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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第二章

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040 フリアンと雑談

「やあ。よかったら少し話さないかい?」


 夕食の後、部屋に戻ろうとしたところでフリアンに呼び止められた。

 年長組の世話役的なポジションの彼にはここに来た最初の頃に声をかけられた覚えがある。それっきりだったけど。


 中庭のベンチに移動して、並んで座った。

 フリアンはランタンを持っていた。油を節約しているのか小さな光で、ここに人がいるという所在証明にしかならない。

 灯りなんて魔法ですぐなのにな。なんで使わないんだろう。

 その辺を聞きたいけど聞けそうな人が今のところ思いつかないんだよな……。


「慣れてきた?」

「どうかなあ。町には慣れてきたかも」


 未だに子供達からやんわり遠巻きにされている状況は続いている。

 かといってすっごい中途半端なんだよな。

 例えば食堂で隣に座るとサッと席を立たれる、とかあれば「おっイジメか?」と思うけど、そういうのは無いんだよね。

 挨拶したら返してくれるし、職員が呼んでた等、伝言もちゃんと伝えてくれる。

 その先の私的な会話が発生しないだけで。

 とにかく能動的な接触はないのだ。


「なんかごめんな。みんな……今残ってる子はちょっと人見知りが過ぎるというか……でもそのうち落ち着いてくると思うんだ」


 フクザツな事情があるとかいうやつだろうか。

 うーん、でもなあ。

 当初は困惑したけど、今はもうどうでもいいかな……。


 よく考えたらここに一生いるわけじゃないし、それいったらセルバに一生いるわけでもない。いるつもりもない。

 ある程度一般教養を仕入れたら別の場所にも行ってみたい。

 となると無理して親密度を上げる必要もないんだよね。どうせお別れするし。

 そりゃあ寂しいなとは思うけどさ。空振りし続けるのもしんどいわ。

 雑談なら町のガキ共としてるし、電報レベルだけどシェルリ達と文通してるし、買取屋でドミティラさんや居合わせた客と立ち話する時もあるし。

 なんかもういいかなあって。

 私は適当に相槌をうって流した。

 そんなことより魔法について知りたいよ。フリアンに軽く振ってみるか。


「フリアン、灯りに魔法は使わないの?」


 私はフリアンが傍らに置いているランタンを指した。


「え? ……ああ、そっか、アレアはセレステ商会に拾われたんだっけ。あそこ大商会だもんな。魔動ランプを日常使いしてるのか」


 なるほど、と頷くフリアンに私はどういうこと? と先を促す。


「魔動ランプだから動力は魔石だろ? 魔石をジャラジャラ買える財力があるか、魔力を充填する人がいないと使えないよ。ランプに魔力を充填するための人が雇えるところなんてそうそうないって。さすがセレステ」


「……へー」


 へー。蝋燭程度の灯りなら指先一つで点くんだけど……。

 懐中電灯ぐらいだとちょっと集中しないとダメかな……。

 うーんうーん。


「じゃ、じゃあ、竈の火はどうやって点けるの?」

「え、火箱から」

「火箱って?」

「熾火を残してある箱だよ。どこの家の台所にもあるだろ?」


 知らねえな……。

 家の中に入った覚えがないし、旅に出てからは全員目線で点火する人達と一緒だったし……雨の日でもお構いなしよ。


「家の中に入ったことないから知らないや」


 フリアンは「そっか……」と大変同情的な顔をした。

 なんかごめん。フリアンが想像するような暮らしは……そういやしてたかも。


「セレステではどうだったの?」

「火を点ける人がいたよ。手に何も持ってなかったから不思議に思って聞いたら、魔法だって」


 嘘は言ってない。

 ちなみに私は手から火は出せない。

 正確には出せるけど、同時に火傷する。

 術者がボンクラだと術者も焼けるぜこの世界。

 なので棒の先端に光を灯す提灯魔法と同じ要領で、燃え種に火を点けるのだ。


 フリアンはいたく感心していた。

 となると……やっぱり魔法はあまり市井には普及してない感じなの?


「魔法を使える人って少ないの?」

「うーん……少なくはないけど、魔法使うより普通に道具使った方が早くないか?」


 すごい直球のお返事がきた。


「フリアンも使えるの?」

「ちょっと習ったけど……」


 そう言うとフリアンはランタンを掲げた。

 音になるかならないかの囁き声で早口で何か唱えると、玉みたいだった炎が大きく伸びた。おお!

 五秒ぐらいして火は元の大きさに戻る。

 フリアンはふー……と大きく息を吐いた。


「こんなの、フタを開いてネジを回して芯をくり出せばそれでよくないか? 無駄に疲れるだけで」


 あー……なるほどそういう感覚なのか……。

 光量をハンズフリーで変えられるのは、私は使いどころがあると思う。目くらましとか。

 だが普通に暮らしてる中で目くらましが必要な機会はないかも。

 無駄に疲れるという感想が出るということは、成果に対してコストが重いということだ。

 つまりこの世界……かどうかしらんが、孤児院の子供という階層において、魔法は一般的ではない。

 よかったあー、調子こいて使わなくて。

 師匠の教えが生きたよ。



「アレアは魔法を習ったのかい?」

「見てて、習いたいなって思ったけど……」


 なんか大変そう、というニュアンスで濁す。


「まだ魔力を感じないんだろう? もう少し成長してからになるだろうね」


 ぼくは早かったんだ、とフリアンは少し自慢げに笑った。

 そうだった。

 この世界の人は成長する過程で自然と体内の魔力を感じ取るんだった。

 私は門型なのでその日は来ない。


「大きくなったら自然と判る時が来るんだよね。判らない人もいるの?」

「魔力を貯める器がすごく小さくて、大人になるまで判らなかった人は時々いるらしいよ。あとものすごーくたまにだけど、器がない人もいるんだって」


 私ですね!

 てか、器という表現をするんだ。泉じゃなくて。こういうの地域差みたいなのあるのかな。


「器が無い人はどうするの」

「どうもしないよ。あ、でも契約とか証明書とかが面倒くさくなるらしい」


 あー。ユース金貨カチ割りとかができないもんな。

 とりあえず迫害されたりしないことが判ればいい。


 他には魔法についての特別レクチャーのようなものが数年に一度あるらしいことを聞いた。

 私が来る直前に終わってるので、次は数年先だそうな。

 その時までここにいるかなあ。多分ベルレの講義以上のことはないと思うけど、一般にどういう風に教えられるのかは知っておきたいかも。

 暗くなってきたので私達は話を切り上げて部屋に戻ることにした。


「また話そう。ぼくはあんまり外のこと知らないから、アレアの話は面白いよ」


 フリアンはランタンを明るくして(勿論フタを開いて芯を出して調節した)子供棟まで先導してくれた。

 私の部屋は二階でフリアンは一階だったので、階段でおやすみと手を振って別れた。


 長い廊下を歩きながら、フリアンに油をあげた方がいいのかなと思い当たる。

 個人的に使う灯り用の油は支給品で、月に配られる量を使い切るともうもらえない。私は魔法で灯し放題なので、なくても平気だし。

 明日聞いてみよう。


 私はメッセージブロックを出すと、筆記面をクリアして新たに綴った。


『まともに話ができた』


 特に返事を待つつもりはなかったのですぐ寝たけど、次の夜見てみたらグラディの流麗な手跡が現れていた。


『良きこと』



 ◇ ◇ ◇



 フリアンとはたまに夕食後に話をするようになった。

 午後見かけないのはやっぱり年長組は講義室でガン詰め授業なのだそうだ。


「アレアだってそのうち、ぼく達の仲間入りだ」


と、力なく笑われた。

 習ってる内容を聞いたら八帝国の歴史とか地理とか、商会のルールとか、話し方とか、計算問題をひたすら解くだとか、字の練習とか。

 ううむ……知識系には興味あるけどドリル系は……ちょっと……ああでも字の練習は大事よね。


「私達ってやっぱりどっか就職を目指すの? それとも引き取ってくれる人を待つの?」


 コテンと首を傾げて本当に素でたずねたら、フリアンは困った顔をした。


「うーん……まず、成績のいい子は領都に移される」

「えっ」

「領都の子供の家でもっと専門的な教育を受けるらしいよ。ここでも数年前に何人か領都に行ったって」


 出世……でいいんだろうか。

 でも例えばクソガキ共みたいにセルバで生まれ育って当然親戚や友達もセルバにいるだろう子は領都に行かされるのは……どうなんだろう。


「それは帰ってこられるの?」

「どうかな……人によるんじゃないかな……」


 フリアンは固い表情で言った。

 おっと何か薄暗い事情を想像してしまうじゃないか。


「ぼくらは領主が仮親ということになるから。領主次第、つまり町長次第なのさ」


 どこか投げやりに言うと、フリアンはそれより、とあからさまに話題を変えた。


「体調はどう? ここって食事の内容が……その、あんまり変わらないだろ? 最初は気が張ってて判らないんだけどさ、落ち着いてくると体調崩す子が多いんだ」

 

 あー……判る。腹いっぱい食えるけど、メニューは単調なんだよね。基本、クルパン&スープ。そして香り付けがアレ。他のハーブも使おうよ……種まいておけばモサモサ生えるんだし。でも郷土料理だとしたらしょうがないのか……。


「いたって健康だけど、香り付けがあのハーブばっかりで飽きる……」

「本当それ……」


 珍しくフリアンが恨みがましい顔で呻いた。地元民も微妙なのか。つか、フリアンって地元民なんだっけ。


「フリアンはセルバ生まれなの?」

「うん。うちは両親が……まあ、病気で」

「そっか」


 病気か……そういうパターンもあるのか。

 この世界どんな病気があるんだろう。病気は……今の私には治せないな。外傷は最悪『巻き戻す』ことができるけど内臓はわかんね。キノコ食ってあたったら普通に死ぬと思う。毒も無理。その後蘇生すると思うけど。

 やべえ、そう思ったら変なところで変な死に方したら変な生き返り方して私すっごい不審者じゃん。シェルリに状況なんて判んないだろうし。珍獣として捕まってしまう。


 あ、食い物であたると言えば、最近ご飯食べた後ちょっと胃もたれするかも。そうフリアンに言ったら「土地が変わって食べ慣れないものが続いたからかな? 食べる量を減らして様子見したらいいよ」とごく真っ当なアドバイスをくれた。そりゃそうよね。


 町で買い食いでもするかなあ。そんなことやってたら全然金貯まらないわ。



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