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ゴーレムの可能性は無限大 〜副業で探索者になったら職業とスキルの組み合わせが良過ぎたみたいです〜  作者: 伝説の孫の手
鎌倉ダンジョンとゴーレム

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第178話 Cゴーレムの実力

鎌倉ダンジョン、巨木の森のさらに奥。


テトラボードは地面すれすれを滑るように進み、やがて一本だけ他よりも低く、横倒しになった巨木の前で速度を落とした。

倒木の向こう側は、木々の間隔がわずかに広くなっており、見通しもいい。


『この先、約八百メートル。ジャイアントホブゴブリンの反応が三体確認できます』


イチロイドの落ち着いた声が、二人の頭の中に響く。


「ちょうどいいね」


岩井剛志はテトラボードから飛び降り、手すりに軽く触れて停止の指示を出した。


「じゃあ、この先で“Cゴーレムのお披露目会”ってことで」


「お披露目って言い方よ」


臼杵健司も苦笑しながら地面に降りる。

足元は、人間の腰ほどの厚みがある巨大な落ち葉と、踏み固められた土が入り混じった、相変わらずスケールの狂った大地だ。


「まあ、実戦投入って意味ではあながち間違ってねえか。推奨レベル三百のジャイアントホブゴブリン三体で試すとか、初陣にしてはだいぶハードだが」


『マスターの現在レベルとゴーレム戦力を考慮すれば、十分余裕を持って対処可能な範囲です』


イチロイドは、いつも通りの冷静な評価を返す。


剛志は小さく頷き、片手を前に出した。


「じゃあ、行こうか。――コンポジットブロック、起動」


静かな号令とともに、彼の周囲の空間に、立方体の金属の塊がいくつも浮かぶ。


一辺が約7cmほどの大きさの、金属光沢を帯びたブロック状のゴーレムたち。

それぞれが、コアブロック・フレームブロック・シールドブロック・マジックブロックという四種類の役割を持ち、ふわりと宙に浮かび上がる。


全部で百体。


「今回の基本構成は――」


剛志は、視界に浮かぶ簡易ウィンドウを見ながら口にする。


「コアブロックが二十、フレームブロック四十、シールドブロック二十五、マジックブロック十五。

 “人型近接戦闘+魔法砲撃併用型”ってところかな」


「前線張る割に、フレームよりシールド少なめじゃね?」


臼杵が眉を上げる。


「本気で殴り合うならシールド増やしてもいいけど、今日は“動きの確認と変形のテスト”がメインだからね。ある程度バランス重視で」


『各ブロック、Cゴーレム・パターンアルファに移行します』


イチロイドの宣言を合図に、百体のブロックが一斉に動き出した。


ブロック同士が一定距離まで近づくと、ふっと引き合うように軌道を変える。

物理的なジョイントではなく、魔力の“引力”による接続。

磁石に似ているが、その強度と方向はイチロイドと剛志のイメージで自在に調整される。


十数秒も経たないうちに、空中で「骨格」が形作られていく。


フレームブロックが脊椎、肩、骨盤、四肢のラインを描き、

その周囲をシールドブロックが装甲のように覆う。

要所要所にコアブロックが埋め込まれ、胸部や頭部にはマジックブロックが等間隔に配置されていく。


やがて、巨木の間に、一体の“鎧をまとった小人”のシルエットが完成した。


全高はおよそ1.2メートル。

ジャイアントホブゴブリンではなく、普通のゴブリン程度の小柄なシルエットだが、その体が放つ威圧感はジャイアントホブゴブリンに引けを取らない。


装甲は完全な板ではなく、ブロックの集合体ゆえにところどころ隙間があり、その隙間から内部のフレーム構造が覗いている。

それでも、全体としては「小さな騎士の鎧」と言われれば納得してしまうほど、人型としての完成度は高い。


『Cゴーレム・パターンアルファ、展開完了』


イチロイドの報告に合わせ、Cゴーレムは両腕をわずかに動かしてみせた。

肩から肘、肘から手首にかけて、ブロックの並びが微妙に入れ替わり、可動域を最適化していく。


「いいね。映える。ちょっと小柄なのはご愛嬌だね」


剛志は素直に感想を漏らした。


「合体した瞬間、ちゃんと“格上の相手と殴り合えるビジュアル”になってるのは大事だよ」


「見た目の説得力ってやつか」


臼杵が肩をすくめる。


「まあ、実際あんだけブロック詰めてんだ。見た目だけってことはねえだろうけどな」


『合体時の合計ステータスは、各ブロックの単純合算値の25パーセント前後。

 剛志さんの現在ステータスと比較しても、近接戦闘力、耐久力、全てにおいてCゴーレム側が上回っています』


イチロイドの分析に、剛志は満足そうに頷いた。


「やっぱりゴーレム鎧の時からそうだけど、単純な足し算よりは減るにしても、ステータスが合算値になるのって冷静にえげつないね」


そんな中、三人の視線はすでに前方へと向けられていた。


巨木の間から、地鳴りが近づいてくる。


重い足音。

枝葉の擦れる鈍い音。


やがて、十八メートル級の影が、霧を押し分けるように姿を現した。


ジャイアントホブゴブリン。


通常のホブゴブリンをそのまま十倍に拡大したような姿だが、腰には人間の身長を軽く超える長さの棍棒をぶら下げている。

目つきは、通常種よりもいくらか鋭い。


『三体とも、こちらの存在に気づきました』


イチロイドが冷静に告げる。


「じゃ、行こうか。――Cゴーレム、前進」


剛志の指示に、Cゴーレムが一歩、前に出た。


足を踏み出すというよりは泳ぐように空中を移動するCゴーレム。

体勢が変わるたびに、ブロック同士の接続面がかすかに光を放つ。

魔力の“筋肉”が、フレームブロックの骨格を動かし、その動きに合わせてシールドブロックが位置を調整する。


その歩みは、静かで、滑らかだった。


対するジャイアントホブゴブリンの一体が、先んじて吠えた。

獣じみた咆哮とともに、棍棒を振り上げ、勢いのままにCゴーレムへと叩きつける。


真正面からの一撃。


Cゴーレムは、両腕を交差させるように構えた。

前腕部にはシールドブロックが集中的に配置されている。


衝突の瞬間。


鈍い音とともに、シールドブロックの一部が弾け飛ぶように外れた。


「おっ」


臼杵が思わず声を上げる。


地面に散ったブロックは、そのまま衝撃を逃すように転がり、土と落ち葉を巻き上げながら数メートルほど滑って止まった。


だが、Cゴーレム本体は――一歩、後ろに滑っただけで、倒れてはいない。


『接続面に負荷が集中したため、シールドブロック十個が意図的に“切り離しモード”に移行しました』


イチロイドが即座に解説する。


『結果として、全体にかかる衝撃は大幅に軽減されています』


「いいね。狙い通り」


剛志は満足そうに頷いた。


Cゴーレムは、棍棒を押し返すように両腕を振る。


その反動を利用して、今度はこちらが前に出た。

フレームブロックが軸を微調整し、体重と魔力を前足に乗せる。


そのまま、ジャイアントホブゴブリンの胸元めがけて、ストレート気味のパンチを叩き込んだ。


Cゴーレムの小さな体躯と巨体がぶつかる音。

ホブゴブリンの身体が、わずかに浮き、そのまま後ろへと吹っ飛ぶ。


「……火力は十分だな」


臼杵が肩をすくめる。


「推奨レベル三百のジャイアントホブゴブリンが、そのまま殴り勝てない時点で、もう答え出てるわ」


『先ほど切り離されたシールドブロック、再接続します』


散っていたブロックたちが、ふわりと浮き上がり、Cゴーレムの背面へと戻っていく。

今回は胸部装甲ではなく、腰や脚部など、別の部位として再配置されていった。


「衝撃受けた場所から外れて、別の場所の装甲に回るのはアリだな」


臼杵が呟く。


「壊れかけのパーツを前線から外して、まだマシなパーツに差し替えるって感覚か」


「それが“考える必要もなくオートでできる”っていうのが、Cゴーレムの強みだよね」


剛志も同意する。


「全部イチロイド任せだけど」


『光栄です』


軽い冗談を返しながら、イチロイドは次の指示を出す。


『パターンアルファから、パターンベータに移行します。今度は機動力を重視した形態で試験を行います』


Cゴーレムの下半身が、ブロック単位で崩れた。


崩れながら、組み替わる。


人型の脚が、四本の“獣脚”へと変化していく。

フレームブロックが脊椎から尾のようなラインを伸ばし、その周囲にシールドブロックが装甲を形作る。


上半身は、やや前傾姿勢のまま残しつつ、肩の位置を低く。

全体としては、「四足獣型の戦闘ゴーレム」に近いシルエットへと変わっていった。


『Cゴーレム・パターンベータ

 構成ブロック:合計一〇〇体(変更なし)

 重心とフレーム比率を再配置し、加速と方向転換を優先したフォームです』


イチロイドの説明通り、動きは先ほどまでとは段違いだった。


四本の脚が、大地を蹴る。

俊敏性を生かした速度で、ジャイアントホブゴブリンの懐へと潜り込むと、そのまま横合いから体当たりを叩き込んだ。


ホブゴブリンの脚が浮く。

バランスを崩した巨体が、横倒しに森の地面へと倒れ込んだ。


「おお、こっちはこっちで分かりやすくえげつねえな」


臼杵が笑う。


「人型のときより荒々しさが増してないか?」


「フレームブロックの再配置で、前後の推進力にステータス振ってるからね」


剛志は、半ば技術者の顔で説明する。


「代わりに、上半身の細かい動きはちょっと鈍くなってる。

 でも“ぶつけて転ばせる”だけなら、この形態の方が向いてるかな」


倒れたジャイアントホブゴブリンの胸の上に、Cゴーレムが乗る。


四足型のまま、上半身だけを人型に近いフォルムへと再変形させ、拳を振り上げた。

フレームブロックが肩と腕に集まり、シールドブロックが“打撃用装甲”として再構成される。


そのまま、地面ごと叩き割るようなパンチが、ホブゴブリンの顔面に連打された。


数合ほどの打撃で、巨体が煙となって消える。

残されたのは、やはり異様に大きな魔石だけだ。


「近接に関しては、もう“合格”でいいんじゃね?」


臼杵が言う。


「これ以上は、完全に趣味の域だろ。見た目とか動きの好みとかさ」


「まあ、細かい調整はあとでやるとして……」


剛志は視線を前方に向けた。


残り二体のジャイアントホブゴブリンが、こちらに向かって棍棒を構えている。

さっきの一体より、いくぶん警戒心が増しているように見えた。


「――そろそろ、“マジックブロック”の本領も試してみようか」


『了解しました。マジック集中砲撃フォームに移行します』


Cゴーレムの背中側に配置されていたマジックブロック十五個が、ふわりと浮かび上がる。


肩・背中・胸部へと再配置され、いくつもの“魔法砲塔”を形作っていく。

コアブロックから魔力が供給され、マジックブロック同士が魔力線で接続される。


パターンガンマ――即席の魔導砲台形態。


Cゴーレムは、そのまま上半身を起こし、両腕を左右に広げた。

フレームブロックが支柱の役割を強め、シールドブロックが下半身を安定させるために重心を低く固める。


『マジックブロック十五基、同期完了。魔力伝達効率、八二パーセント』


イチロイドの報告とともに、マジックブロックのひとつひとつに魔法陣が浮かび上がる。


今回は炎の陣だ。


属性そのものは、剛志が普段から使っている汎用攻撃魔法と同じだ。

ただ、合算値になっているステータスが今までのものと大きく異なる。


「ジャイアントホブゴブリン相手に試すには、ちょっとかわいそうかもだけど……」


剛志は、少しだけ申し訳なさそうに呟いた。


「まあ、やるか。――発射」


次の瞬間。


Cゴーレムの両腕から、大きな炎が放たれた。


その炎は、Cゴーレムからホブゴブリンまでの軌道を正確になぞるように飛んでいく。


標的の巨体が、炎に包まれる。


防御のために棍棒を振り回すが、全くの無駄だ。

二体のジャイアントホブゴブリンは、数秒と経たないうちに崩れ落ち、そのまま煙となって消えていった。


「……うん」


剛志は、小さく息を吐く。


「十分だね」


「本当にそうだな。むしろここではオーバースペックなんじゃないか?」


臼杵はあっけにとられながらも、口元に苦笑を浮かべる。


「集団魔法は前からあったけどよ。こうやって移動も簡単にできるのをみると完全上位互換って感じだな」


戦闘が終わり、Cゴーレムはゆっくりとフォームを解いていく。


マジックブロックがまず外れ、続いてシールドブロックが装甲から離れて浮遊状態に戻る。

最後にフレームブロックとコアブロックがばらけ、全体が“百体のブロック”という原点の姿へと還っていった。


静けさが戻る。


巨木の森の中、倒されたジャイアントホブゴブリンが残したのは、やはり巨大な魔石だけだ。


剛志は、そのうちの一つ――ジャイアントホブゴブリンの魔石を拾い上げた。

バレーボールをさらに大きくしたほどのサイズで、中からは濃密な魔力が脈打っている。


「近接も、機動も、魔法も。ひとまず“全部できる”ってことは分かったね」


彼は魔石を見つめたまま言う。


「接続の弱さは、さっきみたいに“切り離して逃がす”って思想でどうにでもなる。

 むしろ、固定ゴーレムよりも“死なない形”を作りやすいかもしれない」


「壊れる前に外れるってのは、確かに利点だな」


臼杵が頷く。


「あと、戦闘終わったあとに“バラしてメンテ”できるのもデカい。ダメージの大きかったブロックだけ差し替えればいいってのは、コスパ的にも優秀だ」


『欠点を挙げるとすれば、制御負荷が高い点ですね』


イチロイドが続ける。


『一〇〇体前後なら私の処理能力で十分カバーできますが、これをさらに増やす場合は、補助AIゴーレムの導入や、制御系コアブロックの増設も検討すべきでしょう』


「まあ、その辺は今後の課題だね」


剛志は、魔石をテトラボードの収納スペースに放り込みながら言う。


「でも少なくとも――」


彼は空中に浮かぶ百体のブロックたちを見上げた。


「“合体前提で運用するゴーレム”ってアイデアは、完全に手応えありだ。 Cゴーレム、うちの主力の一角にしていこう」


『光栄です、マスター』


イチロイドの声は、どこか嬉しそうだった。


臼杵も、肩を軽く回しながら笑う。


「これでまた一つ、剛志の戦術の幅が広がったってわけだな。」


そして三人と百体のブロックは、再び巨木の森の奥へと視線を向ける。


鎌倉ダンジョン。


スケールがおかしいだけの巨大なフィールドは、いつの間にか、彼らにとって“新しい実験場”としての顔も見せはじめていた。


本作品を楽しんで頂きありがとうございます。

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