第7話「4年前」
《◇》ロドイン森林の集落に反夢境戦線の危機が迫っていることが広まり、偽霊は全員集落から離れた場所に避難した
龍炎が集落を見渡し、偽霊の気配が無い事を悟る
「よし、これで偽霊の避難は完了したな」
夢見が龍炎に問いかける
「避難先では龍災さんの知り合いの人が護衛をしてくれているんですよね?」
「あぁ、彼女の実力は俺が保証する。だから心配は無用だ」
「それなら良かったで───」
次の瞬間、夢見の背後からリュネシアが現れ、首元にナイフを押し付ける
「跡夢!───」
どこから音もなく龍炎の背後にハゲートが現れる
「動くなよ龍炎、動いたらその女の命はないぞ」
「こんな事をして、何が目的だ」
「だから何度も言っているだろ、偽霊への復讐だ。だから戦闘力的に俺達より上のお前に自由に動かれると困るんだよ。邪魔をされたら面倒だしな……って、偽霊はどこにいる?家の中にでも隠れているのか?」
「偽霊たちは既に避難している、ここから離れた場所にな」
「っち……」
集落の入り口からレイゼが現れ、この場面に遭遇する
「…龍災殿!跡夢殿!御二人共大丈夫ですか!?」
龍炎が動揺してレイゼに話しかける
「レイゼっ!?今までどこで何をしていた!」
「いや、少し離れた商店街に買い出しに行っていた所ですが…」
ハゲートがレイゼを見つめて、その特徴を凝視する
「白髪…その狐耳、お前だな!ゼルゼ…いや『石動悠生』を殺した偽霊は!!」
「一体何の話を──って、あなたは!…もしやハゲート殿ですか!?」
「そうだよ……覚えてたか、偽霊!」
レイゼは両手を前に出し、必死に首を振り否定する
「誤解しないでくださいハゲート殿、僕はゼルゼ殿を殺してなどおりません!」
「言い逃れする気か!?忘れたとは言わせないぞ…4年前、俺達はこの集落を悪夢の手から救ってやった。だがお前はその恩を仇で返しやがった…!俺はあの日見た、お前が弓でゼルゼを射殺した瞬間をな!」
龍炎がハゲートとレイゼの会話に割って入る
「お前たち一旦落ち着け!一旦状況を整理しよう」
「まず、ハゲートの言うゼルゼという人は、前にレイゼが話していた4年前にこの集落を救った三人の英雄のうちの一人だな?」
レイゼが問いに答える
「はい、その通りです」
「そしてハゲート、お前はそのゼルゼという人をこのレイゼという名の偽霊が殺害したと言っているわけだな」
ハゲートが口調を荒くしながらで龍炎の問いに答える
「あぁ、だからそう言ってるだろ!」
レイゼが龍炎に対して必死に訴えかける
「龍炎殿、どうか誤解しないでください!先ほども話した通り…確かに4年前にゼルゼという人はそこの御二人と共にこの集落を救ってくれました。ですが、僕は彼を殺してなどいません!」
「その白髪、狐のような耳……そんな特徴の偽霊をお前以外に見たことがない!さっさと認めたらどうだ?」
「……いや…おそらく、あなたの言うゼルゼ殿を殺した偽霊は──
「僕の弟です」
ハゲートが動揺しながら、レイゼに問い詰める
「弟…?嘘だ……そんなんで罪を無かったことにできると思うなよ!」
レイゼは深呼吸をした後、落ち着いた表情でゆっくりと自分の弟の事について話し始める
「……弟は、他の偽霊よりも人間に対して敵意を向けていました。あなた方が集落を救ってくださった時も、弟は『親切心では無く、借りを作っておいて、後で利用する為』などと言っていました」
夢見がレイゼの話に驚愕する
「いや、いくら人の事を嫌ってたとしても…殺しまでしますか!?」
龍炎が過去の出来事と照らし合わせながら状況を整理する
「4年前と言えば、日本で夢境ウイルスの感染者が出だした頃だ。その時は偽霊と人間の関係は今よりも良好ではなく、人間に敵意を向けている偽霊も多かった。それに偽霊は人間ほど倫理観があるわけじゃない、昔は安易に殺しを行う者も多かった」
龍炎はハゲートに対して話し始める
「……だから仕方なかったと言う訳では無いが、お前達がこの集落を助けた時から、こうなる事も多少は考慮すべきだった」
ハゲートは激情し、レイゼに怒りをぶつける
「……黙れ!どれとこれも全部お前が悪いんだよ!本当は弟なんて存在しないんだろ!おい偽霊、右手を見せろ。ゼルゼを殺した偽霊には右手に大きな傷跡があった……お前にもあるんだろ、その袖をめくれ──」
ハゲートはレイゼの右手の袖をめくるが、傷跡らしきものは見当たらなかった
「なっ…!」
「だから何度も言っているでしょう、おそらくゼルゼ殿を殺したのは……僕の弟です」
「そんな……それなら、お前の弟は今どこにいる!」
「……もう居ませんよ、弟は4年前にこの森の崖からの転落により亡くなりました」
「4年前って……」
「丁度御三方が集落から去った日だったはずです。おそらくは、ゼルゼ殿を射殺した後に罪の意識に耐えられなくなり自害したのでしょう」
ハゲートは膝から崩れ落ち、両手で地面を叩きつける
「……ふざけんな!それじゃあ俺達の復讐は……とっくの昔に終わってたのかよ……」
リュネシアは夢見の首に押し当てていたナイフを下げながら、呟く
「ハゲート……」
レイゼは深々と頭を下げながらハゲートに謝罪する
「ハゲート殿、僕から謝罪させていただきたいです。弟が行った行為には家族である僕にも責任は有りますから」
「お前は……俺が憎くないのか…?俺はお前らを……殺そうとしたんだぞ……」
レイゼは顔を上げて、ハゲートの目を見つめてながら話し始める
「何言っているんですか。結果的にあなたは誰にも手をかけていませんし、それに…あなた方は4年前にこの集落を救ってくださったじゃないですか。憎もうにも憎めませんよ」
「お前……心が広すぎるぞ…」
「それが取り柄ですので」
「………ふっ、そうか。…………それなら、俺達がこれ以上ここにいる理由は無いな」
リュネシアは夢見を押し付けていた腕を完全に離して謝罪する
「ごめんなさい……関係のないあなたにこんな事して……」
夢見は一切不機嫌そうな表情を浮かべずに、リュネシアに話す
「別に良いですよ、復讐を諦めてくれたなら」
龍炎がハゲートに話しかける
「待てハゲート、ここを離れる前に聞いておきたいことがある」
「なんだ?」
「反夢境戦線、そこの本拠地はどこにある。そしてお前の言っていた『紅蓮』という人について詳細を答えてもらいたい」
「あぁ、別にいいぜ。もう隠す必要も無くなったしな。だけど俺は反夢境戦線の本部がどこにあるのかは知らない。だが紅蓮に関する事ならいくつか教えられる。性別は男で大柄、アイツは火を操る能力を持っていて、その力で偽霊の集落をいくつも焦土にしてきたらしい。アイツは偽霊にとんでもない恨みを持ってて、殺すためなら手段を選ばない」
「やはり既にいくつか罪を犯していたか……ハゲート、情報提供感謝する」
「感謝する程の事じゃねぇって。だけどお前まさか、紅蓮とやり合おうとしてる気じゃないだろうな!?やめといた方がいいぜ、別にお前の実力を見くびってる訳じゃないが……紅蓮は化け物だ、そう簡単に勝てる相手じゃねぇぞ……」
「そうか、分かった」
《◇》そしてハゲートとリュネシアは集落の出口まで歩いて行った
「それじゃあ、また会えたら良いな」
「迷惑かけて、本当に済みませんでした!」
そう言い残し、ハゲートとリュネシアは集落から森の出口へと消えていった
レイゼはほっと一息付く
「ふぅ…一時はどうなることかと思いましたよ」
「でも、これにて一件落着ですよね!」
龍炎が二人に向かって真剣な表情で話し始める
「あぁ。だが反夢境戦線のことを無視してこの件を終わらせることはできない。反夢境戦線の全員が偽霊に対して敵意を向けているのかは分からないが、少なくともハゲートと繋がっていた紅蓮はこの集落に来る可能性が残っている」
「確かに、それじゃあしばらくはまた護衛をしないとですね」
「あぁ、レイゼも早く避難した方が良いだろう。ハゲートの言っていたことが本当なら……ここもいずれ焦土になると可能性がある」
「分かりました、では荷物をまとめています!」
そう言いレイゼは自分の家に向かって行った
「さて…まだ持つか?跡夢」
「まぁ体力的には大丈夫です!でも、精神的にちょっと来てきました……」
「それなら休んでた方が良いだろう。来るかも分からない敵を待つよりも、自分の身体の方が大事だ」
「それじゃあお言葉に甘えて、少し休憩させてもらいます」




