第47話 好奇心
次の日から、ボクはアルにくっ付いて森の中へ入っていった。もちろん、アルは剣の稽古のために魔獣を探してる。
もう、この辺の森では、あまり魔獣を見なくなってしまった。
「センセ、もうこの森じゃ稽古にならないよ~」
アルは、剣を抜いて振り回しながら、頬っぺたをちょっと膨らませて、愚痴をこぼした。
「まあ、気長にいこうや……それに、魔獣ばかりそなに出て来られても、みんなが困るだろ?」
「そっか、それもそうね!……この森の魔獣は、全部あたしがやっつけちゃったもんね!」
とても、嬉しそうにアルは、森の中ではしゃぎまわって喜んでいた。
「あ!センセ……ラビッシュよ!」
「うん、ちょっと待って、今、見てみるから……」
ボクは、目を凝らしてラビッシュを見ると、全身が緑色に光っていた。
「ああ……やっぱりラビッシュは、君よりも弱いって、映るよ!」
「そりゃ、そうよ!今じゃ、ラビッシュは剣の一振りで、何匹いても一掃できるもん!
……エイッ!………≪シュワワワーーーッシュ≫………ほらね!」
「ウーン!流石アルだ、10匹ぐらいのラビッシュが、一瞬で居なくなったね……」
「ねえセンセ!もう少し奥へ行ってみましょ…………この奥にね、大きな湖があるらしいの!ねえ、お願い!」
「よく知ってるね、アル」
「この間ね、お母様から地図をいただいたの。
……あたし達の村の…………昔の地図だって。
多分お母様が、子どもの頃の地図らしいわ。
…………だから、魔王が世界を騒がす前よ、ねきっと!」
最近のアルは、15歳の誕生日を過ぎてから、一段と稽古も頑張っている。毎日のように森に出かけて、魔獣を探して戦うんだ。
家の近くの森で遭遇する魔獣もほとんど同じで、少し飽きてきているかもしれない。
それでも、ボクは戦うのは怖いので、アルには無理をしないようにいつも家の近くで過ごすようにしている。それが、アルには少し不満なのかも知れない。
今は、きっと戦えば戦うほど強くなるような気がしているんじゃないかと思うんだ。
「うん、じゃあ、今日は少し奥まで行ってみようか?」
ボクは、渋々アルの提案を飲んだ。
「やったー、ありがとう、タロウセンセ!」
そう言って、アルはボクに抱き着いて嬉しそうに笑った。そして、何もない森の中で剣を振り回しながら、奥を目指して歩き出した。
ボクも、急いで後を追ったが、最近ではアルの歩くのに追いつくのが疲れるようになってきた。
あんなに重い剣を片手で振り回した上に、こんな速さで森の中を歩くなんて、もういっぱしの冒険者だと思った。
昔は、この世界にも冒険者は居たようなのだが、“悪魔の1年”の時、魔王に戦いを挑んだほとんどの冒険者は、魔王じゃなくて、その手下の魔獣達に殺されてしまったそうだ。
折角魔王退治に挑んだのに、きっと冒険者達は、無念だったと思う。
ヒューーーーウ……ヒューーーウ……ヒューーーウ……
「センセ、何か聞こえるよ!」
ボクは、急いで周りを見た。鬱蒼と茂る草と空も見えないくらいの高い木に囲まれた森では、魔獣でも、普通の動物でも、目の前に現れなければ、見つけることはできないだろう。
「少し、先を急いで、早く湖の近くへ行こう!」
「うん、分かったセンセ!……じゃあ、あたしにつかまって!」
急に、アルは、剣を背中の鞘に仕舞った。そして、ボクの手を掴むと、ヒョイとボクを肩に担いだ。
「お、お、おいアル?……こんなことして重くないかい?」
「何言ってんのセンセ、あたしね、センセくらい一人で運べるようになったのよ……じゃあ、走るわよ!」
アルは、ボクを担いだまま、森の中を全力で走り出した。肩に担がれたまま、ボクは風を切って進む速さに驚いて、思わずアルの上半身にしがみ付いてしまった。
華奢に見えたアルの体が、なんと逞しく力強い感じがして、また、驚いてしまった。
(つづく)
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