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エデン  作者: ko-da
第2部 5章 恐怖と剣編

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二手に

その後も一行は、エリア・アガレスの探索を続けていた。

木々の間を縫うように進み、周囲の気配に注意を払いながら山の奥へと足を踏み入れていく。時折、木々の陰や岩場からエイリ星人が姿を現したが、幸いにも複数体が同時に襲いかかってくることはなかった。

そして、現れたエイリ星人は例外なくカティアによって蹴散らされていた。

「棘茨鉄線(ソーンワイヤー)!」

カティアの手から放たれた棘付きの鉄線が、エイリ星人の身体を貫く。相手が反撃する暇さえ与えず、彼女は次々と敵を倒していった。

「流石姉貴!いやあ、本当に頼りになりますねぇ!」


「ブコン、少し黙ってなさい」


「す、すみません!」

ブコンの称賛を一蹴し、カティアは再び周囲を警戒する。テイシャも無駄口を叩くことなく、油断のない目つきで周囲を見渡していた。

しかし、いくら探索を続けても、目的のエイリ星人は見つからなかった。

通常の個体よりも進化に近づいているという、今回の討伐対象。その姿どころか、手がかりすら得られていない。

血刃は足を止め、険しい山道の先を見据えた。

「なりかけが見つからんの」

しばらく考え込んだ後、血刃は隣にいるカティアへと視線を向ける。


「手分けして探すか?」


「……そうね」

カティアは少しだけ考えた後、同行者たちを見回した。

「でも、新人だけで固めないように分けるわよ。何かあったとき、対処できる人間がいないと困るから」

その言葉に異論を唱える者はいなかった。

話し合いの結果、二つの班に分かれて探索することになった。

血刃、ブコン、フルト、エデンの四人。

そして、カティア、シオン、緋山、テイシャの四人。

互いに連絡を取り合えるようにした上で、それぞれ別の方向へと進んでいく。

「何かあったらすぐに連絡するのよ。無理に追いかけるんじゃないわよ」

別れ際、カティアは念を押すように言った。

「分かっとる。そっちも気をつけるんじゃぞ」

血刃がそう返すと、カティアは短く頷き、シオンたちを連れて山の奥へと消えていった。

残された四人も、別の道を選んで探索を再開する。


それから数十分が経過した頃だった。

「……来るぞ」

先頭を歩いていた血刃が、不意に足を止めた。

その声に反応し、エデンたちも身構える。木々の向こう側から、複数の気配が近づいてきていた。

やがて姿を現したのは、四体のエイリ星人だった。

どれも通常の個体とは異なる、圧迫感のある気配を放っている。先ほどまでカティアが倒していた個体と同じように見えても、油断はできない。

「四体か。わしが三体を引き受ける。残りを頼むぞ」

血刃はそう言うと、迷いなく三体のエイリ星人へと向かっていった。

「は、はい!」

フルトは返事をしながら剣の柄を強く握りしめる。

昨日の訓練を思い出す。剣を振るうことへの恐怖は、今も完全になくなったわけではない。それでも、恐怖を抱えたまま前へ進むと決めたのだ。

目の前に敵がいる。ならば、自分も戦わなければならない。

フルトは剣を構えた。

しかし、残る一体のエイリ星人は、彼が覚悟を固めるのを待ってはくれなかった。

地面を蹴ったエイリ星人が、一瞬でフルトとの距離を詰める。

「っ……!」

速い。

そう認識したときには、もう攻撃が迫っていた。

フルトの身体は反応できなかった。剣を振り上げることも、防御の姿勢を取ることも間に合わない。

「フルト!」

エデンが叫ぶ。

次の瞬間、エデンの身体を黒い鎧が覆った。

「リミットナイト!」

黒い装甲に包まれた腕を差し込み、エデンはエイリ星人の攻撃を受け止めた。衝撃が腕を伝い、身体がわずかに後退する。それでも、フルトに攻撃が届くことだけは防いだ。

「大丈夫、フルト?」


「は、はい……!」


「なら、今のうちに!」

エデンが敵の動きを押しとどめている間に、ブコンが前へ出た。

「私も加勢します!土砂操手(サンドワークス)!」

ブコンは地面に向かって手をかざした。

すると、足元の土砂が勢いよく持ち上がり、彼の手から腕にかけてまとわりついていく。土は次第に形を変え、やがて巨大な拳を形作った。

「いきます

!」

ブコンは大きく踏み込み、土砂の拳をエイリ星人へと叩きつけた。

鈍い衝撃音が山中に響く。

殴打の勢いで土の拳はばらばらに崩れたが、攻撃はそれで終わりではなかった。

砕けた土砂がエイリ星人の身体へとまとわりつき、腕や脚に絡みついていく。土は瞬く間に固まり、敵の動きを封じ込めた。

「今です、フルトさん!」


「わ、分かりました!」

フルトは剣を握り直し、拘束されたエイリ星人へと駆け出した。

狙うのは首。

昨日の訓練で、何度も繰り返した剣の振り方を思い出す。力任せに振るのではなく、狙いを定め、全身の動きを剣へと伝える。

「はああっ!」

フルトは剣を振り下ろした。だが――

金属同士がぶつかったような、硬い音が響いた。

「なっ……!」

剣は首に食い込むことなく、弾かれてしまった。

エイリ星人の首は、想像以上に硬かった。土砂で拘束されているとはいえ、その身体そのものを斬るには、フルトの力だけでは足りなかったのだ。

エイリ星人が拘束を破ろうと身体を揺らす。まとわりついた土砂に亀裂が走り、少しずつ崩れ始めていた。

「くっ……!」

フルトは再び剣に力を込める。

だが、これ以上力を加えても、斬れる保証はない。焦りが生まれ、剣を握る手に余計な力が入っていく。

そのとき、隣からエデンが手を伸ばした。

「フルト、力を貸すよ!」

エデンはフルトの剣を握る手に自分の手を添えた。リミットナイトの黒い装甲に覆われた腕で、剣を押し出すように支える。

「エデンさん……!」


「大丈夫。今度こそ決めよう!」

エデンの言葉に、フルトは頷いた。

自分一人で斬れないのなら、誰かの力を借りればいい。

それは決して、剣を振るう資格がないということではない。

フルトは息を整え、改めて剣の柄を握りしめた。

「はああああっ!」

二人の力が重なり、剣が再び首へと振り下ろされる。

今度は、硬い外皮を押し切った。

エイリ星人の動きが止まる。次の瞬間、その身体は光の粒子となって崩れ、山の空気へと溶けていった。

「……倒せた」

フルトは呆然としながら、自分の手に握られた剣を見つめた。

恐怖が消えたわけではない。敵を前にすれば、今でも身体がすくみそうになる。

それでも、先ほどは剣を振るうことができた。そして、自分の力だけでは足りなかった部分を、エデンが補ってくれた。

「よかったね、フルト」

エデンは微笑みながら、彼の肩を軽く叩いた。

「は、はい! ありがとうございます、エデン先輩!」

フルトが頭を下げると、ブコンも満足そうに頷いた。

「いやあ、見事な連携でしたね!」


血刃の方を見るとそこでは、すでに戦いが終わっていた。

三体のエイリ星人は、いずれも地面に倒れることなく消滅していた。血刃は木刀を片手に、何事もなかったかのように立っている。

四体ものエイリ星人が現れたというのに、彼はそのうち三体を、ほとんど一人で片づけてしまったのだ。

フルトは思わず感嘆の声を漏らした。

「すごいな、血刃さん」

その声が聞こえたのか、血刃はゆっくりと振り返った。

「何を言っとる。お前たちも、きちんと一体倒したじゃろうが」

そう言って、血刃はフルトたちの方へ歩み寄ってくる。

「ただし、敵の硬さや動きはよく覚えておけ。次も同じようにいくとは限らんからの」

その言葉に、フルトは真剣な表情で頷いた。

戦いは終わった。

だが、目的のエイリ星人――進化に近づいているという個体は、まだ見つかっていない。

そして、この山には今の四体よりも危険な存在が潜んでいる可能性がある。

エデンは消えていったエイリ星人のいた場所を一瞥し、再び山の奥へと目を向けた。



フルトたちが再び山の奥へと進み始めてから、しばらく経った頃。

先ほどまで彼らが戦っていた場所に一つの影が姿を現した。

木々の間からゆっくりと歩み出たその者は、エイリ星人が消滅した場所を見下ろした。地面には戦闘の痕跡が残されている。踏み荒らされた土、砕けた石、そして能力によって散らばった土砂。

周囲を見回すと、どこか楽しげに口元を緩めた。

「招かれざる客人がいますね」

独り言のような声が、静かな山中に響く。

その視線は、フルトたちが去っていった方向へと向けられていた。

まるで、彼らの存在を最初から知っていたかのように。

「彼らにも手伝ってもらいましょう」

そう言い残すと、その人物は踵を返した。

木々の陰へと姿を消していく背中に、迷いはなかった。

やがて、その場には再び静寂が戻った。

まるで、最初から誰も訪れていなかったかのように。

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