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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第二章

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063 再会と失われたもの

 出入口の扉がゆっくりと開き、石柱からの神秘的な光に照らされて、倒れるほどお美しいお姿が現れた。


 光沢とハリのある純白の神官服が輝かしい。大きく開いた裾から見えるおみ足も美しい。背後でマントの様に翻る御髪もお美しい。目力の意味を判らせられる瞳と、優雅に弧を描く唇。

 実際私は倒れた。と言っても既に床に伏していたから、更に伸びた。

 ひぃ、お美しい。久々に目にすると破壊力半端ないな! もう神の姿なんて彼女でよくない? 好みの違いはあっても納得はするじゃろ。


「あら、どうしたの」


 ミカルタ布団の下で横倒しになっている私の姿がかなり想定外だったようで、グラディは慌てて駆け寄ってきた。小走りなのに全然靴音しないや。


「えっ、グラディどうして?」


 今更だけど場所を伝えたのはほんの少し前なのに、そんな即来るとかある?!

 転移魔法でもあんのか。


「それはまあ後ほど。ところであちらの御婦人達はアレアの敵? 味方?」

「敵です」


 館長達の方を優雅に手で指し示したグラディに私は即答した。

 グラディはまあそうですの、と軽く返事をすると、くるっとダンスのように腕を振り、その場で半回転した……ように思えた。

 元の位置に戻ると何事もなかったように、さあ立って、と私に手を伸ばす。遠慮なくその手を取ると、どこかでドサッとでもいうような音がした。

 ……うん。大体察したのでそっちは見なかった。


 立ち上がりたいんだけど、背に乗ってるミカルタがまだ私を押さえ込もうとしてくる。でももうガタガタなので力はなくて、逆に振り落としたら壊れそうで怖い。私が困っていると、


「ネウロアークの魔動人形ですわね」

「私を取り押さえるよう命令されてて。力は全然入ってないんだけど、振り払うと壊しそうで……壊したくないからどうしようかと」

「ですわねえ……少々お待ちくださいな」


 グラディは私の背後に回って何かごそごそとやっていた。

 しばらくするとミカルタの力が抜ける。私は慌ててミカルタを支えようとしたが、グラディがぬいぐるみでも抱え持つみたいにしてミカルタを保持していた。


「緊急停止させました。後でベルレに直してもらいましょう。きっと喜びますよ」


 喜ぶのか。それは良かったな。

 ミカルタはこのままガメる気満々でいるけど、イルミカの方はどうなってるんだろう。ヒューに追従するのかなあ。


「それで、あちらの剣士と少年は?」


 グラディは背後を見もせずに石柱の向こうに隠れている(推定)ジーナ達を手で示した。


「味方です」

「判りました。――あなた方、落ち着いたらお顔を見せてくださいな。わたくしはアレアの……アレアの何かしら」


 急にそわそわし始めたグラディに、私も一緒に首を傾げる。

 え、第三者に紹介するならなんだろう。

 教官っていうのもいかついし、保護者ではあるけどママっていうには違うし。それにどっちかというとカーチャンはシェルリの方だしなあ。友達というには私が半人前すぎてちょっと……。うーん、イメージ的には近所に住んでてよく遊んでくれる、お世話になってるお姉さんかなあ。


「姉……みたいな……」

「姉?!」


 グラディがすごい食いついた。

 えっ、ダメだった? 図々しかった??


「えっ、なんか……なんかそういう感じ? あっ、違った?」

「いいえ姉でよろしくてよ、わたくしはアレアの姉ですわ! アレアはわたくしの妹!」


 洞窟に反響するほど大きな声で宣言された。

 グラディがいいならそれでいいけど……いいのかな。私は嬉しいけど。

 場所もタイミングも弁えず私達は突然の姉妹宣言に照れ照れとしていた。



 ◇ ◇ ◇



 グラディ達と別れたのは随分前のように思ったんだけど、よくよく数えてみたら半年ぐらいだった。

 そう思うと濃い半年だったな……。


 グラディが手頃な石筍を輪切りにして簡易のスツールを作ったので、そのままそこで座って落ち着いた。

 ソファは血生臭いことになっている気がするので戻る気になれない。

 カリーナは……一応マットレスに横にしておいた。

 ジーナ達は出てこない。グラディに聞いたらだいぶ混乱してたみたいだから少し眠ってもらったとのこと。どうやって……いやいいけど。


「シェルリと一緒に来たのですけれど、外で所用がありましたの。済ませたらこちらに来ますわ」


 ベルレとはとりあえずここで待ちあわせ? らしい。

 シェルリを待っている間、私はセルバを出てからここに来るまで、ここであったことを大まかに話した。

 話してるうちにグラディが傍にいてくれる安心感に徐々に気が抜けていって、若干べそべそしてしまった。


「アレアも少し眠った方がよろしいかもしれませんね」


 そうかも。ソファ……には戻りたくないので、私はマントを丸めて枕にすると、潔く床に寝そべった。

 しばらく脱力してたらグラディがソファから毟り取ってきた座面をくれたので、そちらで寝直した。だったらソファを置いてあるところに戻れって話だけど、向かいのソファにどうせ死体が二つあるんでしょう?! ちょっとイヤ。


 グラディは枕元で話の続きを聞いてくれた。

 私がヒューのことを話すと驚いて、それから納得したように頷いた。


「ヒューベルテュスのこと知ってるの?」

「よぉく存じておりますわ。南方から帰ってきたらしいとは聞いておりましたけれど、こんなところで出会うなんて……と思いながら『ご挨拶』したのですが。走って逃げるなんて。判断は良いのですが、本当にあの子はツキがない」

「ツキがない?」


 グラディは眉尻を下げて、困った様な、笑いたいのを堪えるような、複雑な表情をした。


「あの子、運は良いのですよ。でもなんだかいつも最後の最後でツキがないとしか言い様のないことになりますの」


 でも同情すると怒りますの。面倒臭いですね。とグラディは結局笑った。近所の洟垂れ悪ガキの成長を微笑ましく見守るマダムみたいに。あいつは全然微笑ましくないけど。

 でもそっか……本当に同じ「丘の神官」なんだ。あの子呼ばわりって、グラディとヒューの年齢差が気になるけど、それは今はいいとして。


「黒幕はヒューじゃないの?」

「それは違いますわね。しいて言うのでしたら、ヒューは『何もしなかった』のでしょう」

「それは……その、咎められないの?」


 だって館長とのやりとりとか。あの個室での同士討ちの跡とか。あれは少なくともヒューが何かやったんだと思う。

 直接ヒューが手を下したのではないとしても、あいつに罪がないとは思えない。

 なのにあまりにも普通にグラディが話すから。


「咎めますよ。わたくしの視界に入ったら殺すことにしておりますよ。だから逃げたのでしょう? ただまあ……今回は外にシェルリがいましたから。お任せしました」


 えっ殺すんだ?? シェルリが……殺すの? いや殺しそうではあるけど。

 一体どういう関係なんだろう。ミニステルの件もあるし、さすがにそこら辺ちゃんと聞きたい。あー、でも眠いや。考えがまとまらない。

 あ、あと……


「大部屋の子供達……」

「まずはお休みなさいませ。起きたら、忙しくなりますわよ」


 そうだね。色々考えることあるけど、後で。

 おやすみなさい。



 ◇ ◇ ◇



 ――で。


 私が仮眠してる間に合流したシェルリとグラディは、一通りこの地下神殿を調べたそうだ。上の廃村跡も調べ、ついでに馬車に残っていた物資も搬入。

 館長達の遺体は空き部屋に片付け、相談の結果ジーナ達も今少し眠っててもらうことにして、こちらも空き部屋のベッドに寝かせ、石柱のあるこの部屋でおもむろに火を熾してバーベキューを始めたあたりで私が起きた。


「いいにおい……」


 強張った体のままズルズルと這い寄っていくと、シェルリが背を撫でてくれた。スッと体の調子が良くなる。ああー、プロ。プロの技。プロ神官。


 起き上がって改めてシェルリを見上げると、別れた時と何にも変わってなくて。一見無表情に見えるエルフ顔も変わらなくて。

 そりゃ半年で何が変わるとも思えないけど。

 なんだかすごく懐かしくて。

 あっという間に視界が潤んできた。


 うわあ。私、子供みたい。

 いや子供なんだけど、中身は違うじゃない。

 でもこうやって野営の焚き火囲んで、グラディがいて、シェルリがいて。ベルレはいないけど、なんだか急に時間が巻き戻ったようで。

 一緒に旅してた頃に戻って来たって感じて。

 ああ、やっぱりこの人達がこの世界での私の「ホーム」なんだなって。


「頑張ったんだな」


 子供みたいによしよしされて、子供みたいに大泣きした。


 それから。

 大部屋の子供達について聞いた。

 やっぱり魂がないって。

 親しくはなかった。その辺フリアンの工作が逆に作用した。みんなが悲しくならないように、フリアンは死体役の私とみんなを交流させなかったのに、生き残った私が悲しくならない方向に役立ってしまった。

 全く悲しくないというほど鬼畜ではないつもりだけど、やっぱり大半は知らない子達なので温度差はある。


 ただ。

 その中には――エマもいた。

 エマの魂は失われて、私はもう二度とエマと話すことはできない。


 いつか子供の家を出ていくからその時はエマともお別れだな、なんて思ったこともあったけど。

 そのお別れは何の準備もなく突然に最悪の形でやってきた。

 それも「誰か」のせいで。

 止まった涙がまた溢れてきた。

 誰なの。誰がエマを、カリーナを、子供達を殺したの。


 必ず落とし前をつけてやる。



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