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ゴーレムの可能性は無限大 〜副業で探索者になったら職業とスキルの組み合わせが良過ぎたみたいです〜  作者: 伝説の孫の手
A.B.Y.S.S.建国

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第191話 最強レベルの模擬戦

あれから会議は白熱し、剛志達も何とかその荒波を乗り越えた。そして数時間に及ぶ機密協議が終わった頃には、喉の奥が紙やすりで擦られたみたいに乾くのを感じる。


会議室の扉が開くと、外の空気は少しだけ温度が高い。なのに胸の重さは抜けない。廊下の照明は同じ白なのに、さっきまでの楕円テーブルの上と同じ“数えられている”感覚が、まだ皮膚に残っていた。


「……戦闘より疲れるんだけど」


臼杵が珍しく弱音に近い声を落とし、首の後ろを指で押さえた。指先が硬い。ずっと力が入っていたのが手に取るようにわかる。


それを剛志は笑う余裕がなくて、ただ短く頷いてかえした。

長時間に及ぶ議論は、時間を掛けただけあり形にはなった。交戦規定、救助基準、情報管理、保護枠。だが、内容が頭に入ってこないほど消耗している。


万葉は歩幅を崩さず、横目だけで二人を見た。

「……あなたたち、顔に出すぎよ」


言葉は冷たいのに、声の奥が少し柔らかい。


『会議ログ、整理完了。決定事項は優先順位順にタグ付けしました』


イチロイドの念話はいつも通りだった。淡々としているのに、それが支えになる。剛志は一度だけ目を閉じて呼吸を整え直す。


剛志は苦手な今回の場も、情報整理という面では圧倒的に優秀なイチロイドがいてくれるというだけで、どんなに心強いかはいうまでもない。


そこへ、前方から西園寺が歩いてきた。

さっきまで白熱する議論の渦中にいたのにも関わらず、背筋は崩れていない。もちろん疲れているはずなのに、目の光が落ちていない。それだけでこの男の凄さがわかると言ってもいいだろう。


「岩井くん。臼杵くん。宮本さんたちも」


西園寺は声を大きくしない。ここではそれが礼儀だと分かっているみたいに、距離と音量をきっちり揃えて言った。


「今日は本当にお疲れさま。……明日もある。少しでも休んでおこう」


「はい」


剛志が返すと、臼杵も短く頷いた。

万葉は「了解よ」とだけ返し、百花は小さく頭を下げた。


西園寺はそれだけで満足したように一度だけ目を細め、去っていく。余計な言葉を挟まないのが、逆に頼もしかった。


その夜、剛志は寝つきが悪かった。

目を閉じても、会議室の視線と、アリシアの低い声が頭の中で反響する。

慣れない場に行き、何時間も戦ったことの後遺症なのか、興奮であまり眠れなかったのだ。


翌日。


サミット会場の一角、デモアリーナと呼ばれる円形の施設は、昨日の会議室とは別種の緊張を纏っていた。床は魔力耐性の素材で補強され、周囲には多層結界の発光ラインが薄く走っている。観客席らしい席は少なく、その代わりに配信用のカメラとオペレーター席が並び、無数のレンズが“戦い”を待っていた。


「……うわ。流石に気合いの入り方が違うな」


臼杵が天井のカメラ群を見上げ、口の端を引きつらせた。戦場の圧とは違う。見られる圧だ。


万葉は肩をすくめる。

「見せるための舞台だから当然でしょ。私ですら流石にワクワクするもの」


そんな会話の最中、剛志はアリーナの中心を見た。

結界の内側は空っぽなのに、そこに立った瞬間に“世界”が注目する。そんな装置が、目の前にある。


町田所長が日本側の待機区画へ案内しながら、小声で告げる。

「ここは公開デモ用の会場よ。全世界配信だから、余計な動きはしないでね」


言い方が優しいのに、目は鋭い。昨日の疲れが残っているはずなのに、場を読む神経は鈍っていない。


百花は控室側に近い椅子に腰を下ろし、背筋を伸ばして両手を膝に揃えた。落ち着こうとしているのが分かる。剛志が一度だけ視線を向けると、百花は気づいて、深く息を吸ってから微笑んだ。


彼女も発言こそないものの、かなり疲れが溜まっているはずだ。それでも根を上げずついてきてくれている。それはとてもすごいことだろう。


「……大丈夫です」


『周囲監視、継続。配信機材の電磁ノイズ多。解析に支障なし』


イチロイドが淡々と報告する。剛志はその温度に少しだけ肩の力が抜けた。


開会の合図は短かった。

司会役の運営スタッフが、淡々とマイクで話出す。


「只今より世界探索者サミット、公開デモンストレーションを開始します。本日は各国代表探索者による模擬戦を通し、今回の場を通じて親交を深めていければと思います」


アリーナ脇に設けられた席で、アリシア・モーガンが立ち上がった。

昨日と同じ温度のない目で、会場を一周する。言葉は長くない。必要な結論だけを置く。


「目的は明確よ。我々の力を世界に示す。それだけ。各自恥をかかないように」


アリシアが椅子に戻ると、四人の探索者が結界内へ入るのが見える。


日本代表:西園寺正義。

アメリカ代表:ジャクソン・グレイ。

韓国代表:ユン・テソン。

ロシア代表:ドミトリ・ヴォルコフ。


並んだ瞬間、空気が変わった。さっきまでの配信機材の無機質さが、急に“戦場の匂い”に塗り替えられる。


「……やっぱ、違うな」


臼杵がぼそりと零し、腕を組み直した。指先が自分の腕を掴む力が少し強い。


剛志も頷くしかない。戦闘経験が積み重なった者同士の距離感は、立っているだけで分かる。無駄に近づかない。けれど、いつでも踏み込める。そんな達人の雰囲気だ。


司会がルールを短く読み上げる。

殺傷禁止、結界破壊禁止、審判の停止命令が最優先。そう言ったルールを決めておかないと、このレベルの戦闘は被害が大きすぎる。


ユンが肩を回しながら、西園寺へ視線を投げた。挑発の笑みが一瞬だけ浮かぶ。


「日本の最強ってのが、お前か」


西園寺は表情を崩さず、返す言葉も短い。

「そういう紹介になるね。……君も噂は聞いてるよ」


ジャクソンが二人の間に立つように、軽く息を吐いた。怒っているわけじゃない。ただ、場を整えるための呼吸だ。


「やめとけ。ここは試合だ。喧嘩の場じゃない」


ユンが舌打ちしかけて、止める。止めたところに、彼の本質が透ける。熱いが、バカではない。


ドミトリは黙っている。黙っているのに、存在だけで圧がある。重い。視線が落ちるような重さだ。


気がつくと剛志は無意識に背筋を伸ばしていた。心なしか手汗も多い気がする。これから始まるのは殺し合いではなくただの模擬戦だということは頭ではわかっているのに、体が緊張しているのだ。


そして、会場の緊張がピークに達したその瞬間。開始の合図がなる。


合図とともに、ユンが消えた。


いや、消えたように見えただけだ。次の瞬間には、空間の別方向から斬撃が来る。移動が攻撃になる――瞬歩連撃。剛志は目で追い切れず、首筋に寒気が走るのがわかる。


「速っ……!」


しかし、西園寺は最小動作でそれを避けた。身体を捻り、半歩ずらし、致命の線だけを外す。そして避けた瞬間に足を返し、ユンの進行方向へ“置く”ように一撃を入れる。


「うわ、完璧に読んでるぜ……」


臼杵が呟き、目を細めた。速度だけで勝てない世界だ。西園寺はそれを“見せる”ように戦っている。


ジャクソンはその隙に、ドミトリへ視線を向けた。

そしてそれに応えるように、ドミトリが動く。


ドミトリが動いたことは一目でわかりやすかった。床が沈む。起きたことといえばそれだけなのだが、その事実がいかに途轍もないのかを会場にいる誰もが理解していた。


そして見えない手で押さえつけられたみたいに、結界内の空気が重くなる。ユンの速度が一段落ち、西園寺の足運びも僅かに遅れる。動きが鈍る、というより、動くたびに“抵抗”が増える。そんな攻撃方法だった。


「これが、重力……っ」


臼杵が喉の奥で言葉を噛んだ。魔法使いの目線で見ても、厄介すぎる。


ドミトリは攻めない。圧で支配する。相手が苦しくなるのを待ち、勝ち筋を作る。合理と制圧の匂いがする。


そこでジャクソンが一歩踏み込んだ。


彼の体勢が変わる。息の吸い方が変わる。

次の瞬間、空気の密度を無視するように前へ出た。


ジャクソンの動きは、重力圏内でありえない速度だった。踏み込みが浅いのに距離が詰まる。判断が速いのに迷いがない。ドミトリの“圧”を、数秒だけねじ伏せる。ジャクソンのスキル【オーバークロック】を側から見ると、このように見えるのかと驚く一同。


「……あれが【オーバークロック】か」


剛志は思わず息を漏らした。強いだけじゃない。危険を分かって使っている。だから短い。だから効く。


ドミトリの眉が僅かに動いた。反応した証拠だ。

彼は圧を一段上げる。空気がさらに沈み、膝が軋む感覚が伝わってくる。結界外の剛志ですら、足裏が重い気がした。


「やりすぎね」


万葉が小さく言った。声は低い。怒りではなく警戒だ。


審判が手を上げ、警告が飛ぶ。ドミトリは、そこで止めた。


一方でユンは、止まらない。

止まらないというより、止まれない速度で動き続ける。瞬歩連撃が連鎖し、今度はジャクソンへ斜めに突っ込む。速度の矢印が変わると、読みがずれる。厄介なスキルだ。


だがジャクソンは、目線だけでユンを捉えた。

身体が追いつく前に、思考が先に置かれている。結果、ユンの移動先に拳がおかれる。


ユンの攻撃が弾かれ、身体が半歩浮く。ここで完全に崩れないのはユンの実力だ。空中で体勢を直し、着地した瞬間に笑った。


「っ、いいな……!」


その声に、熱が滲む。敵意じゃない。興奮だ。


西園寺はそのやりとりを見ながら、一度だけ息を吐いた。

そして、場をまとめるように前へ出る。派手な必殺技はない。だが、彼が動くと、全員の位置が整理される。無意識に“中心”ができる。


「凄い……」


百花が呟く。声は震えている。怖さと、憧れと、現実が混ざった震えだ。


次の瞬間、ユンがまた消えた。

今度は三方向から来たように見えた。速度で視覚が壊れる。だが西園寺は、迷わず一つの線だけを切った。最小の動きで、最大の結果を作った。


そしてジャクソンはオーバークロックを切る。目の光が一段落ち、息を整える。全力を見せない。見せすぎない、という判断だ。実は彼が一番冷静だったのかもしれない。


ドミトリも圧を落とし、肩の力を抜く。彼も同じだ。公開の場では“手の内”を深く見せない。


そこで審判の停止命令が出た。


会場が沸いた。拍手と歓声が一斉に立ち上がり、配信用のカメラが角度を変える。全世界がこの場を見ている。恐怖に対する“解答”として、この四人の戦いが消費されていく。


剛志も一緒になって拍手をしていた。

胸が熱い。純粋に、格好いいと思った。強さの種類が違う。自分の戦い方とは違う。それでも“到達点”として見える。短かったが素晴らしい戦いだった。


一方で、臼杵は顎に手を当て、目を細めている。

「……重力支配、対策考えないと死ぬな。正面からやると、動けなくなる」


万葉は短く「当然よ」と返し、視線を結界の発光ラインへ落とした。

「速度も圧も、全部“見せ場”でしかないのに、これってことね。……世界、広いわね」


その言葉は軽いのに、目は鋭い。刺激を受けている。あの万葉がだ。


『戦闘ログ、最高品質で保存完了。動作パターン、魔力波形、圧力変化、反応速度。解析を開始します』


イチロイドの声が少しだけ弾んだ。彼にとっては今回のデータ“ご馳走”なのだろう。


剛志は小さく笑って、頷く。

「頼む。俺たちの戦い方に落とし込めるなら、最高だ」


デモは大成功だった。

表向きは“世界の探索者が協調する”という絵ができたのだ。配信のコメントは熱狂し、安心を求める声が溢れる。


町田所長が隣で、視線を前に固定したまま小さく言った。

「ねえ剛志くん。……楽しかったでしょ」


剛志は一瞬だけ戸惑い、すぐに頷いた。

「はい。正直、めちゃくちゃ刺激的でした」


剛志はそう返した後、笑みを消し、呼吸を整えた。


少し前までは自分もこの状況を画面越しで見るだけだった。しかし、今はその現場にいる。その事実に興奮を覚える自分と、恐怖を感じる自分がいることがわかる。


その時だった。イチロイドの念話が剛志達の頭に響いたのは。


『上空にダンジョン間転移の魔力反応検知。警戒してください』


このまま終わるほど、甘くはないようだ。剛志達は次に来る何かに備え上空を見つめる。


本作品を楽しんで頂きありがとうございます。

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