第20話 らしくない事
光里とのデートが終わった翌日、僕と奏多は学校への道を一緒に歩いていた。
今日はあいにくの雨で奏多は少し機嫌が悪く、僕は光里の好きな人の正体にまだ頭を悩ませていた。
一昨日も全く眠れなかったのに、昨日もずっと光里の好きな相手は誰なのか、考えているだけで一晩なんてあっという間に過ぎていった。
「はぁ。本当に誰なんだろう……」
段々と激しくなってくる雨とともに、僕の中のモヤモヤも段々強くなっていった。
しかもその好きな相手の筆頭候補が、横で空を睨んでいる人なんだから余計にキツイ。
「まだそんなこと言ってんのかお前」
「そんなことって言うけど、僕にとっては結構死活問題じゃない!?」
「お前がうじうじしてもあいつの好きな相手が変わる訳じゃねぇだろ。結局、光里に好きな奴がいるって言い訳で逃げてるようにしか見えねぇんだよ」
「それは違う! と思う……」
そう言った僕に、奏多は呆れたようにため息をついた。
自分でも分かってる。光里に好きな人がいるって言うのは言い訳にしかならないってこと。
結局、絶対に告白するって決めた人はこんなことでは揺らがないって言いたいんだろう。
つまり、僕はまだそこまでの覚悟が決まってなかったってことだ。
「お前がそんなんじゃ、俺が一番報われないってなんで分からねぇんだ? お前名探偵なんだろ?」
「だから違うって。それに、一番報われないのが奏多ってどう言うこと?」
「良いか? 今のこの状況、1番キツイのは俺だ。多分お前よりキツイ立場にあるんだぞ? それは分かるか?」
僕が好きな光里には、他に好きな人がいる可能性が高い。そして、その相手の筆頭候補が奏多っていうこの状況?
確かに僕ら3人の関係を1番大切に思ってくれてる奏多は辛いかもしれないけど、それは僕以上なのか、それは少しだけ疑問だ。
「光里が俺のこと好きな訳ねぇだろ? 昨日お前と話した後聞いてみたんだよ。そしたら案の定『そんな訳ないでしょ!? バカなの?』って言われたんだぞ? 俺の苦労ちょっとは褒めろや!」
「それを本人に直接聞くところが奏多だな〜って気がするよ。じゃあ誰なんだろうね?」
「それも聞いてみたけどよ、さすがに教えてはくれなさそうだったから適当に話して切ったわ」
「そうなんだ……。奏多じゃないならいよいよ誰だか分からなくなったね。でも、ありがとうわざわざ」
そういった僕に、当然のように頷く奏多に少し呆れながらも本心では本当に感謝していた。
これで、光里の好きな相手が奏多という可能性はほぼ無くなった。
でも、昨日光里に直接聞いた時、もしも「そうだよ?」とか言われたらどうするつもりだったのか。後で徹底的に聞いてみたい。
まぁ、奏多はどうせそこまで考えて無かったんだろうけどさ。
「あいつの好きな相手なんぞ初めからどうでも良いんだよ。何度も言うが、大事なのはお前の気持ちだろ? 当たって砕けても、別にそこで全てが終わる訳じゃない。そこから諦めるか、それとも粘るかはお前次第だ」
「え? 告白したらそこで終わりじゃないの?」
「振られただけでお前の10年ちょっとの恋が諦め切れるんならそれで良い。諦めきれないのに諦めるって考えは俺は嫌いなんだよ」
「ん? つまりどう言うこと?」
「恋愛系の物語で良くあるだろ。諦めないでアタックし続けたらどうにかなるって展開。そのことを言ってんだよ。むしろ、告白ってのはスタートでしか無いんだよ。大事なのは、結果がどうであれその先なんだから」
その後も、必死に熱弁する奏多を見ていて、なんとなく言いたいことが分かってきた。
つまり、告白っていうのはあくまでスタートラインでしかなくて、ゴールじゃ無い。
そもそも、僕は告白がゴールでその先のことはなにも考えていなかった。
だけど奏多が言うには、告白が成功すればその先には付き合うっていうステージがある。失敗したとしても、諦めずにまたアタックしに行くのか、潔く諦めて次の恋を探しに行くのか選択する道があるってことらしい。
「もちろん告白が成功するのが1番良い。失敗する前提で計画ってのは作るもんじゃねぇ。だけどな? どっちにも共通してんのは、お前が考えてるように、告白がゴールじゃ無いってことだ」
「うん。それはなんとなくだけど分かったよ。ただ光里には好きな人がいて、その恋を邪魔してまで告白するべきなのか。僕はそこに悩んでるんだよ」
「はぁ? なんだそのキモい考え方。そんなの良いに決まってんだろ。本当にそいつのことが好きなら、どんな手段を使ってでも手に入れるのが筋ってもんだろ。それこそ、よく言うだろ。略奪愛だ!」
キメ顔で奏多がそう言い放った瞬間、ものすごい勢いで雨が降り出した。
さっきまでは、精々ちょっと強いな〜くらいだったのに、今は滝のように降っている。
奏多が似合わないことしたり、妙にかっこいい事を言うからこんなに雨が強くなったんだ……。
「あ!? せっかく俺がカッコよく決めてやったのになんだその言い草!」
「ごめんごめん。でも、奏多の言う通りだよ」
笑いながら謝った後、僕は今自分が思っていることを包み隠さず奏多に打ち明けた。
奏多のおかげで、ようやく決心がついた。もううじうじしたり、迷ったりはしない。
たとえ光里の好きな人が僕じゃなくても、奏多が言ったように本当に好きなら僕のことを好きになって貰えるように努力すれば良いんだ。
そもそも、そんなことを考えてる時点で僕はダメだったんだ。
「決めたよ。僕は光里に自分の思いを伝える。たとえダメだったとしても、それはスタートなんでしょ? ならそこからどうとでもしてやるさ!」
「お前は優柔不断すぎるんだよ。しっかりしろよな!」
「うん。ごめん……。もう大丈夫だから!」
「よし。なら今日の昼、屋上に集合な。飯食いながら作戦会議だ」
「いや今日は無理でしょ……。がっつり雨降ってるし」
そう言った後、奏多は雨が降っていることを思い出したのか、豪快に笑った。
その直後にさらに雨が強くなって、奏多のイライラが増した時は僕も笑いを堪えきれなかった。




