089 ファルード
この世界にもゲームはあるのか?
勿論ある。
スポーツ的なものもあるし、テーブルゲームもある。
リバーシみたいなのも既にあった。ちくしょう、儲け損ねた。
チェスっぽいのはストラタ。ベルレがアホみたいに強いので対戦すると毎回敗北RTAだ。つまんない!
頭の出来が違うのは判ってるけど悔しいものは悔しいので、ミカルタにルールブックや棋譜を読ませて鍛えた。
魔動人形そんな使い方する人初めて見た、みたいなことをリッカドンナに言われたけど、何でよ普通にCOM戦したいじゃん。この世界の人間どんな使い方してるんだ。そういや見せびらかして酒の肴にしてるんだっけ。何やってんの。
それでもミカルタが負けるからベルレの頭の中を割って見てみたい。
でも面白い勝負にはなるようで、本の貸し借りに石影宮にお使いに行ったついでに、たまに対戦してるらしい。お互い思考時間秒だからサクッと終わるそうだ。イルミカ談。
カードゲームもある。
トランプっぽい汎用性の高いものが主だけど、凝った重ゲーもある。
「久々に『ファルード』をやりますよ!」
グラディがカードの束が詰まった箱を持ってきて、場の中央にズドンと置いた。
そこそこ使い込まれている様子のカードで、箱から出して麻雀牌のように場に撒かれた。条件反射のようにあらいぐまアレアがウォッシュシャッフル。混ぜ混ぜ。
一緒に混ぜながらベルレは嫌そうな顔をしていて、シェルリはいつも通りのニュートラルだ。
ルールの説明は……一回では覚えられなかったので諦めた。カタンとMTGとD&Dを混ぜて人生ゲームでまとめたような……混沌としたものだった。
一番コンパクトなルールがポーカーとか麻雀みたいに役を揃えて勝ち抜けするスタイルで、フルルールになるとそこに様々な要素が加わる。
カードには絵札や数字札、色々あるけど「役札」が特徴的で、役札が来たらその「役」になってゲームを進めなければならない。
そんで役札毎に設定された勝利条件が揃ったら勝ち抜けできる。
何人抜けでゲームセットか最初に決める。大抵一人抜け。勝利者が一人出たらゲームセット。
やってみるとこの役札が……つらい! マジつらい!
ここにD&Dっていうかロールプレイ要素がブッ込まれていて、アクションのたびに役に合わせたロールプレイをしなきゃならないの! 役にそぐわないプレイをするとブーイングからのペナルティがつく。
「わたくし、領地に牛が欲しいですわ。……まあ、地道にまいりましょうね」
山札をめくるベルレの台詞である。オープンになっている役札は「領主」。
「オイラの庭を、ここからここまでー、増やすぅー」
「なんだ増やすぅーって」
「ふ、増やすぜ??」
グラディの役札は「流民」。どういう流民を想定してるんだ。
「その境界、わらわに譲らぬか? こちらと、こちらを出す用意があるぞ」
「なんと! ありがたきお申し出。是非ともお取引いたしたく。それではこちらで。今後ともよしなにお願い致しまする」
シェルリ「王」と「新興貴族」の私が隣合った土地をトレードしている前で、ベルレ領主の領地を流民のグラディが地道に侵略していた。ひでぇ。
この役札は途中で変わることもあるんだけど、変わった場合はその変わった理由をひねり出して、その流れにそってロールプレイしなければならない鬼畜仕様だ。これ苦手な人は一生遊べないのでは……。
鬼畜仕様と言えば、フィールド効果で「沈黙」が発生した時、喋ってはいけないので身振り手振りのジェスチャーでアクションを行う必要がある。
だが例外がある。
沈黙の対象は人間なので、動物は声を出していい。
「ぶひひん」
「……ッ」
「ッ…!」
「…………!」
シェルリの役札「馬」。
なんっだよ馬って!!! なんでそんな役札があるんだよ!!
真顔で嘶き続けるシェルリが鬼畜過ぎる。腹筋が千切れそう。今にも「アウトー!」って掛け声と共にバット持ったマッチョが部屋になだれ込んできそうな緊張感。
「ひひーん」
「ふぐっ……!」
ベルレ、アウトー! 崩れ落ちたベルレの手元からペナルティとして欲しいカードを容赦なくハイエナしていく私達。
……とまあ、そういう感じでどうかしているゲームだった……いや面白かったけど……。
ちなみにこのゲームを持ってきたのは、ファルードにちなんだ言い回しが現代語にいくつかあるので、プレイ経験がある方がよかろうとの判断だったらしい。
こうして先回りして教養を与えてくれるの、すごくありがたくて本当に頭が下がる。
しかし、個人的に腹筋に力が入ったのは「王」の役札の勝利条件を見た時だ。
揃えるカードは「皇帝旗」一枚のみ。皇帝への忠誠心のみを持つという形だそうだ。
この皇帝旗の、絵が……その……あの……。
下半分が草原、上半分が夜空で、星が散らされ、妙に大きく描かれた月があるんだけど、その意匠が……。
色は違えど花札の「芒に月」にそっくりで……!
に、二十点と言いかけて唇を引き結んで耐えた。
◇ ◇ ◇
ファルードが一段落した後、イルミカルタに準備してもらってみんなで晩ご飯を食べた。
雨は弱まっていて、ガラスを叩く音はなく、大粒になった水滴が時折落ちるぐらいだ。
ガラスの向こうは黒一色で、室内に置かれた小さなランプが反射している。
室内も既に真っ暗で、点在するランプの明かりでムーディーな空間となっていた。
ベルレが呼ぶと、ミカルタが布で巻いた棒状のものを持ってきた。
「イルミカとミカルタの装備なんかはソルジェンテに預けてあるが、アレアにはこれをやろう」
そういって布を外すと、中身はいつか見たベルレの短杖だった。
全体的に細くすんなりとしていて、片方の端だけ太くなってやや曲がっている。火縄銃のミニチュアみたいなフォルムだ。
くれるんならなんでももらうけど、私に魔法の杖って必要かなあ? 杖が必要な魔法の使い方なんてビタイチ習ってない。
はっ、これはいよいよ杖を使う段階に移行するということ?
そう思って受け取った短杖を勇者の如く掲げていたら、
「明日、明るい所でよく見て研究しろ」
「はーい」
呆れられた。
長い棒を持つと興奮するのは犬と人間の性だからしょうがない。
「アレアには! 剣を! 教えますけど?!」
グラディがキッとベルレを睨んだ。「剣も教えればいいだろ」とベルレは雑に流す。流れ着く先は私なんですけどねえ!
「やりますよね?!」みたいなグラディの輝く美貌がランプの明かりに薄っすら浮かび、私は人類が悪魔をイメージしたプロセスに思いを馳せた。
私はたぶん剣より格闘向きだと思うから弟子入りするならシェルリのような気がするけど絶対に言えないし目線でベルレも止めとけって言ってるから無心でコクコク頷いた。
夜も更けて、布団でゴロゴロしながらとりとめもない話をした。離宮でどこが面白かったとか、離宮周辺の動植物とか自然とか。近所に小さいけど湖もあるそうで、魚釣りしたり泳いだりできるんだって。いいなあ。行けたら行きたいけど、「今回」は行けなさそう。
なんとなく判るんだ。そろそろ旅立つ頃合いなんだろなって。
シェルリが私とあまり会わなくなってきたからさ。
イルミカルタの服が出来上がってきた時がその時だと思う。
このまま離宮に住み着いても、それはそれでいいよって言ってくれる気がするけど、それだとおそらくシェルリが旅に出ると思うんだよね。それは嫌だ。
天翼宮で随分リラックスして過ごしてるようだったし、ここは大事な「巣」なんだと思う。だから私が居ることで帰りにくいなんてことには絶対にしたくない。
それに世界観光はしたいしね。別にスリルを求める冒険マインドはないからご安全に。
落ち着いてこのメンバーで過ごす時間はきっとしばらくないんだろうなと思いつつ、せっかくく設けてくれた機会だから気になってたことを思い出せる分だけ聞いてみた。
「墓?」
「私の村で魔獣被害があった時、村外れにみんな一緒に埋めて、特に目印とかなかったの。でもフラナの歌の中に『墓』って出てきて。墓って単語もあるみたいだし、人が亡くなった時の作法が知りたかったの」
そうなんだよね、ベーシック辞書に単語があるんだから概念はあるんだよ。
冠婚葬祭で一番地雷がデカいのは葬じゃない? 冠婚祭は基本的にお祝いだから、おめでとうの気持で明るくしてれば乗り切れるけど、葬儀関係はちょっとコワい。
ベルレはどんな歌なんだ…と訝しみつつも、講義をしてくれた。
「墓所を設けるのはほとんど貴族だな。亡骸を納棺して安置する。家にもよるが二代前ぐらいまでは棺を安置して、それより古いものは土に埋める」
「遺体を取っておくの?」
「そうだ。後で色々と入り用になる場合があるからな」
死体が必要な場合ってなんだろう。私が首をかしげていたら、
「実は暗殺だった! みたいなお家騒動が勃発した時に調べたりしますよ」
とグラディに言われ、アッハイの気持。
「貴族以外にも代々続く商家とか、まあ必要がある家は墓所を設けているが、通常は墓地に埋葬するだけだな」
亡くなった人の魂は神の御許へ還るので、残った遺体には執着しないらしい。
遺体の処理方法は土地や国それぞれで、例えばクルトゥーラなら普通に土に埋めるし、海洋国のマルガレタなら海に流す。王都や都市部で土地がない所だと火葬もするそうだ。速やかに大地(マルガレタなら海)に還すのが肝要で、方法は問わない。
フラナの歌で疑問に思っただけなんだけど、あの辺境村で魔獣被害者がざっくり埋められただけだった理由が判った。貧乏だから雑に片づけたんじゃなくて、あれが普通だったんだな。
他にもちまちま聞いて、そこから雑談が広がって、私達は結構喋った。
よく考えたら私含めて、全員あまりお喋りを楽しむタイプじゃないもんな……。一年分ぐらい喋った気がする。
頃合いを見てイルミカルタが一つづつランプを消していった。そんな演出できるの?! うちのメイドロボ優秀過ぎない?!
最後のランプが消えて闇になった中、もたれかかってくるカピ太を足でグラディの方へ押した。くっついて寝たいのは猫だから判るけど、お前は暑いんだよ。
ビョアアアーみたいな情けない鳴き声が上がる。お前はグラディの枕になれ。
◇ ◇ ◇
朝起きたら、グラディに背後から固められながらもすよすよ寝てるカピ太がいて、案外タフな奴だなと感心した。
ベルレはシェルリにドロップキック食らったような体勢になっていて、魘されていた。
広い場所で雑魚寝すると何故か事件現場になるのはいつものことだ。
私は夜通し起きていたイルミカルタに朝食の用意を頼んだ。
二人(二台)は一晩中、ファルードのルールブックとカードを読んでいたらしい。
暇な時にルールを整理して、簡略版作って遊ぼうか。




