《十四話》僕たちは強い
彼らは危機的状況にあった。
平原の真ん中で寝ている時に、モンスターに囲まれてしまったのだ。
「はやく装備をつけろ。剣も持て。」
慎重な声でアツシが言う。三人はイサムを囲み、周りにいるモンスターから目を離さない。
イサムは手帳から武器、防具を取り出す。昨晩、魔法を試している内に、収納と具現化の魔法は無詠唱で出来るようになっていた。
「よし、オッケーだ。すまなかった。」
四人それぞれが背中合わせに立ち、腰を少し下げて戦闘の態勢をとる。
彼らを囲んでいるのは狼のような生き物である。続々と集まり、攻撃の機会を窺っている。その牙は不気味に光り、発達した四本の足は肉食獣特有の形をしている。
狼たちはぐるぐると威嚇している。しかし、いまだ襲いかかる気配はない。
タイミングを待っているのか?何が合図なんだ…?
緊張の糸は緩まない。こちらが動けば必ず相手は動く。これ程までに囲まれていては、相手の攻撃を迎え撃つのが的策だろう。
動かない。動けない。互いに口を聞くことのないまま、狼の攻撃を待つ。
イサムが一瞬横に目をやると、ユーリが何やら唱えている。
そうか。僕たちは魔法が使えるんだ。これだけの装備もある。
昨日学んだ知識を活かすチャンスだ。
イサムは覚悟を決めた。
…僕はいつでもやれるぞ。
遠くの方から一際大きな狼がやってくる。…あいつが親玉だ。
その狼がよく通る遠吠えをした。
瞬間、一斉に狼たちが飛びかかるッ!
「うおらぁぁッッ!」
イサムは大剣を振り回す。剣が軽い。体も、まるで自分のものじゃないみたいだ。これが、これが魔法装備の力かッ!
狼たちがフッ飛ぶ。それでも数は衰えない。
「《火炎砲》!」
ユーリが唱える。小さな炎の弾が、連続して狼を襲う。
甲高い鳴き声を発しながら、獣たちは転げ回る。それでも数は衰えない。
…まずい!
イサムは手首に噛みついた狼を叩きのめす。しかし、血が出て止まらない。
「大丈夫かッ!」
モリーが叫ぶ。
「クソッ!クソッ!オレならいける。オレならいける!」
モリーが何か言っている。何をやってるんだ!僕らを守ってくれ!
「《正義の痛み分け》!」
モリーが唱える。すると、イサムの痛みが和らぐ。
代わりに、
「痛ぇッ…!」
とのモリーの声。どうやら痛みを半分、共有しているらしい。
「全員に接続した!安心して戦ってくれ!」
ありがとうなモリー。あんたにもダメージが行かないよう、さっさと終わらせてやる!
「準備ができたぞッ!《感覚強化》!」
アツシが叫んだ。すると、敵の動きが遅くなり、急所がガラ空きになる。
いや、違う。僕らの感覚が研ぎ澄まされたんだ。狼たちの攻撃がまるでスローモーションだ。
「続いていくぞッ!《回復》!」
すごい。手首の痛みが完全に無くなった。他の二人を見ても、活力が倍増している。
僕も試してみるか。
イメージだ。イメージ…
「《攻撃強化》!」
力がみなぎる。これならいけるぞ!
思い切り狼を薙ぐ。たくさんの頭がフッ飛び、血が散乱する。
血だ……。クソッ!そんなこと気にしちゃいられねぇ!
イサムの攻撃に驚いたのか、狼たちは後退りする。
今がチャンスだ!
「《空気砲》!」
ユーリが唱える。カブールの時とは比べものにならない威力だ。
狼の身体が宙を舞い、親玉への道が開く。
「うおぉぉッ!」
イサムは獣に向かって走る。攻撃圏内に入り、その剣を―――振り下ろすッッ!
…手応えがない。
気づけば隣にそいつがいた。体が反応する前に体当たりを受け、イサムの身体が飛ばされ、倒れてしまう。
一瞬の隙もないまま、その牙がイサムを襲う!
「させるかよッ!」
モリーが盾で攻撃を防ぐ。間髪入れずに狼を押し返す。
「おらッ!」
その大きな盾で牙を弾き返す。
しかし、狼は隙をつき、モリーの首もとに噛みつこうとする!
「《本気打法》!」
アツシが錫杖で狼を打つ。その身体が宙に浮き、イサムの方へと飛ぶ。彼は一応『僧侶』である。
無防備に空を飛んでくるそれを、
「でやぁぁッ!!!」
イサムは渾身の力を使い、大剣で斬る。
その身体が真っ二つになり、彼に血の雨が注いだ。
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リーダー格を倒したことにより、狼たちは散っていった。
周りを見ると、死体がない。イサムについた返り血も消えている。
なるほど。こういう風になるのか。
イサムは納得する。『殺した』という生々しい感覚が少し和らいだ。
「いやはや、一時はどうなることかと思ったぜ。」
モリーを回復しながらアツシは言う。
「ほんとよね。それにしても、アツシ。『あれ』は無いでしょう。」
ユーリは苦笑いしながら言う。狼を打ち飛ばしたことに、理解が追い付いていないらしい。
そりゃあそうだ。どれだけ怪力だよ。
イサムも同意する。
「まあいいじゃないか。しかし、装備って凄いんだな。オレの体はどうなっちまったんだって思ったよ。」
モリーは自分の手を、まじまじと見る。
「本当だよな。僕も、これだけの力が出せるなんて思わなかった。」
「私も、とっても簡単に魔法を唱えられた。体だって物凄く軽かった。カブールと戦った時とは大違い。」
「俺もそう思うぜ。やはり杖で殴れるなんていうのは、装備のおかげだよ。力がみなぎってたんだろうな。」
アツシはカブールの時も、杖で殴ってたじゃない。
ユーリはそう言いたいのをグッと我慢する。
「なんにせよ、僕たちは強い。『ソト』で通用するんだ。」
イサムは拳を握りしめる。
「そうだな。俺たちならやれるさ。きっと魔王を倒せる。」
アツシも独り言のように、自分に教えるように言う。
彼らは荷物をまとめ、昨日に続いて『ファジメ』へと向かった。その背中は、戦人のそれだった。




