041 オトナの小説と読書仲間
かしこい私は早速、朝昼の食事量を減らすことにした。
そして配膳のお手伝いの真相を知ったのである。
奴ら、スープの具の選り好みをしてやがった!
なんで気付かないかなー私。基本じゃんねぇ。
「自分の分は自分でよそうね!」と可愛らしい笑顔で圧をかけたら、お玉を快く譲ってくれた。
私が避けたかったのは個性的なハーブ臭を放つ葉っぱ……ではなく、噛めば噛むほど筋が残る茎だ!
この葉っぱと茎は多分同じ草か、近縁種だと思う。葉っぱもいい加減飽きた味なんだけど、茎の方がイヤ。噛んでる時は美味しいなあって思うけどコイツがいっぱい入ってる時、覿面に胃もたれみたいな感じがする。すぐスッキリするけど、飽きた!
私は食事を残したことはないけれど残すとすごく面倒なことになる(フリアン談)らしいので、最初から入れないのがベストだよねそりゃ。
さりげなく観察してたら他の子もそれぞれ嫌いな具を避けていた。
あの茎を避ける子は他にも居たが、カリーナが逆に茎を山盛りしてて二度見した。
◇ ◇ ◇
子供の家にも図書室はある。
蔵書は主に教科書に使われるような歴史書や初歩の手引き書で、他に絵本や子供向けの小説もある。こういうのは寄付だそうなので無難なものが多い。
前に聞いた天空城の話の絵本も作家違いでいくつかあった。
羊飼いが空に浮かぶ城を見て、周りに信じてもらえない中でも勉強と研究を続け、ついに発見するっていうあの話。
羊飼いの性別は不明なんだけど、見るからにイケメンに描いてある絵本もあれば、素朴な少女に描いてある絵本もあり、作家の「ヘキ」はある程度自由に解放していいらしい……。
小説もまあまあ面白かった。頭に刷り込まれる基準単語の文法だけで書かれていて感心した。
ただ内容がなあ。善良な主人公が善良な人達と善行をするというお優しい話が多くて……うーん、子供向けとしてはこの方向性で正しいのかな。判らん。
っていう話をドミティラさんにしたら、ちょっぴりオトナ向けの小説を貸してくれた。
子供になんつうもんを渡してくるんだ。ありがたく読むけど。
図書室にあった本は製本されてたけど、借りた本は背糊した束の部分だけだった。
本は基本的にこういう中身だけが売られてて、買った人が必要に応じて装丁屋に出すんだそうだ。ベストセラー的な本だと装丁付きで売られていることもある。
ついでにいうと印刷ではないっぽい? 文字はとても綺麗なんだけど、微妙に手書きの味があるというか。手書きフォントと言われるとそうなのかもしれないけど……手書きっぽいんだよなあ。
いやそんで。
読んだけど……読んだけどさあ……。
討伐帰りの汗臭い荒くれ女冒険者達にパン屋の美ショタが空き家に連れ込まれハチャメチャダンスバトルみたいな内容だった。
初っ端からなに特殊性癖くれちゃってんの?! びっくりしたじゃん!
返しに行った時に思わずそう言ったら、これが比較的スタンダードな路線だと言われて、気が遠くなった。
こ、これが文化の発展……。
皇帝陛下! あなたのご遺志はとんでもねえ方向に向かってるよ!
次に貸してくれたやつは貴族の御令息と商会の娘の身分違いの恋で、深窓の儚げ令息とハツラツ元気娘の甘酸っペぇ交流が読みやすい筆致で描かれ、貴族文化や都会の風俗も併せて興味深く読めた。
でも結局、商会の娘が御令息を拉致って新体操が始まったのでそっ閉じ。
一応ラストだけ確認したら御令息が娘にメロメロになってたので、再度そっ閉じしてお返しした。
全年齢版をくれ。
そういやこういうのに年齢制限はないのかと思ったら、別になかった。
親や周りの大人が監督はするけど、いわゆるレーティングというのはないみたい。いいのかそれで。
セルバには常設の書店はなくて、本は商会に注文して取り寄せるらしい。今月の新刊案内みたいな新聞が回ってくるんだと。
色々な新聞は屋台で売ってたり、商店のカウンター横で売ってたりする。本より手軽だ。
ドミティラさんとこでも売ってたけど、しょうもないゴシップやまったく信用ならないお得情報が書かれた、新聞というより怪文書だった。
瓶の包装紙として買っていくらしい。破れて捨てるやつをもらって読んでみた。マジでしょうもなかった。
最近では瓶を持ち込んだついでに、簡単な雑用もしている。客が働くぜ。
ドミティラさんはカウンター内からめんどくさがって出てこないので、店内の荷物を少し片付けたり、箒で掃いたり、まあ子供に出来る範囲で。
駄賃に果物とか飴とかくれる。近所の雑貨屋で買い物代行したりすると釣りの小銭をくれる時もある。
その金で買い食いするかなあと思った流れでつい、子供の家の飯についてぐだぐだ話してしまった。タダ飯に文句言うなんて失礼だとは思うよ。でも本当微妙なんだもん……。郷土料理だったら更に微妙な気持になるので確認したかった。
「セティですかねぇ。言われてみりゃセルバじゃよく使うっすね。あたしは食うのはあんま好きじゃねぇんで、もっぱら吊してます。ほらあそこ」
と、ドミティラさんが指さしたのは天井近く。ドライフラワーっぽいのが壁に吊されてた。
「魔虫除けになるんすよ。食っても効果があるんじゃないかって思って食う奴は昔からいますが、効果はないっす。メシに使う時は単に風味だけっすね」
ある種の郷土料理だった。つらい。
なんとあの魔物避け低木のセルコの仲間なのだそうな。つかセティ草を元に品種改良していったのがセルコという流れだった。へー!
「なんか名産品にしようってんで、作付け増やしてるようなコト聞いたっすよ」
売れるんすかねぇ? とドミティラさんは首を傾げた。
魔虫除け路線ならまあ……売れる、のかなあ?
帰りにドミティラさんが裏庭で生やしてたセティの摘みたて新鮮なやつをもらった。見た目は育ち過ぎた春菊みたいだった。葉はもっと丸いけど。なるほどこの茎かあ。
摘みたての匂いは料理とはまた違って、涼やかで安眠できそうな香りだった。割れた小瓶を駄賃にもらってきたので、花瓶代わりにして挿しておいた。
◇ ◇ ◇
読書仲間ができた。
フリアンに続き二人目の話相手である。快挙!
きっかけは図書室で借りた本を裏庭で読もうと思って廊下を歩いていた時のことだ。
裏庭は元々あった植木や花がそのまま残されて手入れもされず自生しているので、失敗したイングリッシュガーデンみたいになっている。
剪定されないから草も木もいい気になって伸びまくって、ベンチに座るとすっかり隠れて落ち着くのだ。
「あ、それって……」
後ろから声がして、振り向くとエマがいた。
なんで覚えているかというと、裁縫グループにいたからだ。
もちろん会話をしたことはない。
エマの視線を辿ると私が小脇に抱えていた本に当たった。
私が今読んでいるのは辺境の開拓史みたいなもので、当時の事件や関係者の話がドキュメンタリー風にまとめられていて面白い。
「全部読んだの?」
「今、三巻目」
「えっ、じゃ、じゃあ、二巻のさ、バレーラ事件読んだ?」
なんだっけ。どっかの辺境村のちょっとしたミステリーだった気がする。
王都から派遣された騎士と村長の息子が協力して原因を探るやつ。結末としては長年行方不明だった男が実は潜伏していて……みたいな、なかなか読み応えのあるエピソードだった気がする。
「そ、それそれ。壁の変色に気付いてからの畳み掛ける流れとか、すごいよね」
「普段から観察眼が優れていたのでしょうね 」
「だよね。あと王都から騎士が来るって、そんなに近かったのかな」
辺境の開拓は昔から続けてるみたいだから、当時は国土がもっと小さかった可能性はあるのか。
それからポツポツと会話をして、はーん? 気付いちゃった。
こやつ、萌え話がしたいとみた。
ためしに水を向けてみると前のめりになってきたので、裏庭のベンチまで誘い出して存分に語らせた。
何もない行間からイケメン要素を抽出して妄想する乙女の才能は素晴らしいな……。
萌えに共感はできなくても、好きなものを生き生きと語る姿は健康にいい。
こうして私は読書仲間を得た。
エマとは裏庭の密会を続け、ついに部屋に連れ込むことに成功した。
点呼の後でのこっそり移動だよ。点呼の後は自室ですみやかに就寝するきまりではあるけれど、そのあたりはまあ臨機応変だ。
女子会だよ、たーのしみー。
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