第176話 振り返りと案出し
鎌倉ダンジョンに入ってから、どれくらい時間が経っただろうか。
巨木の森をヘキサボードで滑るように進み、ジャイアントゴブリンたちを何度か片付けたあと――三人は、ようやく「腰を落ち着けられそうな場所」を見つけていた。
そこは、巨木の幹が自然に円を描くように並んだ、ぽっかりとした空間だった。
頭上には分厚い葉の天井があるものの、ところどころ枝葉が途切れており、柔らかな光が斑に差し込んでいる。
落ち葉と少し踏み固められた土が混じった地面は、戦闘跡も少なく、休憩するには悪くない場所だ。
ヘキサボードがそっと高度を落とし、地面に着地する。
ゴーレムの足回りから伝わるわずかな振動が消えたところで、ようやく一息つける空気が広がった。
『周囲百五十メートル以内に、大型の魔物反応はありません。小型の動体反応はいくつかありますが、いずれもこの方向には近づいていません』
イチロイドの念話が、二人の頭に届く。
「よし、じゃあここを一旦“鎌倉ベースキャンプその一”ってことで」
岩井剛志は軽く伸びをし、ヘキサボードの縁に腰を下ろした。
「せっかくだし、ここで前回の権蔵戦の振り返りと、ゴーレムの今後の運用について話し合っておこうか」
「権蔵の話をここでされると、ちょっと胃がキュッとするんだが」
臼杵健司も隣に腰を下ろし、頭をかきながら苦笑する。
「まあ、あん時のゴーレムの活躍がなかったら、今こうして鎌倉でのんびり作戦会議してる余裕もなかったわけだしな。振り返りってのは大事だ」
『権蔵戦で実際に稼働していた主力ゴーレムのログは、一通り整理が終わっています。いつでも参照可能です』
イチロイドの落ち着いた声が返ってくる。
剛志は頷き、手を前に出した。
「じゃあまずは、主役から」
指先から魔力が流れ、空間に複数の気配が生まれる。
やがて、ヘキサボードの周囲に、無人の鎧がずらりと並び立った。
どれも人型のシルエットをしているが、肩や腕、脚、指先など、各部位が細かいパーツの集合体になっている。
近くで見ると「一体の鎧」というより、「無数の小型ゴーレムが鎧の形を模して連結している」と表現した方がしっくりくる構造だ。
「改めて見ると、よくまあこんなもん思いついたよな、お前」
臼杵が感心とも呆れともつかない声を漏らす。
「これが、権蔵の爆発から俺たちを守ってくれた“ゴーレム鎧”だね」
剛志は、一体の鎧に手を置きながら説明を始めた。
「基本構造は、指先サイズの小型ゴーレムの集合体。
パーツごとに役割が決まっていて、腕なら“衝撃を受け流す関節ユニット”、肩なら“衝撃を受け止める装甲ユニット”って感じで、組み換えも利く。
状況に応じて、鎧として人間が着てもいいし、無人で飛び回って盾にもなる万能タイプ」
『権蔵戦では、マスター自身を守る防御用と、臼杵さんや臼杵さんの雪壁を補強するクッション役として大量投入していましたね』
イチロイドが補足する。
『爆発の瞬間、多層に重ねて配置することで、衝撃を分散させる効果を最大限に引き出していました』
「おかげで、ギリギリ生きてるわけだしな」
臼杵は、鎧の胸板を軽く拳で叩く。
そんなゴーレム鎧のステータスがこれだ。
【ゴーレム名】:ゴーレム鎧
【説明】:複数隊の小型ゴーレムが連結することで完成するゴーレム。指から腕、肩など、細かいパーツの集合体で、人型の鎧のようになるゴーレム。
【ステータス】
名前:
種類:ゴーレム鎧
スキル:連結・共有・空中移動・共鳴
レベル:0
HP:80,000/80,000 (100体連結時)
MP:8,000/8,000 (100体連結時)
攻撃力:11,000 (100体連結時)
防御力:8,500 (100体連結時)
器用:16,000 (100体連結時)
速さ:10,300 (100体連結時)
魔法攻撃力:5,500 (100体連結時)
魔法防御力:5,500 (100体連結時)
【必要器用値:3,000】 (1体当たり)
【消費MP:1,200】(1体当たり)
【消費材料:ブラックアイアン×5】
「……改めて数字で見ると、普通に一流探索者クラスだな、これ」
臼杵が目を細める。
「100体連結でこのステってことは、一体一体はそこまでじゃねえけど、束ねた瞬間に実力を発揮する感じか」
「そうだね。分散させれば数で押せるし、まとめれば一枚岩として防げる。
“連結・共有・共鳴”のスキルで、衝撃や負荷もある程度なら分け合えるし」
『空中移動も、ヘキサボードほどではありませんが、立体的な配置調整には十分な性能です』
「今回は元々あったゴーレム鎧をアップデートさせる形で、思わぬ強化ができたって感じだったけど。十分活躍してくれたね。今後のゴーレム運用の根幹になる気がするよ。」
そう言って剛志はゴーレム鎧についての感想をまとめた。
『次に活躍していたのが、ナノゴーレムですね』
イチロイドの言葉と同時に、地面の上で砂のような粒子がわずかに蠢いた。
それは、光に当たるときらりと金属光沢を放つ、“極小のゴーレム”だった。
「こいつも、ちゃんとまとめたんだな」
剛志が頷き、視界にもう一つのステータスウィンドウを呼び出す。
【ゴーレム名】:ナノゴーレム
【説明】:全長1mmの小型ゴーレム。その大きさから考えるとかなりの力持ちではあるが、一体一体の強さはそこまでではない。特徴として一瞬でその全長を1mmから1cmに増やすことができる
【ステータス】
名前:
種類:ナノゴーレム
スキル:拡大・縮小
レベル:0
HP:500/500
MP:400/400
攻撃力:500
防御力:500
器用:800
速さ:200
魔法攻撃力:100
魔法防御力:100
【必要器用値:3,200】
【消費MP:300】
【消費材料:中級魔石】
「権蔵戦だと、最後の仕上げで権蔵の気道を圧迫してトドメを刺そうとしてくれたゴーレムだね」
剛志が説明する。
「一体一体のステータスだけ見ると、そんなに大したことないけど、“全長1mmから1cmに一瞬で変わる”っていう特性が強い。
隙間に入り込んでから拡大して“楔”になったり、表面にまとわりついて衝撃を分散させたり……やりようはいくらでもある。でも剛がやった運用が一番えげつねえがな。」
前回の権蔵戦では、最後のトドメとしてこのナノゴーレムたちに権蔵の口の中に入ってもらい、体積を増やすことによって気道を塞ぐという防ぐことも難しいとてつもない方法を実施してもらった。
まあ、この方法は相手に知られていると対策されてしまうし、ナノゴーレム自体が単体の出力がそこまでないため強力な戦闘職の相手では力技で抜け出される可能性もある未完成の戦法だ。
しかし、だとしても防ぎようのない相手からすると悪魔的な方法であるため、場面さえ間違えなければ強力な戦術になる。
また、それ以外にも小さいゴーレムというものは使い道がたくさんあるため、戦闘以外の部分ということを考えると、このナノゴーレムの活躍する場面はかなり広いため、このゴーレムもどんどん伸ばしていきたいところだ。
こうして改めて前回の権蔵戦に投入されたゴーレムたちを振り返ると、ある意味剛志のゴーレム運用の一つの答えのようなものが見えてくる。
剛志の強みである、無制限に数を増やしていけるという部分を最大限に活かすとなると、どんどん一体一体のゴーレムを小型化していくという方針は、とても相性がいいといえる。
権蔵が召喚した”タイタン”レベルの超巨大ゴーレムも剛志が作ろうと思えば作ることはできる。でも、作ったとしても枠は1つしか消化しない。だとするなら合体してタイタンレベルになる合体可能ゴーレムを無数に所持しているという方が強いということだ。
「こう見返してみると、結構いいヒントになる気がするね。合体して一つになる前提のゴーレム。小型化したゴーレム。どちらも結局は俺の最大の利点である所持制限無視のスキルとのシナジーがいいってことだよね。」
「確かにな。そのおかげで剛志は俺よりもレベルで言うと半分程度なのにも関わらず、俺の何倍もの戦果を叩き出しているわけだしな。そこを突き詰めるってのが一番なのは間違いないな」
『マスターの得意領域に特化するというのは良い考えだと思います。ただ、問題はどこまで行ってもマスターの器用値のステータスがネックになってしまう点ですかね。合体前提のゴーレムは可能性がまだありそうですが、小型化は現時点ではこれ以上の小型化を実施するのは難しそうです」
イチロイドの指摘を受け、剛志は確かにと思った。
例えば将来的に細胞レベルのゴーレムが作れたとすると、医療的なことにも使用できるだろうし、一個の大きさが小さく成ればそれだけ合体した時の密度や滑らかさなどが変わってくる。
しかし、そこには器用値というアイデアだけではどうしようもない現実が存在する。これはレベルを上げていくしか解決方法が基本ないのだ。
「それもそうだね。まあ、だとしても合体前提のゴーレムってのはまだまだ考察の余地はあると思う。例えば色々な組み換え可能なパーツがあって、それらを組み合わせることができるってなればそれだけで戦術が広がるし、今は中に人が入る前提だから内側が空洞だけど、そこも埋めることができる。まずはそっちの方針でやれることを考えていこうか」
そう言って、臼杵とイチロイドの二人にアドバイスを求める剛志。
剛志のゴーレム作成のための相談会だが、臼杵とイチロイドもノリノリで案を出し合ってくれ、どんどんと形になっていくのだった。
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