第210話 魔人型
横浜第三ダンジョン地下84階。その階段近くのセーフティーゾーンで十分な休息を取った剛志たちは、万全の体制でダンジョン攻略を再開した。
「昨日一気に84階層まで来たけど、今日の目標はどうしようかね。それにそろそろミアがいる間に90階層を目指すか、それとも引き返すかを考えた方がいいと思うけど、どうだろう?」
剛志は今後の方針を固めるべく、皆にそう確認を取った。
「まあ、剛志の探索スピードは異常だし、とりあえずこのまま90階層を目指すでいいんじゃねえか?どこかで限界を感じたらそこから帰っても、帰るだけならなんとかなるだろ」
そう楽観的な意見を述べたのは臼杵だ。ここまでの探索が順調なので、このまま一気に行ってしまっていいのでは、という考えのようだ。
それに対し、万葉が慎重な意見を返す。
「私も概ね賛成ではあるけど、気をつけないといけないのは念頭に置いた方がいいと思うわよ。私も何度かこのくらいの深い階層に潜ったことはあるけど、90階層に近づくにつれて敵の強さはとんでもないものになるわ。まあ、このダンジョンは一体の強さよりも数で攻める方針のようだけど」
万葉のレベルは現在1332。これは剛志たちと行動を共にしだしてから、そこまで増えていない。つまり、彼女は元々ソロでこの階層帯のダンジョンを攻略していた傑物だということだ。
そんな彼女の実体験からなる忠告は、この中の誰よりも重く、剛志の中でダンジョンへの警戒度を大いに上げるに至った。
だが、だからといってここでひよってしまっては意味がない。ある程度の危険は承知の上で、ダンジョンというものは潜るものだ。だからこそパーティーリーダーとして、剛志は警戒はするものの、このままダンジョンを潜ることを決めた。
「二人ともありがとう。万葉の意見はしっかりと受け止めさせてもらうよ。でも、今回はこのまま探索を続けよう。いつものように安全マージンを取った探索じゃないから、こうやって慎重になっているわけだし、そもそも今ここで無理する必要があるのか、という部分はずっと考えているんだけど、俺の勘が今ここで行った方がいいと言っているんだ。だから最大限に警戒はしつつも、やれるだけやってみようと思う」
剛志の発言を受け、万葉は理解してくれた。
「私は剛志の考えを尊重するわ。それに私も警戒はした方がいいとは思うけど、ここで攻めた方がいいと感じているの。虫の知らせみたいなものなのかしらね。もしかしたら、あまり悠長にしていられるほど時間に猶予がないのかもしれないわね」
「まあ、剛志の勘はバカにならないからな。いつもは何も考えてないんじゃないかってくらいぼんやりしているのに、ここぞという時は何かに気づくのが俺らのリーダーだってのは、これまで嫌というくらい見てきたからな」
そう言って万葉と臼杵は剛志の考えに同意してくれた。それに合わせるように百花とミアも同意してくれたので、剛志は今日の探索目標を決めた。
「よし、そうと決まれば今日の目標を決めようか!理想を言えば一気に2、3階層を潜ってしまいたいんだけど、とりあえずの目標は地下86階層に到達することにしようか。それでまだ余裕そうだったら、そのまま87階層を目指すって感じで」
こうして剛志は目標を定め、その日の探索はスタートした。
といっても、やることが変わるわけではない。イチロイドがCゴーレムたちを操作して階層の探索を行い、階段を見つけてそこに向かうというだけだ。
段々と階層ごとの広さが広がっているようではあるが、剛志は今も追加のCゴーレムを作成し続けている。それによって探索スピードも上がり、結果として今回も約1時間ほどで階段の位置を見つけることができた。だが、今回はいつもと違うところがあった。
『マスター、階段を発見しました。この階層の階段は北に10kmほどのところでした』
「ああ、ありがとう。じゃあみんな、準備を済ませて探索を始めようか!」
イチロイドの報告を受けて剛志がそう言うと、皆一斉に体を伸ばすなどして移動の準備を始めた。だが、今回はイチロイドの報告には続きがあった。
『マスター、階段は見つけたのですが、今回は今までと異なる部分がありました』
「ん?どういうこと?」
剛志がそう聞き返すと、イチロイドは淡々とした口調で報告を続けた。
『今回見つけた階段の近くに、階段を守るように魔物が配置されていました。そして、その魔物の中に人型の個体がいたのです』
「人型の個体?」
今まで聞いたことのない報告内容に剛志が疑問を感じていると、万葉が状況を理解したようで会話に加わってきた。
「ああ、やっぱりここでも出てくるのね。剛志、いわゆる魔人型の魔物だと思うわ。ダンジョンの深い階層には通常の魔物よりも戦闘能力が遥かに高くなっている、人のような見た目の魔物が出てくるようになっているの。彼らは言葉を話すし、見た目も人間に近いわ。剛志がわかりやすい例で言うと、闇の大精霊と戦ったんでしょ?あれみたいなやつよ」
万葉の発言を受けて、剛志はあの地獄のような戦闘を思い出していた。何度も致命傷を受けながら、自身の身代わりゴーレムにダメージを肩代わりさせ続けることで、なんとか生き延びたあの戦いだ。
確かにあの時の闇の大精霊の見た目は、真っ黒な闇の塊でありながらどことなく人型の形状をしていたし、あいつは言葉を話していた。あれが魔人型の魔物ということなのだろう。
そんなことを考えている剛志の横で、臼杵は顔を青ざめさせながら同じ戦闘を思い出しているようだ。
「まじかよ。俺、あの戦いちょっとトラウマだぜ。あの頃と違って俺も強くなったけどさ、あんなに無力感を感じる敵と戦うことって普段ないからな。なあ、剛志」
「ん?そうだったね。あれは俺も初めての経験だったよ。でも今思い出してみると確かに人型っぽかったね。そうか、あれが魔人型か。ってことは、この階層の階段前にもあいつみたいなのがいるってことだよね。それは気を引き締めないとね。イチロイド、報告ありがとう」
そう言って、ただの思い出のように話しだす剛志に、臼杵が呆れているのは通常営業だろう。
今回のイチロイドの報告により、この階層には番人のように階段を守る魔人型の魔物が存在するようだ。これも今の時点で把握できるということは、剛志の探索力が作り出した利点であり、その利点を十分に生かして対策を練ることができる。これこそが剛志のような戦闘スタイルの者の真骨頂と言っても過言ではない。
そうして一通り状況を整理してから準備を整えた一行は、早速ダンジョンの攻略を始めた。
これまでと同様に大量のCゴーレムを展開し、量で攻めてくる魔物たちを真っ向から量で圧倒しながら、臼杵、ミア、万葉との連携を得て戦局を有利に動かし、危なげなく探索を続ける剛志たち。そうして大体2時間ほどの探索によって、イチロイドが見つけた階段の位置まで到着した。
『マスター、あそこが階段の場所になります。そして、ここからも確認できますが、階段を守るように多くの魔物が展開しています。あの階段近くを見てください。あそこにいるのが魔人型になります』
そう言ってイチロイドが示してくれた方を確認する剛志一行。
そこには多くの蟻と蜂が密集しており、集合体恐怖症だった場合には気絶するのでは、といったような風景が広がっていた。そして、その中に遠目ではよく分からなかったが、イチロイドがズームした映像を浮かべてくれたことで魔人型の魔物を目視することができた。
そこにいた魔人型は、おそらく蟻と蜂が一体ずつだ。人型といっても見た目が人というわけではなく、二足歩行で体のパーツが蟻や蜂のパーツで構成されている化け物のような見た目だった。
一番わかりやすい例えで言うと、戦隊モノのヒーローや仮面ライダーのような子ども向け番組で出てくる敵キャラのような見た目という感じだろうか。近いのは確かだが、子ども向け番組のようなポップさは一切なく、ただただ攻撃的な見た目をした化け物がそこにはいた。
「マジかよ……万葉ちゃん、魔人型ってあんなに気持ち悪い見た目なの?」
我慢ならない、といった様子で臼杵がそう聞くと、万葉は首を横に振って否定する。
「私が知っているのはあんな化け物みたいなものじゃないわよ。ここの階層が虫型の魔物たちの階層だからでしょうけど、あれは不気味ね……」
思わぬところで精神的ダメージを負った一行だったが、あの化け物を倒さないことには先には進めない。なので剛志は、皆の気合いを入れ直すべく喝を入れ直すのだった。
「みんな、もうひと頑張りがんばろう!確かに気持ち悪いけど、だったらなおさら早くこの階層を攻略してしまおう!」
そうして剛志たちは、階段前に待ち構えている魔物たちに向け、歩を進めるのだった。
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