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気弱な僕は、あの日助けられた君に恋をした  作者: 福留詩音
第5章 久しぶりの2人
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第18話 勝負とストレス発散

 映画館の中に入ると外よりは涼しく、人も休日にしてはそこまで多くなくて少しホッとした。

 チケットはあらかじめ買ってあるから、受付は素通りして売店へと直行する。

「ここも結構久しぶりな気がしない?」

「そう言えばそうだね。滅多に映画なんて観ないからね」

「ねぇハルは何味にする? 私は塩で良いけど」

「僕も塩味で良いよ。ドリンクは? 買ってくるから休んでて良いよ」

「あ、じゃあお金は後でいい? 私のはメロンソーダで!」

「分かった。行ってくる」

 近くのソファに光里を待たせて、僕はポップコーンとドリンクを買うために列の最後尾に並んだ。

 3人しか並んでいなかったから直ぐに順番は来て、僕は店員さんの顔を見ずに淡々と注文の品を口にした。

 人見知りの僕は、こう言うところでもしっかりと人見知りを発動する。知らない店員さんの顔なんてまともに見れるはずがない。

「ん? なんか聞いたことあるなこの声。あ〜ハルだ! なんで!? どうしてここに!?」

 なんだか聞き覚えのある声だと思って顔を上げてみると、そこには想像した通り、奏多のお姉さんが立っていた。

 待って!? 奏多と喧嘩してたんじゃなかったの!? なんでこんなところにお姉さんが?

「実はさ! ボクここでバイトしてるんだ! いや〜嬉しいな〜! まさかハルが会いに来てくれるなんて!」

「いやあの……ここには友達と来てて」

「そんなに照れなくていいって! ボクに会いに来てくれたんだろ!?」

「いや違いますって……。あの、今日の夜電話しますからここは穏便に済ませてくれると……」

 後ろに並んでるお客さんの視線が痛かったせいで苦し紛れに出た言葉だったけど、充分に効果はあったらしい。

 お姉さんは見たことないくらい笑顔になって、すぐにテキパキと慣れた手つきでさっき注文したドリンクとポップコーンを用意してくれた。

 おまけに、よっぽど嬉しかったのかお会計は「ボクのポケットマネーで払うよ!」とまで言われた。

 さすがに遠慮したけれど、強引に押し切られてしまった僕は、渋々その場を後にした。

「今日の夜だぞ〜! 絶対だぞ〜!」

 後ろからそんな声が聞こえて、周りのお客さんから不審な目で見られてしまった。

 なんだかポップコーンを買うだけで凄く疲れた……。なんでよりによってここでバイトしているのか。

 良い人なんだけど、凄く誤解しやすい人だから苦手なんだよね。人の話も全く聞こうとしないし!

 光里のところに帰った僕は、さっきのお姉さんの声を聞いてだいたいのことを察していた光里に慰められた。

「大変だったね〜。奏多のお姉さん相変わらずでなんだかちょっと安心した」

「悪い人じゃないんだけどね。早く中に入りたいよ……」

「後10分の辛抱だから頑張って!」

 光里も僕が奏多のお姉さんを苦手なのは知っているから、同情してくれてるみたいだ。

 あんなことを言われてしまった件について、詳しい事情を話すと苦笑いしてたけども。

 それから劇場内に入れるようになるまで、チラチラとこっちを見て来るお姉さんに苦笑いを返しながら耐えていた。

 ちなみに、割と早い段階で一緒に来ている友達が光里だと気付いて、露骨に嫌そうな顔をしていた。鬼のような形相って言うのはああいう顔を言うんだろう。

 あれは見なかった事にした方が良さそうだと割り切って、このことはすぐに忘れようと思った。



 劇場内に入れるようになった瞬間、光里の手を引いてお姉さんから逃げるように中に入った。

 中は話題の映画だからなのか、かなり広めで、100人か200人なら入りそうな感じだ。

 入れるようになってからすぐに入ったからなのか、まだ1人も座席に座ってはいなかった。

 なんだか誰もいない劇場って新鮮だよね。

「確か1番後ろだっけ? ハル大丈夫? 見えるの?」

「多分大丈夫だよ。最後のスタッフロールとかは怪しいけど」

「大丈夫じゃないじゃんか。なんであの席取ったの……」

「1番後ろの方が後ろの席の人を気にせず見られるでしょ? 僕はスタッフロールには興味ないし」

 僕は眼鏡をかけていると言っても、視力は裸眼で0.1以下。眼鏡をかけても0.8止まりだ。

 だからこんなに広い劇場だと、小さい文字なんかは多分見えない。まぁそんなことはどうでも良いんだけどさ。

 座席の横の階段を上りながら、僕はこの映画のことについて考えていた。

 どんな謎が出てくるのかとか、無事に映画の主人公より早く謎を解けるかとか色々。

「ねぇ〜どっちが早く解けるか勝負しない?」

 1番後ろの真ん中、僕らの予約した席に座った瞬間、光里が僕の左隣に座りながらそんなことを言い出した。

 その後ドリンクを一口飲んで、さらにその続きを話し始めた。

「もちろんどこで解けたかは映画が終わってから話すとして、勝負でもしないとなんだか面白くないでしょ?」

「別に良いけど、そんなに自信あるの?」

「自信がなかったらハルに勝負なんて挑まないって〜! 負けた方は1つだけ相手の言うことをなんでも聞くってことで!」

「僕は別にいいけどさ......。ちなみに、主人公が謎を解くまでに解けなかった方は無条件に負けって言うのはどう?」

「え……。いや〜どうだろ? それはちょっとやめない?」

 どっち道主人公が解いたらそこで終わりなんだからなんでそこで諦めようとしないのか……。

 っていうか、なんでこんなに動揺してるんだろう。僕になにか頼む気だったのかな?だからって僕は手加減しないけど。

「じゃあさ! どっちも解けなかったらどうするの?」

「その時は引き分けでいいじゃん。多分そうはならないと思うけど」

「なにその自信! じゃあ負けたら本当になんでも聞いてくれるの!? 本当に?」

「うん。負けたらなんでも聞いてあげる。その代わり、光里が負けたら僕の言うことも聞いてね?」

「もちろん! 負けないからね!」

 そのやり取りから10分もしないうちに映画の上映が始まった。

 僕と光里はお互いに絶対負けたくないという気持ちで必死に見ていたのか、時々お互いの顔色を確認していた。

 そして肝心の勝負の結果は……

「え〜!? あそこで分かったの!?」

「うん。ネットとかで言われてるよりは簡単だったよ? 光里は?」

「私は……その〜主人公と同時に……」

「じゃあ僕の勝ちだね?」

「ハルが反則なんだって! なんでそんなに早く分かるわけ!?」

 実際のところ、映画は普通に面白かった。

 ただ、ネットの評判ほど謎が難しくなかったと言う点に関してだけは不満がある。結構期待してたのに……。

「やっぱハルに頭使う勝負じゃ勝てないね〜」

「運動勝負じゃ勝てるみたいな言い方されても……」

「だって! ハルは簡単だったって言うけど、私検討もつかなかったんだよ!?」

「そんなこと言われてもなぁ〜」

 映画館を出てからも、光里の文句の嵐は止まることを知らないみたいだった。

 最後の方は呪いみたいにブツブツ何か言ってるし。行きのテンションはどうした本当に……。

「それで? この後はどこに行くの?」

「ん〜! お買い物行こうと思ってたけどやめやめ! ちょっと付き合って!」

「僕にやって欲しいことって、まさかとは思うけど荷物持ちだったの?」

「え? いや......そんなことは無いよ?」

「凄く嘘っぽいのはなんで?」

「知りません〜! はい行こ〜! すぐ行こ〜!」

 どうやら図星だったらしい。急に挙動不審になって必死で僕の背中を押している光里の姿を見ていれば分かる。

 別に3人でモールに行った時も、よく分からない服を色々買った挙句、僕にだけ荷物持ちをさせると言うことが何度かあった。

 嫌な予感の正体はこれだったのかとこの時ようやく分かった。

 そして、こういう感情になった時の光里が行くところなんて決まっている。

「はぁ。やっぱりここか」

「ハルにはこのぬいぐるみを取ってもらおうと思います! もちろん自腹で!」

 そう。光里が少し沈んだ気分になった時には必ず、このゲームセンターに来ると幼い頃から決まっていた。

 外観は最近リニューアルされたから綺麗だけど、店内には所狭しとクレーンゲームの台が数十台規模で置いてあるだけだ。

 このゲームセンターにはクレーンゲームしかないけれど、なにかに打ち込むことで沈んだ気分を無理矢理にでも上昇させるらしい。

 その度に僕か奏多の財布からお金をせびるのはやめて欲しいけども。

「なんで毎度僕が自腹で払わないといけないの? っていうかなにこれ」

「知らないの!? きのこ星人のぬいぐるみだって! 可愛くない!?」

「全く……?」

 光里が取って欲しいとねだって来たのは、奇妙な顔をした赤いきのこのデカイぬいぐるみだった。

 どこがどう可愛いのか全くもって分からないけど、どうせ断っても別のやつを取って欲しいとせがまれるんだろうし、仕方ない。

 せめて僕の財布からお金が出るっていう部分だけどうにかなれば良いんだけど……多分それも難しいんだろう。

 バイトをしていない身としてはかなり痛い出費になるからなるべく早く取りたいけど、あんまりこういうゲームやったことないんだよね。

「で? いくらで取れっていうのこれ」

「ハルのお財布が限界にならない程度で!」

「なんだそれ……」

「頭良いんでしょ〜? これくらい楽勝じゃん!」

「頭が良いのとクレーンゲームが上手いのは全然関係ないと思うんだけどな……」

 一旦100円を入れてみて、どんな感じか確かめてみる。

 これは一回のプレイごとに60秒間好きなようにレバーを動かすことができるタイプだ。

 動画サイトで見たけれど、こういうタイプの場合は、まず最初に奥の方の棚に飾ってある物から狙ったほうがいいらしい。

 万が一それで取れた場合は儲けものだし。

「なにやってるの?」

「取れないか。まぁそりゃそうだよね〜」

「それで取れたら苦労しないでしょ? 動画のやつはたまたまだって」

「取れたらラッキーじゃん。やりすぎたら出禁になるから注意しろって書いてあったけどね」

 その回は特に何事もなく、ただぬいぐるみを掴んで出口付近に寄せただけで終わった。

 なんか以外に簡単に取れそうだと調子に乗った結果、予想以上に手間取って1000円を消費して取る羽目になった。

 もっと少なく抑えられたはずなのに……どうしてこうなった。

「わ〜! かわいい! ありがとハル!」

 まぁこんなに喜んでもらえるなら良いか。

 相変わらずこの生物のなにが可愛いのか全くもって理解できないけど。

「じゃあ次はあれ取って!」

「まだあるの!?」

「もちろん! どんどん行こ〜!」

「いやさすがに無理だって。そんなにお金持って来てないんだから……」

「も〜! じゃあ私が出すから!」

 この時、僕は心の中で叫んだ。「最初からそうしてよ!」と。

 結局日が落ちるまでこのゲームセンターに入り浸っていた僕らは、結果的には大量のお土産をもってこの店を出た。

 その全部が光里が気に入ったよく分からない生物関連だったりする。

 もちろんこれを取ったのは全部僕だし、荷物も半分以上は僕が持っている。

 内訳を説明するとしたら、最初に取った光里の身長の半分ほどはあるぬいぐるみ。

 その後にも色違いのやつを頼まれて取ったのが2つ。その他には宇宙人みたいな人形がついたストラップを4つほど。

 オマケに、なにかのアニメのフィギュアを1個。合計8個も取らされた。

「いや〜やっぱり持つべきものはハルだよね〜。5000円も使わないでこれ全部取っちゃうんだから!」

「今日1日こき使われただけだった気がするんだけど気のせいかな?」

「気のせいじゃない? お礼でストラップあげたじゃん!」

「そのストラップもなんだかよく分からないものだったけどね!」

 まぁ、今回のデート?はこき使われただけだったけれど、充分楽しくもあった。

 毎回僕が商品を取るたびに光里は大喜びしてくれるし、ずっと横で応援してくれる。

 表面上だけ見れば僕は不満げだけど、ちゃんと楽しかった。

 今隣でウハウハの光里を見ていて、やっぱりこうやって呑気にはしゃいでる光里が1番可愛いと僕は密かに思ったりした。

「ねぇ! もうこんな時間だし送ってくれるでしょ!?」

「家まで荷物運んで欲しいだけだろ? はぁ。別に良いよ」

「さすが分かってる〜!」

「あのねぇ……」

 確かにもう19時を少し過ぎてるけど、辺りはまだ真っ暗という感じじゃない。

 どっちかと言うなら、夕焼けでオレンジ色に照らされている。まだ暗くなるとは到底思えない。

 どうせ送っていこうとは思ってたから良いんだけどさ。

「そう言えば、今日はありがとね!」

「ん? なに急に」

「いや……付き合ってくれて」

「ううん。こっちこそありがと。楽しかったよ」

「そう? なら良かった!」

 笑顔でそう言った光里の顔は、後ろからくる夕日に照らされて、いつも以上に可愛く見えた。

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