《十三話》『ソト』の世界
四人は平原のど真ん中を歩いていた。ちらほらと木々は見えるが、それ以外は背の高い草が一面に生えているだけだ。
彼らは別の世界からここ『イデア』に来てしまい、魔王を倒すという使命を背負って旅に出ている。
「モンスターが多いと言っても、そこらじゅうにいる訳じゃないんだな。もっと恐ろしいのを想像してたんだが。」
モリーが話す。重厚な鎧を着ているが、歩く速度は全く落ちない。
「本当だな。10メートル程歩いたら戦って、また10メートル歩いたら戦って、みたいに思っていたがそうでもないらしい。安心したよ。」
アツシも安堵の表情を浮かべる。
「ところでさ、イサム。私たちはどこに向かってるの?」
ユーリが尋ねる。
「ああ。まずはこの『ファジメ』の町を目指す。地図だとほら…ここだ。この地図は凄いぞ。僕らの現在地まで分かるんだ。」
イサムは教える。彼らはこの機能が無ければ、これほど広い平原など歩けなかっただろう。
「うーん。このペースだと、多分三日くらいかかるんじゃないか。」
アツシが不安な表情を浮かべる。
「まぁいいじゃん。どうせ長い旅路なんだもの。気楽に行こうよ。」
ユーリは楽しそうに言う。もちろん魔王を倒すのは早い方が良いだろうが、焦っても仕方がない。
陽が落ち、もうそろそろ暗くなる。今日、モンスターと出会うことはなかった。
…野宿になるのだろうが、完全に真っ暗になる前に準備をしよう。
「今日はここら辺で休んでおこう。」
イサムは言う。
テントや食料など何も無い。まったくの野宿である。
「暗くなる前に手帳を整理しておこうぜ。教科書も読みたいし。」
モリーが提案する。暗くなってからでは遅い。
彼らは地面に腰を降ろす。チクチクと草が肌にあたって少し痛い。持っていた手帳を出し、邪魔な装備を手帳にしまっていく。
モリーは盾と兜だけを手帳に入れる。
さすがにその鎧は邪魔だろう。皆がそう思った。
まだ少し明るい。やることも無いので教科書を読み始めた。皆黙々と読んでいる。
イサムは日常的な魔法について読んでいた。
…へぇ。なかなか面白い。小さな物を創り出す魔法。魔除けの魔法。身体を綺麗にする魔法。大きな音を鳴らす魔法…
辺りを明るくする魔法なんてものもあった。これは今すぐ必要なものだろう。イサムは試してみる。
イメージだ。イメージ…
「《照光》」
ぼうっと仄かな光が手の中に現れる。
「お、イサムやるじゃないか。それ何て言うんだ。」
アツシが尋ねるので、イサムは教えてやる。
皆が照光の魔法を口々に唱え、それぞれ成功する。
とりわけユーリの光は明るい。逆に、モリーの光は暗い。
職業と何か関係があるらしい。
日が完全に沈み、辺りは真っ暗になった。平原の真ん中で四つの光が不自然に存在している。
あらかた日常の基本的な魔法を読み終え、イサムは戦闘で使える魔法について読み始める。
…戦士―僕は勇者だが―の使う魔法は、自分を強化するのが主らしい。攻撃力を上げるもの、反射速度を上げるものと、色々ある。
魔法で強くなって、物理で殴る。これが基本の型か。
彼らがふむふむと読んでいると、ユーリが声をあげる。
「ねえ、カブールが使ってた魔法も書いてあるよ。」
他の三人は彼女の教科書を覗き込む。本当だ。《空気砲》と、《使い捨ての戦士》が載っている。
それぞれ無属性攻撃魔法、無属性召喚魔法として最も初歩的なものの一つらしい。
あれだけ苦労したのに、初歩的なのか。イサムはうろたえる。
「ちょっとやってみていい?…《使い捨ての戦士》!」
ユーリは叫ぶ。すると彼女の足元が、夜の闇の中でよりいっそう暗くなり、その闇が少し大きくなった。
そして、一つだけ小さな人型の影が這い出てきた。
動かない。意思があるのか分からないが、こちらをじっと見ている。
「えっと。なんだこれは。」
モリーが尋ねる。
「分かんないけど、カブールはこれを操ってたように見えた。ええと、こうして…」
ユーリは手を影に伸ばし、何やら念じた。
影はお辞儀をした。
「おー、すごいすごい。この子、私の考えた通りに動いてくれる。」
ユーリは嬉しそうだ。調子に乗って、ポーズを決めさせ始めた。
彼女に触発され、残りの三人も召喚魔法を唱えた。
しかし、イサムとモリーは出来なかった。アツシはできたが、少し影が薄い。
「ほらほら。こいつは凄いぞ…よいしょっ。ほうらバク転だって出来る。」
アツシは子供のように遊んでいる。出来なかった二人は羨ましそうに彼らを見ている。
「ふん。オレはもう寝るぞ。戦うのに必要な知識は、ある程度身につけたしな。」
ふてくされながらモリーは言い、ごろんと横になる。
「拗ねちゃだめだよ。でも私も眠くなってきた。そろそろ寝ようかな。」
ユーリも地面に寝そべる。
「何だよ。みんな寝ちゃうのか。おっさんはもう少し遊んでから寝ようかなぁ。」
アツシは影を作れたことが相当嬉しいらしく、飽きずに影を操っている。少年の心を失ったとは何だったのか。
「じゃあ僕も寝るよ。おやすみ。」
イサムは横になって目を閉じる。
…今日は疲れたな。色んな事が起こり過ぎた。
まさかゲームの中の世界に来てしまうなんてな。それに魔王を倒すだってさ。考えると馬鹿馬鹿しくなってきた。
少し目を開ける。月が綺麗に光っている。星が瞬いている。こっちの夜空は美しいな。吸い込まれるような空を見ていると考え事をしてしまう。
もし帰れなかったらどうしようか。魔王を倒してそれで終わりだったら?
…その時はその時でいいのかもな。あっちの世界で夢を見つけるより、こっちの方が楽で良い。考える暇も無く課題が襲いかかってくる。
いや、それも魔王を倒すまでの事か。その後の世界は、もといた世界と変わらなくなるのだろうか。エンディングの先なんざ考えた事も無いからな。
でも世界を救った勇者にはなれるんだ。退屈することは無いだろうな。
逆に、普通に戻れるのだとしたらどうだろう。魔王を倒すことで、夢を見つけるヒントが見つかるだろうか。
こんな不思議な経験をしているのに、何も無くあの面白みの無い世界に戻るのは嫌だな。
何でもいい。これを通じて何かを見つけたい。
そろそろ眠くなってきた。余計なことは考えないでおこう。僕が今すべきことは魔王を倒すことだ。まおうをたおす。
まお…う……を…………た……
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「起きて。イサム。起きてよ。」
ユーリが静かな、しかし焦りを含んだ声で彼を起こす。
何だよ。まだそれほど明るくない。もう少し寝かせてくれてもいいじゃないか。
彼がゆっくりと体を起こすと、モリーが兜を被っているのが見える。
あいつまさか兜を着けて寝たのか?変なやつだな。
「しゃきっとしろイサム。…まずいことになった。」
アツシが彼を叱る。なんなんだよ一体。どうして朝っぱらから錫杖なんか持ってるんだ。
寝ぼけた目をこすり、周りを見る。
…なるほどな。これは確かにやばい。
彼らはモンスターに囲まれていた。
読んで頂きありがとうございます!
ファンタジーは心のオアシス。皆様が、少し立ち止まることの出来る小説になれれば幸いです。
これからもよろしくお願いします!




