表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の神話  作者: 夢育美
光の帝国
15/19

五話 海族襲来

※サブタイトルを修正しました

 大陸の南端部。赤道付近からの暖流と、大陸沿いに流れる北からの寒流がぶつかる辺りは、潮境と呼ばれ良い漁場になる。

 海沿いに広がる土地は、いくつかの村落単位に別れていた。

 彼らの殆どは漁業を主な生活の糧に選んでおり、豊かな漁場から得られる豊富な海産資源を内陸部の小国家と取引していた。

 小単位で纏まっていた為に、宗主となる程発達した村は無く、各が特定の顧客を得ていた為に、村落同士で無用に争う事も無かった。


 しかし彼らが平和的で、争いを好まない部族という訳ではない。風の民エル・オンのような部族は少ないのである。

 彼らの衝突を抑えていたその最大の理由は、『共通の敵』の存在だった。

 赤道を越えて時折訪れる、灰色の肌の集団。細くてしなやかな、リュウのような植物を束ねただけの、小舟に乗って来る者たち。


 一体どこから来るのか、それは全くの謎だった。だが集団が訪れる時は、百や二百ではきかない、かなりの大群でやって来る。

 手に手に細長く固い棒状の武器を持ち、その武器の先にはこの大陸では見かけない、藍灰色の鋭く尖った石槍がついていた。


 彼らは海から訪れる集団の為、『海族(うみぞく)』と呼ばれていた。皆一様に体格が良く、がっしりしていて腕力も脚力も強かった。

 海沿いの村落の戦力だけでは、彼らに抗するには不十分だった。ひと言でいうなら脅威であった。

 その為にバイスから50人規模の部隊が、駐留軍として彼らの護衛の任に就いていた。

 実際に襲撃されればそれで足りる筈も無いが、本体が到着するまでの盾には十分だった。

 海族もただの馬鹿では無い。手強い相手が居るのに無為な突入を行うことはあまり無かった。


 ただ、彼らの武器は単純で粗野な作りであったが、それを補う腕力と体力があった為、十分な武器と防具も無しで相手が出来る程、楽な敵では無かった。

 なぜ海族が大挙して襲撃しに来るかは分からない。その時期も不定期で、海沿いの村落は、常に脅威に曝されていたと言って良かった。

 いつ頃から始まったのか、いつになれば終るのか、誰にも分からなかった。


 海族の容姿は大陸人と異なり、生理的に嫌悪感を抱かせる容姿をしていた。

 一見すると人間に見えるがやや手足が長く、歩くさまが前屈みな事を除けば、大陸人とそう変らないように見える。

 灰色の肌も、大陸人と同様に服を着ていれば、それ程目立たなかっただろう。

 海族の服は、胸から下の部分だけを覆うような作りで、脚と腰をすっぽり覆う巻布を付けていた。

 しかし何より大陸人と異なったのは、その容貌であった。低く潰れたような鼻と、真っ黒でやや突き出した目に、厚く腫れぼったい唇。


 決定的な違いは、彼らには頭髪が無かった。全員が坊主頭なのだ。それに、肌は常に湿り気を帯びていて、ぬめった印象があった。

 もう一つ、奇妙な特徴がある。

 脇腹にあたる部分に、肋骨に沿って二つずつ、鼻の穴のように見える穴が開いている事だ。

 それは昆虫の気門のようでもあり、胸から下に向かって四列の穴があった。


 海族が村落を襲撃する際には奇声を発したが、人の言葉には聞こえなかった。

 しかし統制の取れた行動を行うので、何等かの意思を伝達する手段として用いているのは確かだった。

 なんであれ彼らが、大陸人にとっての敵である事に違いは無かった。


 いつもより海が凪いでいる今日、一人の老漁夫が海を見ながら、のんびりと破れた引き網の繕いをしていた。

 子供の頃から海族と戦い、村を守り、海を守り、ひいては内陸部の国々の生活を守っていた。

 珍しくのんびりした時間の中で、この頃海族の奴等が襲来しないなぁと、ぼんやり考えていた。

 この前襲って来たのはいつの事だったのか。まだ左足が自由に動いていたから、前の冬よりもっと昔の事というのは間違い無い。


 あの時は激しい戦いだった。老漁夫は静かに目を閉じて、その光景を思い出していた。

 あの戦いでは、大事な息子の一人が死んだ。自分に似て、船を操る事が好きで海に出ていた息子だった。

 老漁夫の心の中に、深い悲しみが生まれたが、後悔は無かった。この村では、昔からそういう運命をたどる者が少なくなかったからだ。

 若い男は海から来る敵と戦い、その戦いで死んだ者は海神『ユルング』の元へ旅立つ。

 息子は今頃、ちゃんとユルングさまにお仕え出来ているのだろうか。

 静かに打ち寄せる波の音を聞きながら、こくりとうたた寝をはじめる老漁夫であった。



 光の帝国バイスを中心に擁する大陸の最北の土地は、雪と氷に閉ざされている。

 中央山脈に分断される形で大陸が分かたれており、大陸南部と西部はそれぞれ独立した文化圏が形成されていた。

 南部の中心国家がバイスである事に違い無いが、西部はその殆どを森林地帯で占められている為か、いくつかの国家が台頭していた。

 そのいずれもが好戦的で、主権を競って小競合いが続いている状況であった。


 大陸東部は比較的温暖な気候と平地に恵まれてはいるが、もともと人の住まない土地が多かったのか、未開拓の部分が多い。

 たいていは、南部から移り住んだ草原地域の部族が、小さな村を形成して生活している程度である。

 豊富な雨量と肥沃な土地のお陰か、農産物に恵まれて特産品も多数あるらしい。


 そして大陸北部。他の文化圏とも殆ど交流が無く、わずかに行商人や旅人のもたらす情報から窺い知るのみである。

 年間のほとんどを雪で覆われた土地では、僅かな作物しか実らず、永久凍土となって苔しか生えない土地も少なくはない。

 それでも海岸沿いには、年中雪で覆われる事の無い土地が僅かに広がっていた。

 南からの海流の影響で、内陸部に比べて温暖な気候が保たれている。

 自然に国家と呼べるほどの纏まりは、海岸沿いの土地に集中していき、いくつかの国が形成された。


 その内の一つ、ブラン・ウォルは中心から真北に位置する、深く入り組んだ入江の元に形成された、巨大な国家であった。

 あった、というのはブラン・ウォルは既に衰退の道をたどっており、歴史はあるが活気を欠いてしまった国家だからである。

 北西部にあるシュネという工業国は、西部森林地帯の各国と盛んに貿易を行う事で、小さいながらも豊かで、安定した国力を形成していた。

 それに対して、一時は北部全土を席巻する程の勢いのあったブラン・ウォルは、ある時期を境にして領土を失っていく。


 この大陸、のちの人々にアトランティリアと呼ばれる大陸は、永久凍土となる土地が存在するほどの高緯度には無い。

 せいぜい森林限界と呼ばれる、亜高木以上の樹木が育つ事の出来ない土地が北部の一部に存在する程度の筈だった。

 中央山脈の高山地帯には、雪を冠する土地があって不思議は無いのだが、平地で雪に閉ざされるような土地の存在が、奇妙というよりは不自然であった。

 南部とのあまりにも懸け離れた自然環境は、本当に神の御手に寄るものなのか。


 ブラン・ウォルの街の外れに立ち、南に広がる広大な雪原地帯を眺める二つの姿があった。

 一人は羅紗ラシャと言う名の、ブラン・ウォルを捨てた『氷雪の刃』を性に持つ青年。

 もう一人は朱雀スザクと言う、現ブラン・ウォルの王に担がれている『火焔の剣』を性に持つ青年だ。

 二人は供に、同じ方向を見たまま押し黙っている。流れ去っていく雲の影が、時折二人の上を流れていき、無表情に見える顔の表面に陰影を落とす。


 無表情ではあるが、二人の視線はしっかりと遠くの一点を見詰めており、思索の意思が瞳に表れていた。

「やはり、行くのか」

 朱雀が前を見詰めたまま、静かに語りかけた。

 まだ幼い頃から少年時代をともに過ごし、今や運命の悪戯とでも呼ぶべき時流に翻弄されてしまった、異母兄弟に向かって問いかける。


 その問いかけに答えるように、羅紗が僅かに振り向いてみせる。

 その身に宿した氷雪の性そのままに、たおやかで、華奢な肢体はそれと告げられる事が無ければ、女性と見紛うばかりの美しさだ。

 僅かに空の色を映したような、透明な程に白くて長い髪。薄いグリーンの瞳と、切れ長の睫毛。

 全身に纏うこげ茶に縞柄の毛皮の為に、いっそう肌の白さが際だつ。口元にあてた指先はしなやかに細く、およそ剣を振るう者の手指とは思えない。


 腰には黒水晶で編み上げられた幅広の帯を締めて、そこに反りを持った細身の片刃剣を下げている。

 柄から剣先までを一本の白乳石より削り出したものに、蛍石の刃を融合させた特別製の剣だ。

 羅紗が生を受けると同時に託された剣で、王家に伝わる二振りの覇剣の一方、『氷雪の刃』は彼と供にあった。

 そしてこれからも彼と供に在るだろう。


「私は己の我が侭の為に、お前を犠牲にし続けた。これ以上犠牲を強いる事など、出来る筈も無い」

「……俺は、一度たりとも、犠牲だなどと考えた事は無い」

 朱雀は微動だにせず、前を見続けたままで目を合わせようとはしない。羅紗の目を見てしまえば、己の危うい決意が崩れてしまいそうだからだ。

「多くを望みすぎた結果なのだ。それを修復するには、今のブラン・ウォルの力だけでは余りにも不足している」

「望みすぎた結果、足りなくなるのか。まさに今の国状を象徴する言葉だな」

「王であるお前がそれを、一番感じている筈だ。

 何もしなければいずれは国そのものが雪に還ろう。止める手だては、あそこにしか無い」


 再び羅紗の視線が、雪原を越えた遥か高みの峰へと注がれる。大陸の中央山脈の最高峰、ブランカと呼ばれる霊峰の麓に。

 その遙か南方、山脈を二つ越えた先に竜族の聖地、クェルがあることはもちろん二人は知る由もない。

 ブランカの麓、そこには大いなる秘宝が眠っている。そう言い伝えられている。そこへ到る道も、王家の者のみに伝えられてきた。

 今までも数人の王家に縁のある者たちが出掛けていったが、いずれも帰って来た者は無かった。


 ただの伝説に過ぎないのかもしれない。しかし、羅紗がそこに向かう理由は、もう一つ別にあったのだ。

 かつて、大陸全土を我が物としていた竜族。空と地上を同時に覇する古の存在。

 彼らと接触を図る事こそが、真の目的だった。もちろんそれは朱雀にも分かっている事だ。

 彼とて伝説に成り果てている秘宝の存在を信じている訳では無い。


「待っているしか無いのだな」

「待つ事も王の務めだ。私にそれを言う権利は無いがな……」

 ふっと羅紗の口元が緩む。自嘲気味に微笑む彼の横顔を、その時初めて振り向いた朱雀の視線が捉えていた。

「分かった。お前が帰るまで、国の事は何とかしよう」

「済まない。一番居てやらなければいけない時期だというのに。だが、今動かなければ、このまま終る。

 ……それから、シュネには気を許すな」


「分かっているさ。輿入れに乗じて、我が国の中央を牛耳るつもりなのだろう。

 だが、あの程度の国でも、今のブラン・ウォルには有り難い」

 暫く二人は互いを見詰めたまま、無言で語り合った。視線を合わせてしまった事で、幼少時の思い出が鮮やかに蘇る。

 この男には居て欲しい、朱雀は真剣にそう思っていた。正式に后を迎えるにあたり、自分を支えてくれる相談相手が欲しかった。

 だが、羅紗には昔から不思議な力がある。彼が何かを感じているなら、それは正しい事なのだろう。甘えの心から彼を止めることは出来なかった。


 朱雀が先に、腰に提げていた『火焔の剣』を天に高く掲げた。それを見て羅紗も『氷雪の刃』を切っ先を合わせるように掲げ持つ。

 それから素早く二度打ち合わせ、円を描くように振り下ろして真下の位置で再び二度打ち合わせる。

 次に胸の前に水平に構えて、振り向きざま二刀を打ち合わせた。

 カキィーンという鋭く、澄んだ音が響いて、こだまが静かに消えて行った。

 この剣舞は、高貴な血族同士が、戦士を送り出す際に舞う儀式剣舞だ。武運と安全を霊峰ブランカに祈る舞でもある。

「明朝、一番で発とうと思う」


 静かに、相手の目を見つめたままで羅紗が告げる。

「できるだけの準備はさせよう」

「いや、二、三人のほうがいい。人選も済ませてあるのだ」

「そうか。ではせめて、今夜だけは宴を受けてくれないか」

「喜んで受けさせて貰うよ」

 それから二人は連れ立って、街中に戻っていった。崩れかけた建物と、干乾びた地面と、無気力な人々の住む街へ。



「分かった。予想された事とはいえ、足取りを追い損ねたというのは失態だな。

 何としても、探し出すように」

 いつもと変わらない落ち着いた口調……の筈なのだが、何故か光帝の口調は普段より軽やかで、楽しんですらいるように聞こえた。

 部下から失態の報告を受けているというのに。

 恭しく一礼した親衛隊員が部屋を出た後、誰も居なくなった蔵書だらけの一室で、光帝は相貌を崩して独り言のように呟いた。


「IDに対する操作は予想していたが、顔を変えているとは。

 ドラゴンと接触していた点を考慮しなかったのが、落ち度と言えなくもないか。

 やはり古の種族、侮り難い存在だな」

 光帝は見事にバイスへの侵入を果たした、征東聖章駆哨兵団・第二兵団少佐の機転に賞賛を感じていた。

 元より、バイスに戻ってきた少佐を、強く糾弾するつもりは無かった。ただ、エル・オンの町を出た後、少佐がどう行動するか見てみたかったのだ。


 彼の予想した通り、少佐は命令を遺棄して離叛した。

 その行動は光帝の予想内であり、その後バイスに戻ろうとするか、離脱兵として逃亡するのか、その結果を知りたかった。

 そして彼の望みどおりに、少佐はバイスに侵入する道を選択した。

 そのまま放置していては危険かもしれないが、命令違反で身柄を拘束する気は無かった。

 親衛隊長を通じて捕獲を命じてはいるが、それは光帝の真意では無い。あくまで部下に対する“ふり”だった。


 少佐の隠密行動を監視していさえすれば、光帝の目的は達せられるのだ。だから、最初から手配書に添付されていた顔写真は、別人のものだった。

 光帝はID不明者や、未登録者の状況を報告させて、監視を付けさせるつもりだった。不明者であれば、ゲートに設置されている投像機で本人の姿が送られてくる。

 光帝には忘れられる筈も無い少佐の顔である。一目見れば本人と分かる。

 だから敢えて偽の顔写真を付ける事で、警備担当の兵士たちに余計な詮索をさせまいと考えての事だった。

 それを見事に、予想以上の方法で切り抜けられてしまった。


 方法は分からないが何らかの手段で顔を変えて、自分の目すらも欺いてしまった。よもや最後に通過していったあの牛車の行商人だったとは。

 妙に明るくて間抜け面の、皇帝の知る少佐とはまるで違った雰囲気の男。背格好は人並みの為、つい見過ごしてしまっていた。

「くくっ……」

 忍び笑いに近い、含み笑いが漏れ響いた。

 光帝本人も意識していなかったが、彼の予定調和をはみ出して行動する少佐に、思っていた以上の高揚を感じていた。


 一頻りの忍び笑いが過ぎた後、光帝の脳裏では少佐の行動予測が、何度も真剣に討議されていた。

 予想の範疇を更に広げて、最大限安全な方法で臨むべきだ。少なくとも自分の計画を気取られてはならない。

 彼の思索はあくまでも深く、慎重に繰り返された。


 しかしそんな光帝の思索は、突然鳴った投像機の着信を示す音声に中断された。

「なんだ?」

『お、お休みの所、申し訳ありません。至急お耳に入れたい事が……』

 声の主は親衛隊長だった。

「手短にな」

『恐れ入ります。実は……アイン・アルブの駐留部隊より、報告がありまして』

 アイン・アルブとは、大陸南南西にある小さな集落だ。漁業を中心として、毛織物も特産があったなと、光帝は思い出していた。

「海族の襲来か? ならばいつも通りに南章駆団を派遣せよ」

『そ、それが……』


 どうした事か、親衛隊長の言葉には戸惑いが混じっていた。いつにも増して歯切れが悪い。

「はっきりと申してみよ。何があった?」

『海族の襲来には違い有りませんが、その数5千あまりと……』

「……5千だと?」

 聞いた事の無い、今まで記録に無かった程の数だった。知らずと息をのむ自分に気付いて、気持ちを落ち着かせようと投像機のスクリーンを点した。

 幾つかの画面を切り替えて、慌ただしく走り回る兵士の姿を確認する。どうやら浮き足立っているようだ。


「直ちにマイアのレラト女王陛下に親書を送れ。海軍の派遣を要請せよ」

 5千もの海族が大陸南部に上陸してくる。水際で食い止める事は不可能であろうが、一斉に上がってくる訳では無い。時間が必要だ。

 何故か海族は、一度に一ヶ所からしか上陸を試みない。同時に数カ所の村が襲撃を受けた記録もあるが、その場合一ヶ所の数は少ない。

 今回のような大規模な襲来は初めての事だが、アイン・アルブ以外からの報告はまだ上がっていなかった。


「アイン・フルメアからは何隻動員できる?」

 フルメア川の河口付近には、バイスの軍港が作られていた。光帝はそこから海族迎撃の為に軍船を送る指示を出した。

『大型船が二隻に、小型船が十二隻出撃準備が完了しております』

「速度を重視せよ。兵糧は最低限で、現地調達を打診せよ。防具は軽装で、攻撃力に重点を置け」

 光帝は素早く通常兵装との変更を指示して、スクリーンに南部の地図を写して位置を確認した。

 マイアからと、アイン・フルメアから、どちらも距離がある。マイアの海軍は優秀で船速もあるが、攻撃力ならバイスの方が数段上であった。

 海上で海族を挟撃する為に、南部の他国にも協力を仰ぐ方が良い。


 続けて光帝は草の民の首都、クローラにも海族迎撃を要請する事にした。元より彼らは海族と戦う機会が多い。

 それに彼らの騎乗する草蛇くさへびは、単体でも高い攻撃力を誇る。草蛇の移動速度と攻撃力を当てにする事にした。

「草の民の族長には、連絡が取れるか?」

『……それが、狩りの季節中は、一所に定まらず……』

 狩猟を生業とする草の民は、季節によって翠の海を移動しながら暮らす。南部の殆どを覆う程に広がる大草原の、どこに居るのか分からないのだ。


「親衛隊長、例の復体装置は何台使い物になる?」

『親書を持たせ、マイアに派遣した兵が一名。アイン・アルブへ調査に向かった兵が一名なので、まだ三台空いております』

「そうか。ならば我が直接出向くとしよう」

『こ、光帝陛下が直接など! わたくしが代わりに……』

「よい、お前は兵站の手配を指示しろ。

 これ程の規模の戦闘経験が有るのは、前光帝の代ではお前くらいしかおらぬ」


 現光帝が前線に出る事は、今まで数度しか無かった。それもバイス周辺の小競り合い程度の戦闘で、陣内で報告を受けるのみだった。

 今まで感じた事の無い高揚感に、古代書物を解読する以外にも楽しい事が有るのだと、不思議な気持ちを感じていた。

 急ぎ装置がある地下の研究施設に向かう。光帝の居城の地下にある研究施設だが、エルダ・スティルのある場所とは違って、公的な研究施設だ。

 昇降機の扉が閉まるまでの間、翠の海とはどんな所だろうと期待に胸が高鳴っていた。光帝にとってそれは、初めて訪れる土地だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ