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第1話:婚約破棄? はい、喜んで承ります!

※「過労死寸前の限界社畜令嬢が、婚約破棄されて心の中でガッツポーズをする」お話です。

※ 彼女が抜けた後の国は、無能な王子たちによって面白いように崩壊していきます(ざまぁ)。

※ 本人は冷血と恐れられる隣国の皇帝陛下に限界まで甘やかされる、ストレスフリーな溺愛コメディです。

「セシリア・フォン・クロイツ! 貴様との婚約は今この時をもって破棄する!」


 きらびやかな夜会の主役であるはずの王太子、ルイス・フォン・グランツの声がホールに響き渡りました。

 彼の隣には、桃色の髪を揺らし、守ってあげたくなるような潤んだ瞳でこちらを見上げる男爵令嬢マリアベル。

 対する私は、公爵家の娘として、そして宰相代行として、今日も今日とて三日三晩徹夜明けの澱んだ顔で、山のような書類の束を抱えて立っていました。


(……え? 今、なんて?)


 私は、目の下に刻まれた濃い隈を擦り、思考を巡らせます。


 婚約破棄。

 それは、貴族の娘にとって致命的な社会的死を意味する言葉です。

 通常ならば、泣き崩れるか、無実を訴え王子の脚に縋り付く場面なのでしょう。


 ですが、私の脳裏を真っ先に駆け巡ったのは、全く別の情景でした。

 それは……真っ白で、フカフカの、三年間一度もまともに使っていない自分のベッド。

 日の光を浴びながら、終わりなき決算書に追われることもなく、印鑑の不備に発狂することもない、輝かしい『虚無』の時間。


(……有給? いや、これは永久欠勤……つまり、退職!?)


「耳まで腐ったか、悪女め! 貴様がマリアベルに対して行った陰湿な嫌がらせの数々、証拠は挙がっているのだ! もはや申し開きはさせん!」


 ルイス王子が突きつけたのは、何やら私が彼女の教科書を破っただの、ドレスを汚しただのという、可愛らしい内容のリストでした。


(教科書を破る? そんな時間があるなら、予算案の修正を五分早めますわ)

(ドレスを汚す? インクを零すもったいない真似、事務官失格ですわね)


 内心で冷徹にツッコミを入れながらも、私はこれ以上ないほど深々と頭を下げました。

 表情を隠すためではありません。

 今にも口角が釣り上がりそうになるのを、必死に抑え込むためです。


「……承知いたしました、殿下。私の不徳が致すところ、甘んじてその言葉をお受けいたします」


 震える声を出したつもりでしたが、それは絶望ゆえではなく、込み上げる歓喜を抑えすぎた結果でした。


「フン、今さら殊勝な態度を見せても遅い! 貴様はこの国から追放だ! 二度と我が国の地を踏むな!」


(追放! 国外逃亡! つまり、この腐り切ったブラック王宮からの事実上の離職票!! しかも強制執行付き!!)


 私の心の中では、現在進行形で盛大なファンファーレが鳴り響いています。

 この三年、このアホの王子の……失礼、ルイス殿下の遊び歩いたツケを払い、空っぽの国庫を誤魔化し、他国との交渉を一人で回してきた日々。

 昼食は五分で詰め込み、睡眠は馬車の中。ドレスの流行よりも先に、隣国の関税引き上げの動向を追っていました。

 そんな日々が、今、終わったのです。


「セシリア様、私を恨まないでください……。でも、真実の愛には勝てなかったのです」


 マリアベル様が勝ち誇ったように微笑みますが、私の目には彼女が「次の過労枠」にしか見えません。

 頑張ってくださいね、明日には私の机の上に積まれている、一週間分の未処理の公文書が全て貴女たちに向かいますから。


「恨むなど、とんでもございません。マリアベル様、ルイス殿下、どうぞ末永くお幸せに。……失礼、お幸せな『公務』に励んでくださいませ。では、私は急ぎますので、これにて」


 私は抱えていた書類の山を、ドサリ、と一番近くにいた衛兵の腕に押し付けました。


「それは明日までに処理しなければ、我が国の食糧輸入が止まる重要な書類です。殿下によろしくお伝えください。では、さようなら!!」


 私はドレスの裾を翻し、ホールを駆け抜けました。

 後ろから「な、なんだあの態度は!?」という王子の叫びが聞こえましたが、もう私の耳には入ってきません。


 馬車を出せ! 荷物はさっき纏めた!!(※常に逃亡を夢見て準備していた)

 向かうは国境! どこでもいい、この仕事だらけの国から私を遠ざけて!!


 こうして、史上最高の「婚約破棄」を遂げた私は、月明かりの下、爆走する馬車の中で、三振りの快哉を叫んだのでした。


第1話、お読みいただきありがとうございました!

ブラックな職場を「物理的(書類破棄)」に整理して去る、セシリアの豪快な立ち回りは楽しんでいただけましたでしょうか。


無能な王子に突きつけられた離職票(婚約破棄)、彼女にとっては最高のご褒美ですわね!


次回、第2話「国境を越えた先には、血塗られた皇帝が待っていました」。

逃亡先で待ち構えていたのは、まさかの「ホワイト上司」なアノ方……!?


もしセシリアの有能っぷりにスカッとしたら、最後にブックマーク(有給申請)や評価(ボーナス支給)をお願いいたしますわ。

皆様の応援が、セシリアにさらなる「ホワイトな福利厚生」をお届けするエネルギーになりますの!


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