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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第二章

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036 手紙ツールと魔動具とトイレ事情

 部屋に戻った私はチェストを開けた。

 開ける前に開錠しなければならない。これ地味にめんどくさいなあ。

 いやいやでもこれも訓練だ。面倒でも手順を守る。

 安全第一。


 糊を無効化して蓋を開き、大きめのポーチを手に取る。

 子供が腰につけるにはちょっと大きいが、柔らかい革でできていて口は紐で絞る、いわゆる巾着袋になっている。


 このポーチは実はベルレ先生より賜りし魔動具なのだ!

 ポーチが、というよりポーチの底に設置した「板」が。

 この板がマジックバッグ(予定)試作品第一号なのである。


 第三村の宿で仮組みしてたあの底無しの板に「底」をつけたものだ。

 つまりこれは現状、単なる「箱」。

 つってもノートぐらいの厚さにミカン箱ほどの容量があるんだから、十分マジカルだよ。


 この仮称「収納板」はセキュリティとして私の魔力以外では反応しないようになっている。

 私以外の人が手に取ってもただのすべすべした薄い板でしかない。

 容量はもっと取れたけど、私が腕を突っ込んで中身全てに手が届くサイズに調整されている。でないと取り出すのに難儀するからね。


 ベルレ達からもらったり借りたりしている私の財産的なものは、この板に入れてある。

 板に手を突っ込んで、手探りで目的のものを掴み、取り出した。


 ばばーん。メッセージブロックー。


 命名、私。

 これもベルレが作ってくれたものだ。お手紙ツールだよ。


 この世界のお手紙事情だけど、そもそも同じ町の中なら直に会いに行くので手紙を出さない。

 いや置き手紙としての手紙はあるけど、ドアにブッ挿して帰るスタイル。

 別の町や村へは冒険者ギルドへ依頼を出す。

 手紙や小荷物の配達を専門にしている冒険者もいるんだそうだ。

 ここまでは平民の話。貴族は知らん。


 私が手紙を書くよ、と言った件がなんかグラディの琴線に触れたみたいで、ゴネ散らかされたベルレは急遽このアイテムも作ってくれた。

 そんなんすぐ作れるもの?! と驚いたけど、設計図的なものは前からあったんだそうだ。

 ただし、一般に流通してるのかどうかは、知らない……。

 隠せとは言われてないけど、念のため隠し持っている。


 あの人達、なんかその辺浮世離れしてるから、普段使いしてる数々の魔動具が本当に普段使いのものなのか、私は疑っている。

 だって数日過ごしたセレステ商会の支店や宿舎では、そんなに魔動具が日常にバンバン登場なんてことはなかった。

 普通に井戸から釣瓶で水汲んでたし、明かりは蝋燭かオイルランプだったし。


 あ、そうそう、セレステさんとこはトイレが水洗だった。水洗だった!

 といっても水で流すんじゃなくて、尻の下に最初から「川」があるスタイル。

 下水道があるんだ?! と驚いたけど、初期に計画された中心区にはあるけど、後で建て増しされたところにはないんだそうで。

 そっちは……「壺」だ……。

 ちなみに壺の中身は川というか専用の水路に捨てるんだって。肥料にはしない。アルティメット農業チート国にはそんなものは必要ない。アッハイ。


 「川」に魔物が侵入したらケツ噛まれるのでは? と疑問を述べたら、まあその辺を維持管理する仕事もあるんだそう。

 つまり尻を噛まれる可能性はゼロではない。

 そして肝心の子供の家のトイレ事情。

 本館は「川」で子供棟の共用トイレは「壺」だった。

 私は必ず本館で用を足すことを決意した。

 こんな町外れなのに下水道? と思ったけど、そういやここ、元は貴族か大商人の御殿だったわ。

 どうでもいいけどケツを拭く紙は普通に紙である。ゴワゴワだから揉んで使うけど。ほんと植物原料だけは潤沢だね……。



 綿を挟んでクッション性を持たせた小袋の中から、一筆箋ぐらいの大きさの物体を取り出す。

 厚みは五センチぐらいあるからカードというよりブロックのイメージなんだよね。

 物体の長辺に専用ペンが格納されているのでそれを引き抜く。


 このペンで物体表面に書き込むと、ベルレ達が持っているペアの同物体表面に同じものが浮かび上がる。逆も同じ。

 ただし履歴は残らないし、双方向同時発信はできない。一往復づつの利用だ。

 トランシーバーっぽいかな。


 表面にはテスト運用した時の「あああ」みたいな試し書きが残っていた。

 ペンを寝かせて軸で表面を撫でると「あああ」が消える。


 書き込めるエリアは全体の三分の二ぐらいなので、本当にメモ書き程度しか送れないし、固定ペア機のみの限定運用だ。とはいえ距離を無視する通信手段なのだから脅威の発明なのでは。

 あ、でもペア機の距離が遠くなるほどにレスポンスに時間がかかるそうだ。最終的には繋がらなくなるかもって。みんな今頃どこ走ってるんだろ。


 『一日目。和気藹々』


 と書いた。

 そして書き込みエリア外にあるボタンをペン先でブスッと突く。

 これで送信されて、ベルレ達側で私の書き込みが表示されているはず。

 しばらく眺めていると私の書き込みがスッと消えて、


『お疲れ様』


 とグラディの流麗な文字が現れた。

 グラディの字は筆記体とでもいうか、流れるように繋がった優美な線で、正直読み取りにくい……。

 ベルレはフォントか! とでもいうようなきっちりした字が並ぶ。

 シェルリも割ときっちりした字を書くけどこちらは手書きフォント系で、適度な抜けと崩れがある。でもどうせ筆跡も複数使えるんだろうな。

 ちなみに私は左手で書いたような筆跡である。

 そのうち上手くなる。多分。


 返信早いな? と思ってたら、受信した時の魔力の動きが感知できるから気が付く、と言われた。私? 判らんよそんなの。


 メッセージブロックを袋にしまうと収納板に戻した。

 収納板の中は入れた時の位置関係が維持される(板をひっくり返しでも中身はひっくり返らない)ので、置き場所を決めておけば迷わずサッと取り出せる。

 収納板とポーチもチェストに戻して、また鍵をかけた。

 めんどくさいけど手順は省略しない。

 ご安全に。ヨシ!



 室内にあるオイルランプを消す。

 明かりなら魔法で出せるけど、そこは様子見。

 オイルの質がよくないのかな、ちょっと臭い。


 ベッドにはマットがあった。素材はまったく判らないが固めのウレタンという感じ。スゲー。

 その上に薄く綿の入ったキルティングの敷布団というか敷パッドを敷いて、その上からシーツで全体をくるむ。

 掛け布団はペラペラの毛布だ。

 今はまだ寒くないからこれぐらいでちょうどいい。


 孤児院でこんなまともな寝具が与えられるとか、ちゃんと予算が取られてるのか、太いパトロンでもいるのか。高額寄付者とか。

 いやこれが普通? 数々の創作物から構築した私のイメージがダメ過ぎるだけ?


 それとも一般家庭でもこれぐらいが普通なんだろうか。

 なんせ生まれてこのかた地べた生活だったし、村長の家に一時保護されてた時も大部屋で雑魚寝だったし、シェルリ達に拾ってもらってからは野宿かホテルだったから普通の市民生活は未だに判らんままなんだよね……。

 そのあたりを知るためにも私はここにいるんだけど。



 魔動具といえば、セルバに着いてから知った衝撃の事実が。

 あの人達、認識阻害のアイテム使ってた。

 そりゃ、ちょっと不思議には思ってたんだよ。いくら衣装や髪型で雰囲気変えたって、あんな人類代表級美形があの程度の注目で済むものなの? って。シェルリは自力の変装力が高いからまだ判るけど。

 結構ポーッとはされてたけど、もっと大変なことになりそうなのになあって。


 なんと、認識阻害の魔動具を付けた上であの結果だった。

 つまりベルレとグラディの美形パワーが魔動具を貫通してた。

 完全に外見を変えるものじゃなくて、印象を変える程度だからそこはしょうがないそう。完全に変えるものは逆に魔力感知に長けた者にとって余計目立つそうだ。

 ちなみに人のいないところでは使ってないから、私は直撃を受けつつもわりと普通だったのもよかった? ようだ。

 いや私も衝撃だったともさ。逆に衝撃過ぎて……一周回って映画でも観てるみたいな、一種の離人感があったかも。

 でも単に好みの問題でシェルリの顔の方がストライクだったんだよ……そんなエルフ顔の天使も出会ったすぐに酒飲んで床で大の字で寝てたけど。グラディはお美しいよりカッコイイが先に立った。



 静かな夜の闇の中で私はのびのびと思考を巡らせ、眠りについた。

 明日は誰かと仲良くなれるといいな。



週一更新と言いつつ自由に更新してるのですが、説明パートはさっさと済ませたくて…

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