第211話 いつもの延長線
剛志たちの前方には目的である横浜第三ダンジョン地下85階層へ続く階段がある。そしてその周囲には、階段を守るように大量の蟻と蜂の魔物が陣取っており、その中に魔人型の魔物も蟻と蜂が一体ずついることが確認できた。
大量の魔物たちに関しては、数自体もこの階層で今まで戦ってきた相手と大差ないため問題ではない。今までと異なるのは、その魔物たちの中に魔人型の魔物が存在するという点だけだ。
魔人型は確かに脅威だ。実際、剛志たちの中では万葉以外まともに戦ったことがない相手であり、推奨レベルもおそらく地下85階層相当の1250に近いだろう。そうなると、この中で真っ向勝負で戦えるのは万葉くらいだ。逆に言えば、万葉はおそらく一対一で圧倒できるほどの実力ではある。
そこで剛志たちの大まかな戦法としては、魔人型の相手は万葉に任せて、それ以外の敵を剛志、臼杵、ミアの今までの戦法で殲滅するという形になる。
そんな中、イチロイドがある提案をしてきた。
『マスター。今回は今までと異なり、向こうから攻めてくる相手の迎撃ではなく、こちらから攻め入る形です。その上、敵の大多数はすでに目視できる状況。ここは超広範囲の集団魔法を一当てして数を減らしてからの方が効率的だと考えます』
これから攻撃に出ようという出鼻を挫かれる形ではあったが、イチロイドの提案はもっともだ。敵がすでに待ってくれている現状で、馬鹿正直に戦いを挑む必要はない。普通の探索者であれば単純に先制攻撃を当てられるだけだが、剛志の場合は発動に時間がかかる代わりに威力が絶大な、大量のゴーレムたちの集団魔法という選択肢がある。だからこそ、このアドバンテージは絶大だと言えよう。
「お、いいねそれ!たしかに、そうするのが一番よさそうだ。みんな少し時間頂戴。集団魔法を当ててから、一気に攻め入ろう」
早速イチロイドの案を採用した剛志は、その勢いのまま大量のCゴーレムを召喚し、集団魔法を打ち込むための形態に合体させる。
Cゴーレムたちは、それぞれのコア同士を等間隔に繋ぎながら、形としてはいくつもの円柱が合体して一つの円柱になるような形で結合していき、最終的にはざっと10000体のCゴーレムが一つの砲台の形に合体した。
「流石に階層そのものが吹っ飛ぶほどの威力はないし、階段も無事だとは思うけど、なるべく魔物たちの中心に当てて、ダメージを魔物たちに集中させようか」
『かしこまりました。調整いたします』
そんな会話を剛志とイチロイドが繰り広げていると、その砲台の大きさに呆れた臼杵が、いつものように愚痴をこぼす。
「全く、剛志の規格外には慣れてきたけどとんでもないな。せっかく敵に魔人型がいるからって意気込んでいたのに、これを見ると逆に敵が不憫だぜ」
「まあ、剛志のこれはいつものペースだしね」
臼杵の発言に万葉が同意していると、普段あまり会話に入ってこないミアが、我慢できないといった様子で二人の会話に加わった。
「二人はこういうのに慣れているの?てかそもそも、あの巨大な砲台は何?見たことなかったんだけど……」
「ああ、あれか。俺たちも初めて見るから分からないな。多分あそこから集団魔法を発射するんじゃないかな?あの魔力の集まりようを見ると、威力もとんでもなさそうだしな」
「え……見たことないって、本当?」
まさかといった様子でミアがそう返すと、その会話を聞いていた剛志が説明を始めた。
「本当だよ。これだって俺も初めて作っているし。正確には初めて作っているというよりは組み合わせているだけど、同じことか。まあ、その辺はイチロイドにイメージを伝えてお任せって感じだけどね」
『はい。しかしこれに関しては元々構想自体はありましたし、これの小型は普段から運用しているので、それを大きくしただけですね』
剛志が発明したCゴーレムというゴーレムの本領が、この柔軟性にある。組み合わせ次第で無限の可能性を秘めているため、あとはその数を増やすだけでほぼ全ての事態に対応が可能なのだ。あとはそれらのバージョンを上げていくことで全体的な底上げをすることはできるだろうが、それ以外は基本的にすでに完成されたゴーレム。それがこのCゴーレムなのだ。
そして今まさに魔法攻撃を発射しようと砲身に魔力を溜めているCゴーレムは、その限界まで魔力を溜めきり、あとは発射するだけの状態になった。
『マスター。いつでも発射可能です』
イチロイドがそう報告してきたので、これで準備は整った。あとは発射の合図とともに戦闘開始だ。
「了解。じゃあ、戦闘開始と行きますか!万葉は砲撃の後、魔人型の対処をお願い。臼杵はイチロイドの操作するCゴーレムたちと一緒に撃ち漏らしの殲滅を頼む。ミアはイチロイドの指示に従って、敵の指揮官個体などの殲滅を。百花ちゃんは俺の護衛をよろしく。じゃあいくよ!」
剛志がそう指示を出すと皆一様に頷いた。それを合図に攻撃を開始する。
イチロイドがCゴーレムに指示を出すと、そこに溜められていた巨大な魔力が一気に解放され、一直線に魔物たちの中心へ着弾した。
その攻撃は一瞬、光の線がCゴーレムと魔物たちの間を繋ぎ、その光が途切れた直後に魔物たちの中心から巨大な光の玉が生み出されたかのように爆発した。まさに光の速さで放たれた光線は、遅れて爆発音が聞こえることで、その速さを剛志たちに知らしめる。
そして放たれた光線を受けた爆心地は、まさに地獄絵図と化していた。巨大なクレーターを残し、そのクレーター内にいた魔物たちを消し去っており、その周りにいた者たちも爆風と衝撃により少なくないダメージを負っている。
なるべく多くの魔物を倒そうという狙いで放たれた爆撃は、魔物たちの中心に撃ち込まれていた。だからこそ、多くの魔物を殲滅することができてはいる。だが、魔物たちの後方に控えていた魔人型は攻撃から免れていた。
「おいおい!なんだこれは」
「流石にありえないだろ!」
いきなり目の前で部下たちが吹っ飛んだ光景を目の当たりにした蟻と蜂の魔人が、思わずといった様子で叫ぶ。その声はどこかざらついた、不思議な響きを含んでおり、人間ではないことをそこで改めて思い知らされる。
言葉が通じたとしても、意思の疎通ができる相手ではない。だから万葉は騒ぐ魔人型に対し、他の魔物と変わらず、純粋な殺意だけを乗せて踏み込んだ。
ギャアギャアと騒ぐ2体の魔人の目の前に、とてつもない速度を生かしたほとんど瞬間移動のような動きで現れた万葉は、何も言葉を発することなく目の前の蜂型の魔物に斬りかかった。
咄嗟の攻撃にも対応しようと蜂型の魔人が腕を交差させ、守りの体勢に入った。だが、それでも万葉の刀は止まらない。腕など最初から無かったかのように振り切り、そのまま上半身と下半身を分断してしまう。
万葉が残心のまま蜂の魔人の胴体がずれるのを確認していると、横から蟻型の魔人が攻撃を始めていることに気づいた。そこで迎え撃つ形で刀を下から上へ振り上げ、蟻型の魔人は左右に真っ二つに裂けた。
そのまま左右に分かれる形で蟻の魔人が通り過ぎる時、すでに致命傷を受けている蜂の魔人が、自身の手のひらから針を飛ばすというおそらく蜂由来の攻撃を仕掛けてきた。
昆虫ベースの魔人だけあり、その生命力は凄まじい。飛んでくる針を冷静に切り捨てた万葉に向かって、なんと左右真っ二つになっている蟻の魔人からも攻撃が飛んできたのだ。
「チッ、面倒ね」
そう呟いた万葉は咄嗟に、目の前の空間を切り裂くように踏み込んだ。そこに裂け目が生まれ、万葉はそのまま通り抜ける。次の瞬間、約10メートルほど離れた場所に生まれた別の裂け目から脱出した。
万葉が脱出した場所には、今まさに蟻の魔人から放たれた謎の液体が降り注ぎ、地面を溶かしている。おそらく蟻酸的な何かだろう。
「あんなの切ったら刀がダメになるわ。そのまま死ねばいいのに、めんどくさい魔物ね」
冷静に距離を取った万葉がそう言い捨てた頃、すでに体を分断されてしまっている魔人たちは、そのまま死ぬかと思いきやまだしぶとく動きそうだった。
それぞれ離れ離れになった体が別々に動き、次の攻撃に備えているのが見て取れる。万葉が次の一手を選びかけた瞬間、横から臼杵の氷柱が飛来し、瀕死の魔人たちを穿った。
「万葉ちゃん。あとは任せて。あれだけ弱っていたら、あとは遠くから攻撃するだけだ」
臼杵がそう言うと、万葉は短く頷き、刀を鞘にしまう。
周りを見渡すと、数を減らした魔物たちの残党をCゴーレムたちが殲滅し続けており、いくつかのCゴーレムはすでに散らばった魔石などのドロップアイテムの回収を始めていた。
初めての魔人型という、ある種緊張感のある戦いだった。だが始まってしまえば、それはいつもの戦闘の延長線上でもあった。
そうして剛志たちは魔物たちを殲滅し、無事地下85階層へ降りていくのだった。
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