069 野営地の屋台
案の定待ち合わせだった。
ベルレはイルミカルタが入った箱をセレステ商会に預けた。
別経路でサフィラス離宮まで運んでくれるそうだ。
魔肢で持つから重くはないけど嵩張るのは確かだし、私の気が抜けて落としたら目も当てられないので良かった。
セレステ商隊の主目的は宿場町の民家へのルート配送のようで、箱や袋を各家の納屋に運び込んでいた。
その傍ら野営地の一角に寄せた馬車で陣地を作り、箱を並べ、臨時の屋台を出した。
日暮れ前の薄暗い野営地にぽつぽつとランタンの明かりが点っていく。夜店みたいでわくわくする。
大きな商隊はわりとこうして野営地で臨時屋台を出してくれる。
他の旅人がいなければ当然やらないが、大きな商隊の移動には小さな隊や個人がくっついてくるものだ。
こういう野営地での屋台は売上目的より商品の紹介や確認、若手の商会員の客あしらいの練習なんだって。
だから覗きに行く旅人達も買わされるというプレッシャー無しにウィンドウショッピングを楽しめるし、商人とのやりとりの実践にもなる。意外とwin-winなのだ。
そしてセレステの横並びに個人の商人がちゃっかり出店してたり。
こっちは売上目的だけど、こういう場合「場」の仕切りはセレステになるので、トラブルがあればセレステが仲裁に入ってくれる。
盗みだの喧嘩だの起こったら行方不明者が出るよ。こわいね!
もちろん商人側も行儀が悪いとしばかれる。
ごくごく小規模な商人市だよなと思う。
いやこういうのが発展して商人市になったのかな。
私がうずうずしていると、チャロ婆ちゃんが支度をしてくれた。
洗いざらしのスカーフで髪と首を巻き、チャロ婆ちゃんの上着を貸してくれる。
薄暗くなってきたこともあり、ぱっと見では普通の農家の子っぽい仕上がりだ。
私は財布を持って元気に外に出た。
瓶の売り上げで稼いだ小銭が火を噴くぜ。
日が落ちてくると本当に夜店って感じがして気分が上がる。なんでだろうね。
このセレステ隊は食料品を中心に運んでたみたい。小分けにした穀物や豆類、スパイスっぽい乾燥した何かの種や葉の束などが並ぶ。
ずっと前にシェルリにもらった、葉っぱでくるんだ飴があったので一個買った。こういう味見の量で買えるのもいいところ。
口に入れると記憶の味よりハーブっぽい風味が強かった。これはこれでいいな。
まだ幼い感じの少年が店番にいたので、スパイスを片っ端からたずねていった。
少年はちょこちょこメモ帳を見ながら一生懸命説明してくれた。
後ろで年嵩の商会員達がうんうんと頷いている。説明内容が間違ってたら飛んでくるだろうから、合ってるんだろう。すごいなあ、めっちゃ覚えてるなあ。
私はお礼を言って離れた。勉強になった。
個人商人が一人、店を広げていたので覗きに行った。
荷馬車のテールゲートを下げてそこに布を敷き、売り台にしている。
扱ってるのは木彫りや天然石のアクセサリーだった。普段使いのものをセンス良く、みたいなコンセプトかなあ。引っ掛かりのないツルッとしたシルエットに精緻な模様が彫られている。
簪みたいな棒状のヘアアクセサリーが並んでて珍しかった。
「え、棒?」
声が聞こえて見上げると、売り台をのぞき込んでいる女性二人連れがいた。
引き締まった体に動きやすい恰好をしていて、腰に剣を吊っている。護衛の冒険者か傭兵なんだろうな。
そういう職業じゃなくても街道を旅する人は腰にナイフぐらいは差してるけど、それはあくまで道具の範囲だ。殺傷用の「武器」として装備している人は概ね冒険者なり傭兵なりで、なんかな、やっぱり独特の雰囲気がある。
アホのジーナだって言動は気安かったけど、ちゃんと剣士としてのオーラはあった。
商人のお兄さんがえっとえっと、みたいにアワアワしているので、私は調子に乗って話しかけた。夜の暗さは人を外向きにさせる。
「お姉さん、違うよー。髪をまとめる簪だよ。ちょっと借りていい?」
私はツヤのある飴色の本体に透かし彫りを入れた一本を取ると、女性の一人に屈んでもらい、髪をくるくるぎゅっとまとめた。
グラディみたいなウルトラストレートだとコツが要るけど、お姉さんはゆるいウェーブだったので簡単にキマる。
「えっ?! 棒でまとまるのー?!」
「えー、しっかり上がってるじゃん。すごいすごい」
「派手に動いたら崩れるけど、ちょっと上げておきたい時とか便利でしょ。お姉さんの髪質だとこれでフワッとまとめると色々と応用が利くよ」
つい楽しくなって勝手にセールスしちゃったけど、売れたから許して兄ちゃん。
私は白木に花を彫り込んだボタンを買った。
小さいのに花弁一枚一枚綺麗に彫ってあって、その上で丁寧に磨いてある。指で触ってもトゲが当たらない。細かいかもだけど、こういうところちゃんとしてるかどうか結構違いが出る。これはいい品だ。
商人のお兄さんはセールスのお礼と言って値引きしてくれた。わーい。
工場で機械でバリバリ生産してる世界じゃないから、同じものがどこにでもあるってことはない。基本的に一期一会だ。なので予算の範囲ではあるけど、いいなと思ったら即買う。不要になったら人に譲るなり、売ればいい。
服の襟元にでも縫い付けようかなーと思っていた花のボタンは、とりあえずシェルリに見せた。
ベッドに入ってもずっと眺めていて、グラディに寝ろと叱られていた。
すまん。
◇ ◇ ◇
翌朝の朝食も美味しかった。
オムレツっぽい卵料理と採れたて葉野菜サラダ、柔らかいパン、そして籠盛りキトルー。
キトルーは様々な色と形があった。レモンっぽい楕円もあるし、甘夏みたいに果皮がゴツゴツしたものもある。
「どれがおいしいの?」
「勘と運ですわ」
そんなんばっかりだな!
私はオレンジ色をした丸いものを取った。まあ普通みかんといえばこんな外見だろう。
味は案外ちゃんとオレンジっぽかったのでよかった。美味しかった。
ベルレは黄色いレモンみたいな実を取って、噛り付いて微妙な顔をしていた。
……ハズレたんだろうな。
商隊や他の旅人がみんな出発してから、私達は遅くに出た。
馬車はチャロ婆ちゃんのところに置いていく。婆ちゃんがなんかいい感じに処理してくれるのだろう。
荷物はプレシオに積み、ここからは徒歩だ。森を突っ切っていくんだって。
婆ちゃんに手を振って、のんびりと道なき草原を歩いていく。
土地が空いてりゃすぐ木が生えそうに思うが、そうでもないみたい。地下で下草達の根がギッチギチにひしめいていたり、岩盤層があったり。
過去のドラゴン戦役で汚染された地域というケースもある。
この辺りは単に草が強いだけみたい。
お昼ご飯と休憩を軽くとって、森に入った。
下草を豪快に刈っていくシェルリ、飛び出した小動物を素早く狩るグラディ、仕留められた獲物を拾っていく私、プレシオを引くベルレ。おお、パーティっぽい。
岩場では魔肢を使って体を支えて登った。
苔生した岩を掴んでも滑るということがないのでかなり有用だ。なんで滑らないんだろ。苔を無視して岩に直接作用してるからかな。
超人達は危なげなく登っていくので、私とベルレは普通にちゃんと気を付けて登る。プレシオは駆け上がっていったので知らん。上で会えるだろう。
魔肢に集中してると、教官に指摘された。
私は集中のあまり本来の腕の感覚が邪魔になって固く腕組みをしていたんだけど、それはよくないって。
「それですと何かに集中していることが丸わかりでしてよ」
あー、うん、なるほどなあ。その通りだわ。
魔肢の目に見えないというアドバンテージをハナから捨てるなんて勿体ない。
あくまで自然体に。なんにもしてませんよ、という体で。
そんなわけで魔肢で岩や木を掴んでる間、自前の腕は意味もない動きをしている。さもバランスを取ってまーす、みたいにふわふわ動かしてる。
今は突然羽ばたく奇妙な人でしかないが、練習あるのみだ。
たまに村や町に寄って買い物をして移動を続け、ちょっと文明地に落ち着きたい……と思った頃に、私達は例の昇降岩洞窟にたどり着いた。
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