで自分の事を褒められて嬉しそうに口角を上げる彼の姿を見ると、黄銅の爪と無関係には見えない。
「この場所は私達のアジトだ。」
私達。
彼ははっきりとそう口にした。
これでオルトドールが黄銅の爪の一員であることが確信した。
まさか金の称号を持つ彼が盗賊団の一人だとは。それに盗賊団のほうでもそれなりの地位を築いているみたいだ。
「良いところを見つけたと思ったが早々に君達に見つかってしまうとなると、さっさと拠点を移したほうがいいな。」
考え込んでいる様子だが、口元の笑みは崩さない。この状況を楽しんでいるようだ。きっと彼は自分の立場が決して揺らぐことがないと確信を持っている。今までも、これからも。
「まぁその前に。掃除をしなければいけないがな。」
やはりそうなるか。
ここまで素直に喋ったということは私たちを生きて返そうとする気は一切無いということだ。
「そうだな。私が駆けつけた時にはすでに黄銅の爪の手によって殺されたと言っておこう。」
オルトドールは手を挙げる。
今度は止めるための合図ではない。私達を殺せと命令するための合図だ。あの手が下されれば後ろの男達が襲いかかってくる。
私達が2人に対し向こうは大勢。正確な人数はわからない。さらに向こうには金の称号を持つオルトドールもいる。私達が圧倒的に不利だ。いくら彼と一緒でも苦戦はきっと免れない。
だけど、ただ黙って殺されるわけにはいかない。
私はまだ、死にたくない。
剣を構え、臨時体制をとる。
空気が張り詰める。
「ねぇ、ちょっといい?」
その空気を破ったのは、アシバだ。
さっきから口をきかなかった彼が手を挙げ、発言をする。
今から殺し合いが始まるというのに彼からは緊張感のカケラも感じない。
「えーと。」
手を挙げたまま、言い淀む。
「ねぇ、あの人の名前って何?」
そしてオルトドールに向かって指を指し、名前を聞かれた。どうやら、名前を思い出せなかったから途中で話を区切ってしまったみたいだ。
「あの人の名前はオルトドールだよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
耳打ちすれば興味なさげに返事を返された。
前に会ったことがあるはずなんだけど、この様子だと全く覚えてなさそうだ。
「オルトドール、だったけ。僕もいくつか質問していい?3つほど。」
「…いいとも。これで最後になるのだからな。」
笑顔を浮かべてはいるが顔が引きつっている。忘れられていたのがよっぽど堪えているようだ。
いや、それよりも彼は一体何を聞くのだろうか。
「1つ目。前に暴牛っていうやつが町を襲ってきたんだけど、どうしてそうなったかあんた達は知っているの?」
「…さぁな。私も討伐に参加したが、なぜあんな事になったのか私も知らない。」
それはこの場で聞く事なのだろうか。
オルトドールもそう思ったのか、怪訝そうな顔だ。それでもきちんと質問に答えるあたり、律儀だと思う。
「2つ目。ここに深そうな穴はある?」
「穴?…確かにかなりでかいのがいくつかあるな。まぁ板で塞いだがな。」
「3つ目。ここで変なものを見たり聞こえたりしなかった?」
「さぁな。部下達は変な物音が聞こえると言ってはいるが私は気のせいだと思ってるよ。…これで3つ、質問に答えたぞ。」
「あっ、ごめん。最後にもう1個。」
「いい加減にしろ!これ以上無駄な時間稼ぎに付き合う気は無い!」
オルトドールから殺気を感じる。これ以上話を聞く気は毛頭無いようだ。いや、むしろここまでよく話を聞いてくれたなと思う。もし後ろの男達なら問答無用で襲いかかってきただろう。
そう、オルトドールの後ろにいる男達、なら。
「後ろにいるそいつはあんたの仲間?」
『ぐちゃり』
嫌な音が辺りに響く。行儀悪く何かを食べる不愉快な音だ。それと同時にオルトドールの顔に何かが付着する。
いや、違う。私はそれが何かわかる。だって今目の前で起きていることなんだ。わからないはずがない。
ただ、この現実を受け入れたくないだけだ。
「うわあああああああああっ!?」
あの音はあいつが後ろに控えていた男の腕の肉を食べている音だ。
オルトドールの顔についたものは男の血だ。
そしてあいつのことは知っている。
あのアリの化け物のことを忘れるほど、私は忘れっぽくない。