序
※サブタイトルを修正しました
暖かな暖炉の前に、今夜も昔語りをせがむ6つの瞳がある。期待と興奮に輝くそれは、じっと黙って話を待つ。うるさくせがむと話してもらえないからだ。
他に人気も疎らな屋敷の中で、そこだけは人の息づかいと温もりが感じられる。
どの顔も薪の明かりで朱に照らされて、桜色の頬がよりいっそう濃く見える。ときおり爆ぜる紅い火花が、一瞬宙に舞いあがった後、部屋の暗さに溶け込んで消える。
外を吹き荒れる風が、ひときわ強くびゅうと鳴いた。
強い風に窓が揺れて、小さな目が大きく見開かれる。毛布を頭から被り直して、すきま風に身が竦むことの無いように身を小さくした。
暖炉の前で静かに揺れる揺り椅子は、所々虫に喰われた後がある。それでもまだ、己に腰掛ける老婦人の身体を支えるくらいには、十分な丈夫さを保っていた。
きっと、作り手の愛情が惜しみなく注がれた為だろう。それが揺り椅子自身に対してなのか、或いはそれに座る人の為なのか……
老婦人は、しばらく風の音を懐かしむように聞いていたが、静かに口を開いて語りはじめた。
「さて、今夜は何を話そうかねぇ。わたしも風の鳴る日には、お婆様に寝物語をせがんだものだよ……あの頃はまだ、様々な風が吹いていたんだよ」
薄く開いた目をしばし細めて、昔を懐かしんでいるようだった。
子供達はそんな僅かな時間にも退屈してしまったようで、少し眠そうな目で生欠伸を噛み殺している。それでも静かに祖母の様子を見つめるだけで、決して急かしたり文句を言ったりはしなかった。
「おやおや、悪かったねぇ。おばあちゃんの思いでに付き合わせてしまったようだね。それじゃぁ、今夜はご先祖さまが神さまに出会った時の話しをしようかねぇ……」