第5話 村じゃなくて巨大な街でした。宿代を稼ぐため、最強の相方(幼女)がチンピラ相手に大暴れ!
街に到着したハルとケイ。
まずは拠点となる宿探しですが、そこでハルから大胆な提案が……?
そして、いよいよ冒険者の登竜門、ギルドへと足を踏み入れます!
城壁を越えて内部に足を踏み入れたケイとハルは、目の前に広がる光景に目を見張った。
「す、すごい……予想の10倍は広いよ」
「うん。それに、地面もちゃんと石畳で舗装されてるね」
そこは、のどかな「村」というゲーム時代のイメージとはかけ離れていた。多くの人々が活発に行き交い、馬車の車輪の音が響き渡っている。村というよりは、立派な商業都市と言っても過言ではない規模だった。
広場の中央に大きな案内地図が立てられていたので、二人は背伸びをして覗き込む。
「あっ、『レーンの街』って書いてある。村じゃないんだね」
ハルが地図の一文を指差した。
どうやら現実となったこの世界では、「レーンの村」は発展して「レーンの街」へと規模を拡大しているようだ。ゲームの世界と現実の世界とでは、設定や時間の進み方に少々異なる部分があるらしい。
とはいえ、二人にとって街が発展していることは好都合だった。設備が整っている方が、これからのサバイバル生活においては圧倒的に助かるからだ。
二人は地図であらかたの主要施設の場所を頭に叩き込み、広場を後にした。
二人が最初に向かったのは宿屋だ。
突如としてこの世界に放り出された二人には、当然ながら帰る家がない。今日眠るための安全な場所を確保し、宿泊にどれくらいの費用がかかるのかを事前に確認しておく必要があった。
地図を頼りに到着した宿屋の看板には、『コッコ亭』と書かれていた。
1階部分は大きな酒場が併設されているようで、まだ昼過ぎの明るい時間だというのに、多くの冒険者や商人たちで賑わっている。
外に料金を記載した看板などは出ていなかったため、二人は意を決して『コッコ亭』の扉を押し開けた。
カランコロン、とドア開く。
二人が酒場に足を踏み入れた瞬間、店内で飲んでいた客たちの視線が一斉に二人へと突き刺さった。
わずか8歳の子供が、二人だけで酒場に現れたのだ。目立って当然である。
「おやァ〜? ボクたち〜。ここは子供のくるところじゃないぞォ〜」
案の定、早速絡んでくる輩が現れた。
赤く染め上げた奇抜なモヒカン頭で、顔は真っ赤。昼間から相当酔っているようだ。昔の世紀末系アクション漫画に出てくるチンピラそのものの風貌である。
ハルは本能的に身の危険を感じたのか、スッと腰を落として男を鋭く睨みつけ、その場で臨戦態勢に入った。
「おやおや〜。威勢のいいお嬢ちゃんだねェ〜」
男もハルの警戒に気付いたようで、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべてからかってくる。
ケイが慌てて「もうその辺でやめとかないと、命の保障が……」と忠告しようとした、その時だった。
「ひょいっ」
「へ?」
モヒカンの男の巨体が、文字通り宙に浮いた。
「こらっ! こんな小さい子供相手に絡んでるんじゃないよ!!」
男の首根っこを片手で軽々と持ち上げていたのは、恰幅の良い店の女将さんだった。
「周りのお客に迷惑をかけるなら、さっさと帰んな!」
「どわあああっ!?」
女将さんはそう言い放つなり、大の男をまるで羽虫か何かのように、店の外へと勢いよく放り投げた。
「お、覚えてやがれぇぇっ!」
店外の土埃の中から、捨て台詞とともに男が逃げるように走り去っていく足音が聞こえた。
「ごめんねぇ、お嬢ちゃんたち。怖い思いさせちまったね。ここに何か用かい?」
先ほどの豪快さとは打って変わり、女将さんは聖母のようにニコリと笑ってハルに問いかけた。
「あ、あの、ここの宿泊料はどれくらいですか?」
「一部屋一泊、1500アデナだよ。一人につき500アデナ追加してくれたら、美味い夕食と朝食もつけてあげるよ!」
ハルの問いに対し、女将さんは愛想よく料金システムを教えてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
情報を得たハルは、元気よくお礼を言うと、弾かれたように走って店を出て行ってしまった。ケイも慌てて女将さんにペコリと一礼し、相方の後を追う。
店の外に出たケイは、歩きながら頭の中で宿泊費の計算を始めた。
「えっと……二人別々の部屋に泊まって、それぞれ食事付きにするなら……合計で4000アデナかな」
ちなみに『アデナ』とはエタコネの世界における共通の通貨単位だ。
転生前のレベル200の彼らであれば、4000アデナなど瞬きする間に稼げるはした金だ。だが、今は規格外のステータスを引き継いでいるとはいえ、レベルはまだ4になったばかり。夜までに無事にその金額を稼ぎ出せるかは未知数だった。
ケイが真剣に皮算用をしていると、横を歩くハルが不思議そうに首を傾げた。
「ケイ、何言ってるのよ。女将さんは『一部屋一泊1500アデナ』って言ってたでしょ?」
「え? うん」
「だから、私たち二人で『同じ部屋』に泊まれば、部屋代1500アデナに二人分の食事代1000アデナを足して、合計2500アデナで済むじゃない!」
「……ええっ!?」
ケイは素っ頓狂な声を上げた。
まさか、憧れの同級生だった女子から「同じ部屋に泊まろう」と提案されるとは夢にも思っていなかったのだ。相手は8歳の姿とはいえ、中身は17歳の自分と同い年。しかも先ほどまで全裸だったという強烈な記憶がまだ真新しい。ケイの精神は激しく動揺した。
「ほら、とりあえずお金を稼がないとね! 行こうか、ケイ!」
そんなケイの葛藤など露知らず、ハルは無邪気な足取りでスタスタと歩き出してしまった。ケイは真っ赤になった顔を隠しながら、慌ててその後を追いかけるしかなかった。
* * *
次に二人が向かったのは、『冒険者ギルド』だ。
冒険者ギルドは、魔物のドロップアイテムを買い取ってもらったり、様々な依頼を受注できる施設である。特にクエストの報酬は、初期の貴重な収入源となる。
8歳の子供の姿でお金を稼ぐ方法など、これくらいしか思い浮かばなかったため、二人は一縷の望みを託してやってきたのだ。
レーンの街のほぼ中央に位置する冒険者ギルドは、外装こそ年季が入ってボロいが、建物自体はかなり巨大だった。ここにも酒場が併設されており、荒くれ者の冒険者たちで熱気に満ちている。
内部は【買取カウンター】、【受注カウンター】、【報告カウンター】、【登録カウンター】と、用途に合わせて様々な部署に細かく分かれていた。
二人が広々としたギルド内を物珍しそうに見渡していると。
「おやおや〜! 先ほどのお嬢ちゃんじゃないか〜。ここも子供のくる所じゃないんだけどなァ〜」
背後から、不快な声がねっとりと絡みついてきた。
振り向くと、そこには先ほど『コッコ亭』で女将につまみ出された、あの赤いモヒカンの男が立っていた。
体格はデカいが、腰に下げている武器は見るからに刃こぼれした安物の銅の剣。装備の質から見て、大してレベルは高くない三流の冒険者だろう。
ケイが冷静に相手の戦力を分析していると、隣でハルが一歩前に出た。
「おじさん! さっきからしつこくてうるさいよ! ハルたちに構わないで!」
ハルは両手を腰に当て、堂々とした態度で男を怒鳴りつけた。
「お、おじ……っ!?」
モヒカン男は『おじさん』という単語がよほど急所に入ったのか、目に見えてショックを受けた顔をする。
その様子を見て、ハルの瞳にイタズラっぽい光が宿った。彼女は何か面白いことを思いついたようだ。
「ねぇ、おじさん。ハルと『腕相撲』で勝負しない? おじさんが負けたら、もうハルたちに絶対に絡まないでね!」
なんとハルは、大の大人の冒険者に対して真っ向から腕相撲の勝負を持ちかけたのだ。
ハルのステータスは、純粋な攻撃力と腕力を司る【STR】に極振りされている。いくら8歳の姿とはいえ、レベル200の半分のSTRを持つ彼女が、こんなその辺のチンピラに力負けするはずがない。
「なっ……! お、俺が勝ったらどうしてくれるんだ!?」
急に子供から勝負を挑まれ、周囲の冒険者たちの目も集まってきたことで、男は焦ったように聞き返した。
「もしおじさんが勝ったら、おじさんの今日の飲み代、ハルが全部出してあげる!」
「ほほう……! その言葉、絶対に忘れるなよ小娘!」
酒代につられたモヒカン男の目が卑しげに光る。
こうして、冒険者ギルドのド真ん中で、8歳の幼女とチンピラ冒険者による異例の腕相撲対決が幕を開けたのである。
第5話をお読みいただきありがとうございました!
ハルのステータスなら、腕相撲なんて指一本で終わっちゃいそうですが……(笑)。
いよいよ「生活魔法」が冒険でどう活かされていくのか、ご期待ください!
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