第19話 誤解
「なんだ結局惚気か!? お前喧嘩売ってんのか!」
「いや報告しろって言ったのは奏多じゃん......」
僕が無事家に辿り着いたのは19時45分前だった。
光里を送って行って、そのまま夕食に誘われたけど断って帰って来たんだ。
お昼に映画館でお姉さんに言った約束もあるし、向こうから電話がかかって来たらちょっとめんどくさいことになりかねないから。
そして今、僕はなんで怒られているのか。
その答えは簡単で、奏多が今日のことを報告しろと言って電話をかけて来たから、包み隠さず今までのことを全て話した。
するとなぜか、奏多が怒り始めたんだ。
「姉ちゃんがバイトから帰ってくるなりキモいテンションで俺に言って来たわ!『今日ハルから電話くれるって! 凄いだろ!?』いや知らねぇよ!だいたいなにが凄いんだよ!」
「その件も話したじゃんか。成り行きでそうなったんだって」
「お前、マジであいつに電話すんのか? 絶対ろくなことになんねぇぞ?」
「するしかないだろ? あんなにはしゃがれたらさ......」
「お前って良いやつだよな〜」
僕だって正直に言うなら、咄嗟だったとはいえあんなことを言った自分を呪いたい。
できるなら今からあの時間に戻って、あの頃の僕に全力で止めろと言いたい。
「にしても光里も光里だよな。なんだゲーセンに4時間強のデートって! しかもクレーンゲームだけだぞ!? ふざけすぎだろ!」
「別に僕は楽しかったから良いんだって。それより、光里の好きな人が誰なのかって話だよ」
「ああ〜それは俺も思ったな。お前が聞いた感じ、好きな奴はいるんだろ?」
「うん。それは間違い無いと思う」
問題は相手が誰なのかってことだ。
単純に考えれば、他に好きな人がいるのに僕なんかと2人きりで出かけたりするか? じゃあ僕のこと好きなのでは?と思うかも知れない。
だけど、僕らは幼馴染だ。その関係性が邪魔をして、幼馴染だから2人で出かけても別に変じゃ無いよね? と言われる可能性だってある。
「まぁ少なくとも、あのクソ野郎じゃ無いってことは確かだ。ただ、あいつに好きな奴がいるって聞いてどうだ? 告る決心は揺らいだか?」
「......うん。正直揺らいだよ。映画を見てる時も、ゲームセンターにいる時も、常にそのことが頭の片隅にあったんだ」
「そりゃお前以外の奴が好きって可能性の方があるもんな。気持ちは分かる。けど結局どうすんだ? 予定だと来週中に告るんだろ?」
「正直迷ってるよ。好きな人に違う好きな人がいるって分かってるのに告白するのは……なんだか不誠実な気がして」
光里のことは好きだ。でもだからこそ、光里の好きな人が僕じゃ無いならきっぱり諦めて応援するのが正しい選択なんじゃ?
好きな人の恋を邪魔してまで、僕が横から割り込むようなことをしても良いのか。告白すると決めたはずなのに、その決心が今になって揺らぎ始めている。
「まぁ少なくとも、あのクソ野郎に光里を落とすことなんざ絶対無理だ。ああ言うやつは光里が1番苦手なタイプだろ」
「それは僕も同意だよ。あの人は光里が1番嫌いなタイプだね」
「はぁ。どうする? 当たって砕けるか?」
「それが嫌だから今まで告白しなかったんだよ……。っていうか砕ける前提なんだね」
「そりゃな。お前もぶっちゃけそう思ってんだろ?」
それはそうだ。第一に、光里が僕のことを好きだと思っているなら、好きな人のことを弟として扱っては来ないだろう。
なんでだか今日はそういう態度を取らなかったけど......。
それこそ映画館でも、ゲームセンターでもそういう態度は一切取らなかったし取るそぶりもなかった。
いつもの光里なら、絶対映画館で僕がお姉さんに絡まれてた時に必ず僕を弟として慰めて来た。だけど今日はそれが無かった。
それが今日のデートで僕が1番気になったところだ。
ゲームセンターでもそうだ。商品を取ったら大喜びしてくれたのはとても嬉しかったけれど、今日はなぜか光里からお姉ちゃんという言葉は出なかった。
「気になるところはいくつもあるけど、実際相手が僕じゃなさそうだって言うのは少し考えたら分かるよ」
「さすがの名探偵も光里の好きな奴は分からないと?」
「うるさいなぁ。別に名探偵なんかじゃないよ。可能性があるとしたら……」
その先は、怖くて言えなかった。
なにしろ、今までで1番可能性がある人物って言えば、僕以外で考えるなら奏多しか考えられなかったから。
僕ら幼馴染の間でそんな三角関係が出来てしまうなんてことは、僕にとっては1番怖い。
仮に光里の好きな人が奏多だったとしたら、僕は身を引いて2人を応援する。まぁ奏多は光里に興味無さそうだけど。
「はぁ。とにかく決めるのはお前だ。人に言われて告るのを決めるなんざ、男のすることじゃないからな! じっくり悩め」
「分かった。ありがとね奏多」
「おう。じゃあまた明日学校でな!」
多分、僕が考えていることが奏多にも伝わったんだろう。
そう言う空気が奏多は苦手だからさっさと切り上げたと考えるのが自然だ。
奏多も僕と同じでそんな三角関係は望んでないらしい。少なくとも、光里が好きなのは自分じゃないと必死で思いたいんだろう。
奏多はあんな性格だけど、1番僕ら幼馴染の関係を大事に思ってくれている。
光里が僕以外に貶されるのは許せないらしいし、僕が光里以外に貶されたりバカにされるのも許せないらしい。
「ほんと、どうしたら良いんだろう……」
奏多との電話が終わって少しベットに横になって考えていると、さっきまで奏多と話していた携帯が勢いよく震えだした。
画面を見てみると、詩音さんからの着信を知らせる表示が出ていた。
やっぱり向こうから電話をかけて来た……。
光里のところで夕飯をご馳走にならなくて良かったと心底安堵しながら、僕は携帯を手に取った。
「もしもし?」
「あハルか!? いつまで経っても電話くれないからこっちから電話しちゃった!」
「ごめんなさい。さっきまで奏多と話してて……」
「うん知ってる! 部屋の前で聞いてた!」
「は!? お前マジでふざけんなよ!?」
「別にいいだろ? ごめんねハル。奏多がうるさいからちょっと待っててね?」
それから少しだけミュートになったと思ったら、すぐに解除されてお姉さんの声が聞こえて来た。
察するに、奏多の部屋の前で会話が終わるのを待ってて、会話が終わったから僕に電話をかけて来たってところだろう。
その件に関して、たまたまその場を通りかかった奏多に聞かれて、自分の部屋に避難したんじゃないかな。
「それでそれで? 奏多となに話してたの!?」
「聞いてたんじゃないんですか?」
「奏多の声がちっさいせいであんまり聞こえなかったんだよね。告白がどうのって聞こえた!」
「なんで大事なところだけ聞いてるんですか……」
本当にこの人は苦手だ。今だってスピーカーにしてないし、携帯を耳に近づけてる訳じゃ無いのに普通に聞こえるし。どれだけ声が大きいのか……。
映画館でも思ったけど、この人はテンションが上がると周りが見えなくなるらしい。
「なになにハル告白するの!? 相手は? ボクなのか!?」
「いやあの……」
「あ〜ごめんね! 告白する前なのに相手にそのこと伝えたらダメだよね! うん! ボクも答えは決まってるけど、秘密にするね!」
「なにか誤解してませんかお姉さん。告白はしますけど相手は……」
「いや〜嬉しいな! やっとボクの魅力に気付いてくれたんだ!」
話を聞いてないなこの人……。しかもこれを本気で言ってるんだから。
これで相手がお姉さんじゃ無いって分かったらなんだかいきなり泣き出しそうですごく怖いんだけど。
仮にももう大学生なんだから、少しは落ち着いて欲しいんだけども。
「ごめんね! ちょっと嬉しすぎてどうにかなりそうだから今日はこれで! 今度また話そうね!」
「え!? いや誤解……」
最後まで人の話を聞かないで、お姉さんは一方的に電話を切ってしまった。
その後に奏多から「姉ちゃんが部屋ですごい騒いでんだけどなに言ったんだよ」ってメッセージが来てすごく困った。
説明は簡単だったんだけど、僕らは2人ともどうすれば良いかわからず、どうしようも無いと最終的に結論が出た。
告白した後、結果がどうなろうがお姉さんにはなにか言われそうですごく怖い。
まだ告白できるかどうかも怪しいのに、なんで今からこんな関係ないところで悩まないといけないんだろう......。




